下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

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19 全員助ける

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 騎士が動けば、客席の全員が立ち上がって逃げ惑う。

「どこの騎士団だ! ここは私の所有地だ。誰の許可を得て、入っている! チサレバの騎士団は何をやっているんだ!」

 唾を飛ばす勢いで、騎士団に向かってオーナーが叫んだ。

「騎士団は有事の際に、あらゆる状況への介入が許されている。この国で人身売買など許さない! 一人も逃すな!」

 ジーンさんが高らかに叫ぶと、騎士たちが剣を掲げた。

 ジーンさんのことは気になるけれど、女性たちとローたち家族の結界を保ちつつ、部屋全体を覆う結界をさらに張った。誰もこの部屋から出さない!
 舞台袖から武装した人たちが姿を現す。

「フードの男を生捕りにして、従者や騎士は斬り伏せろ!」

 オーナーが叫ぶと、舞台から全員が飛び降りる。
 ライリーさんとクロエさんが、ジーンさんを庇うように前に立った。クロエさんはもう片方の靴も投げつける。それは剣で弾かれた。

「これで動きやすくなった。ライリー、剣を奪えるか?」
「多分、いける」

 振りかぶられた剣に臆することなく、クロエさんとライリーさんは屈んで足払いをする。動きがシンクロしていた。
 ライリーさんは崩れかけた相手の手首を掴んで、握り潰すかのように圧迫する。呻いて落とした剣を、すかさずクロエさんが拾った。

 騎士が数人、ジーンさんを守るようにして、剣を構える。
 そろそろ女性たちのところに戻らなければ。私が結界内にいなければ、時間経過で解けてしまう。戦闘が激しい場所を避けるために辺りを見渡した。

 舞台の下では剣がぶつかり、至る所で振り回されている。
 どうしよう。動けずに迷っている間に、女性たちの結界が壊れてしまった。ジーンさんが気付いて、女性たちを庇うように前に出る。女性たちの悲鳴が響き渡った。
 魔法の使えないジーンさんは自分の身体を盾にした。

 ジーンさんに向く剣を、クロエさんが割って入って受け止める。クロエさんが剣を弾き飛ばし、剣は床を滑っていった。

 よかった、怪我がなくて。
 迷っている暇はない。自分に速度強化と防御力強化の身体強化魔法をかける。靴を脱ぎ、助走をつけて力一杯踏み込んで、舞台から飛んだ。

 人を飛び越える。上手く着地ができるはずもなく、イスに身体を打ちつけた。防御力を上げても、痛いものは痛い。よろめきながら、床に手をついて、女性たちを守るために結界を張り直した。

「アメリア、無茶をするな!」
「ジーンさんだって、無茶をしました」

 叱られてしまったけれど、私がもっと早く結界を張り直していたら、ジーンさんが自分を危険に晒すことなんてなかった。

「ジーンさんも結界の中にいてください」
「僕はここにはいられない。彼女たちに配慮してほしい」

 オークションにかけられた女性たちの瞳は、怯えの色で染まっている。
 オークションを行っているのは全員男性だ。恐怖の対象になってしまうのかもしれない。ジーンさんは全員を助けたいと思っているけれど、女性たちからしたら自分を買った人間だから。

 身体を盾にしてまで守ろうとしたジーンさんのことを思うと、針を刺されたように胸がズキズキと痛む。

「アメリア、僕にも速度強化魔法はかけらるか?」
「できますが、身体の制御ができないと思います」

 私ですら速く動けても、止まることは難しい。

「構わない。司会者から、ローとチーの両親の檻と首輪の鍵を奪いたい」

 二人の両親は、舞台の真ん中で檻に入れられて、硬い銀の首輪を付けられている。檻越しにローとチーを抱きしめているが、何の隔てもなくできるようにしたい。

「わかりました。私もお手伝いします」

 ジーンさんに手をかざして、速度強化の魔法をかけた。

「クロエ! 結界はあるが、また壊れてしまうかもしれない。彼女たちは君に任せる」

 ジーンさんが叫ぶ。クロエさんは対峙していた相手を斬り伏せて、剣を掲げた。

「お任せください」

 クロエさんの返事を聞いて、私とジーンさんは駆ける。司会者は舞台の袖で震えていた。彼は戦えないようだ。私とジーンさんでも鍵が奪えるかもしれない。

 客席の間を走り抜ける。舞台への階段を駆け上がり、ジーンさんはトップスピードのまま、司会者に飛びかかった。二人が転がって、舞台後方の壁にぶつかって止まる。

「ジーンさん、大丈夫ですか?」
「僕のことは気にするな。鍵を探してくれ」

 ジーンさんは司会者の背後から腕で首を、足で腰を締め上げた。私は司会者の服を探る。鍵を早く見つけなきゃ。

「僕の魔法を制御している、ブレスレットの外し方は?」

 ジーンさんは腕に力を込めたようだ。司会者が呻いた。
 上着の内ポケットに鍵を見つける。

「ありました!」
「すぐに両親を解放してくれ。こいつから話を聞きたい。手を緩めても逃げられないように、できるなら僕に結界を張ってくれないか?」
「わかりました」

 ジーンさんと司会者を結界の中に閉じ込める。
 眩暈がして、私は頭を押さえた。短時間でこんなに魔法を使ったことはない。力を使いすぎたのかもしれない。

 奥歯に力を込めて自分を奮い立たせた。絶対に全員をここに留める。
 ふらつきながら、中央の檻にたどり着いた。

『ローもチーも少し離れて。お父さんとお母さんをここから出すから』

 二人が涙で腫らした顔で私を見上げる。名残惜しみながら後ろに下がった。
 檻の鍵を開ける。両親がすぐにローとチーをキツく抱きしめた。

『すみません、首を見せてもらってもいいですか?』

 両親はローとチーを膝に乗せた。首が見やすくなる。鍵穴に鍵を差し込んで回すと、ガシャンと音を立てて首輪が床に落ちた。

『アメリアありがとう! お父さんとお母さんを助けてくれて』

 ローとチーが私に飛び付いた。受け止めきれずに、後ろに倒れる。

『どうして人間なのに、私たちを助けてくれたんですか?』

 不安や恐怖が勝るだろうけれど、遠慮がちに声をかけられた。
 私はローとチーから手を離して起き上がる。すぐに二人の身体に腕を回した。

『こんなこと、あってはならないことだからです。それに、私はローとチーの友達です』
『わたしとアメリアお揃いなの』

 チーが自分の頭のリボンと私のドレスを指す。

『ライリーとジーンとクロエも友達だよ』

 ローが両親に飛びついて声を弾ませた。

『……そうか、友達がたくさんできてよかったな』
『人間は全員が、怖い人じゃないのね』

 両親はローとチーと抱きしめ合う。

『すみません、もう少しここにいてください。結界の中は安全なので』

 客が多くて、騎士の手が回っていない。武装している人は着々と捕らえている。

 部屋を覆っている結界に蜘蛛の巣状のヒビが入った。後方にある出入り口の方だ。外から破ろうとしている。

 私が力を使いすぎたから、強度が弱くなった? 考えている暇はない。張り直さなければ。
 絶えず外から攻撃を受け、結界のヒビが広がっていく。

 手を床についた。集中して範囲を広げようとするが、部屋を覆えるほどの大きさの結界が作れない。
 どうしよう、壊れちゃう。誰も外に出してはいけないのに。

「ジーンさん、部屋の結界がもちません」
「僕がなんとかする! 僕の結界と、新しく作ったものを消してくれ。出入り口に飛ぶ!」

 ジーンさんは司会者に魔法を制御されるブレスレットを外させ、手首を擦った。
 すぐに結界を解く。ジーンさんが辿り着くまで、壊れないで!

 ジーンさんは風を纏い、空を飛んで出入り口の前に着地した。
 ジーンさんは私に向かって何かを叫ぶ。怒号や悲鳴や剣戟音でかき消されてしまい、私には何を言っているのかわからない。

 ジーンさんは出入り口に向き直り、ヒビ目掛けて炎を噴射する。結界はあっけなく壊れた。
 呆然としていると、多くの騎士が入ってくる。騎士たちは次々に客を捕らえた。
 増援だったから、ジーンさんは結界を壊したのか。

 これでもう大丈夫だ。オークションにかけられた女性たちも、ローたち家族も助かる。
 気が抜けたのか、力を使いすぎたのかわからないけれど、私はその場に倒れた。意識は遠のいていく。
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