私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  死

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 しばし意識を失い、また目を覚ます。
 夢なのか現実なのか、謙信にも分からない。

 僅かに開く瞼から外を覗くと、大概姉の綾が看病してくれていた。
 たまに居なくなると、二人の侍女か、他の者に代わっている。
 おそらく綾が疲れて休んでいる時、代わっているのだろう。

 身体が動かないが、頭は動く。
 正しく言えば、物を考える事しか、今の謙信には出来ないのだ。

 まさかこのような大事な時に中風とは、自分に呆れてしまう。
 しかしふと、疑問に思う。
 本当に中風なのか?
 まさにこれから大事を為すという時に、あまりにも都合悪く中風になった。

 一服盛られたのでは?
 だがそうなると、誰に?という疑問が浮かぶ。

 普通に考えれば北条氏政という事になるだろう。
 北条にはお抱えの忍び、風魔衆もいる。
 だが少し、妙な気もした。

 もし氏政が遠山康光の策に気付いたのなら、長綱を処断すれば良い。
 謙信に一服盛る必要はない。
 それに風魔衆を使い一服盛るなら、もっと以前にすれば良い。
 今この時なのはおかしい気がする。

 春日山の城には加藤段蔵がいる。
 特に謙信は段蔵に何か命じている訳ではない。勝手に住み着いているという感じだ。
 しかし入り込んだ忍びの始末ぐらいは、やっているだろうと思っている。
 その段蔵がやられたという事になる。

 段蔵は以前、己の事を関東一の忍び言い、風魔衆には遅れを取らないと言った。
 それがやられたというのが、妙な気がする。

 風魔の忍びに優れた者が生まれたのか、或いは段蔵がただ油断しただけなのか。


 ふと謙信は、段蔵の言葉を思い出す。
 段蔵は己の事を関東一の忍びと言った。謙信が天下一ではないのか?と問うと、上方に自分より上の忍びがいると答えた。
 その者は忍びの公方、自来也というのだと。

 ではその自来也が一服盛ったと言うのだろうか?

 謙信の身体が冷たくなる。

 その自来也にやられた段蔵の死体が、天井裏か床下に転がっている。
 そんな光景を謙信は頭に描く。

 ならその自来也を、誰が送って来たのか?

 上方にいて謙信を葬りたい者。
 そんな者、一人しかいない。
 織田信長。

 謙信が邪魔になり、最強の忍びを送り込んで来たのである。

 納得出来る話だ。



 近くで声がする。
「・・・・・・・今、なんと申されました?」
 そう言って誰かが、謙信の身体を起こす。
 無理矢理瞼を少しだけ開けると、そこに女が一人いた。
 綾ではない。
 直江景綱の妻で、山吉豊守の姉だ。
 綾が休んでいる時、代わりに看病をしてくれている。

 その女が、ふんふん、と頷く。
 何をしておるのだ、此奴は?
 勿論、謙信は言葉など発することは出来ない。
 それなのに何かを喋っているような仕草を、景綱の妻はしている。

「分かりました、お殿さま」
 景綱の妻は大声を上げた。
「お殿さまのお言葉にございます」
 周囲に向かって景綱の妻は告げた。
「跡地ぎは喜平次さまであると」
 おおっ、と声が上がる。
 僅かな視界から周囲を見ると、景虎に景勝、そして直江信綱や斎藤朝信らがいた。

 は?は?は?どういう事だ?
 謙信は混乱する。
 何を言っておるのだ?この女?
 身体を動かそうとするが、全く動かない。
 どうなっている?この女、織田の回し者なのか?
 混乱しながら、同時に謙信の意識が少しずつ薄れていく。

 その時、薄れゆく謙信の視界の端に、何が映った。
 笑っている。
 景虎も景勝も、信綱や朝信らも、皆戸惑っているか硬い表情なのに、一人だけ微笑んでいる者がいた。
 景勝のすぐ背後に控えている少年。
 
 たしか・・・・・彼奴は・・・・喜平次の小姓・・・・いつも喜平次と一緒にいる・・・・名はたしか・・・・。
 ゆっくりと謙信の意識は失われていった。
 名は・・・・・樋口・・・与六・・・・。






 カクヨムに連載中の徳川家康編、百二十二話に続く。



 
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みんなの感想(1件)

ワナリ
2020.09.14 ワナリ

私も上杉(長尾)勢が好きですが、景虎の生い立ちからの微妙な内心が、淡々としながら突き刺さる様に描かれ引き込まれます。信用できる男と信頼できる男との違いは、特に刺さりました。

解除

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