私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  中風

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 むっ?
 目を覚ました謙信は、違和感を持つ。
 身体が動かないのだ。
 ど、どうした?
 声も出ない。
 えっ?えっ?と驚く。
 何より目の前が真っ暗だ。

 なんだ?何が起きた?どういう事だ?
 混乱するが、身体は動かなし、声も出ない。

 どれほど時が経っただろうか、少しだけ物が見えるようになった。
 
 姉上・・・・?
 薄く開けた視界の先に、姉の綾が青い顔をして座っている。
 何事です、姉上?
 必死に声を上げようとするが、何も出ない。
 
 なんなんだ一体?
 
 そうこうしていると、
「出来ました」
 と言う男の声が聞こえる。

 ・・・・・・・?
 意味が分からず謙信が戸惑っていると、身体がゆっくり起こされる。
 狭い視界の端に男がいて、その男と綾が謙信の上半身を支え起こしていた。


「さ、これを・・・・」
 男が広げた紙を、謙信の口に持って行く。
 そのまま口の中に何かを入れる。
 その後、綾が水を流し込む。

「これで・・・・治るのですか?」
 綾が不安そうな顔で、男に問う。
 男は首を振る。
「中風はその・・・・薬で直ぐに治ると言うものではなく・・・・・その・・・・」
 医師なのだろう、男は言いにくそうに答える。

 中風・・・・・。

 謙信は大声を上げそうになる。しかし当然、上がらない。
 
 あああああっ、と心の中で呻きながら、謙信は綾の方を見る。
 綾は少し眉を寄せ、これ、と誰か呼ぶ。
 侍女が二人、ススススッと近づいてきた。
 その痩せ過ぎと太っちょの侍女は、布団を払い、謙信の着流しの袖を捲り上げる。

 はぁ、と謙信はため息を吐く。
 正しく言えば、吐きたいが、ため息も出ない。

 二人の侍女は下の世話をしているのだ。
 その手慣れた風と綾の表情から、もう何度もしているらしい。



 謙信は情けなくなる。

 今や上杉謙信と言えば、越後の龍と恐れられる天下の名将。
 それが糞を垂れ流し、人に拭いてもらっているのだ。
 それも姉の目の前でだ。

 姉上・・・・・申し訳ありませぬ。

 綾の顔を見つめながら、謙信は心の底から謝る。
 看病してくれている事だけではない。

 中風と言う病気は、原因が分かっている。
 酒だ。

 謙信はよく呑む。
 毎日呑むし、戦さ場でも呑む。

「もう若くないのですから、少しは控えなされ」
 近頃よく、綾にそう言われていた。
 しかし謙信は、
「男の子たるもの、戦さと酒で死ねるなら本望です」
 と応えてやめなかったのだ。
 それでも更に綾が何か言えば、
「呑まずに十年生きるくらいなら、呑んで明日死にます」
 と大口を叩いていたのだ。

 それがこの始末である。

 はぁ、と出ないをため息を吐き、まことにすいませぬ、と心の底から謙信は綾に謝罪した。
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