下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

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37 お守り

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 一人目に治癒魔法をかけると、ジーンさんの炎の竜巻が消えた。
 魔力切れかと心配したけれど、あと数人だからライリーさんに任せるようだ。
 ライリーさんはかわしながら剣を振って、一人ずつ地面に沈めている。

「僕はクロエの方に行く」

 クロエさんに目を向けると、まだ同じ盗賊と戦っていた。命令をしていたし、クロエさんと戦っている盗賊がボスなのかな。

 剣がぶつかり合い、クロエさんが力負けしてバランスを崩す。好機とばかりに、盗賊は踏み込んだ。クロエさんは地面に手を付いて、盗賊の足首を蹴り飛ばす。そして地面に這いつくばった盗賊の手の甲に剣を突き刺した。
 激しい叫び声が響き渡る。

「手を無くしたくなければ、おとなしくしていろ」

 剣は手を貫通して地面に突き刺さっており、簡単には抜けない。
 クロエさんはジーンさんに鋭い視線を向けた。

「私は騎士です。私が負ければ、守るべき人が危険に晒されることを知っています。だから私が負けることは、あってはなりません。貴方が私に任せてくれたのではありませんか? 守るべき人に助けられる騎士なんて、いてはなりません!」

 クロエさんは徐々に、泣き出しそうな声で叫ぶ。
 守るべき人? クロエさんは私とライリーさんを守るために、一緒に旅をしているんじゃなかったの?
 ジーンさんはクロエさんに近付いた。

「僕は君が強いことを知っている。君の立場も理解している。僕は仲間として、クロエを助けたかった。君の力を軽んじたわけではない」

 ジーンさんがクロエさんの肩をポンと叩く。クロエさんは何も言わずに深々と頭を下げた。
 ライリーさんが最後の一人を薙ぎ払い、全ての盗賊を拘束して治癒魔法をかけた。緊張が解けて、肩の力を抜く。

 ガマさんは一人の執事さんに、一時間ほど馬で走った先にある街へ、自警団を呼びに行かせた。
 私は盗賊のボスと目線を合わせる。

『どうして、あんなに酷いことをしたんですか?』

 木に縫い付けられていた、エルドさんとジャックさんを思い出して下唇を噛んだ。

『酷いこと? 的当てのおもちゃに、矢を投げていただけだろう』

 ボスは片方の口角を上げ、歪な笑みを浮かべる。
 当たり前のことのように言われて、視界がぼやける。目に涙が溜まるけれど、溢さないように必死に堪えた。

『おもちゃが壊れた時に新しいおもちゃが見つかった。新しいのに乗り換えるのも当然だろう』

 話し合えばわかり合えると思っていたのに、ボスの言葉をどうしても理解ができなかった。

『あのまま続けていたら、お二人は死んでいましたよ。なんとも思わないんですか?』
『おもちゃは壊れたら新しいものに変えるだけだろう。ペットだったら多少は悲しんだかもな。人間なんてペット以下なんだよ! ああ、お前は治癒魔法が使えるんだよな。ペットにしてやろうか?』

 ボスが高らかな声で笑い、耳を塞ぎたくなるほど不快だった。

「これから自警団がくる。放っておけ」

 ジーンさんに耳を塞がれて、盗賊たちから距離を取った。
 馬車に近付くと、エルドさんとジャックさんにライリーさんが話しかけていた。

「二人はどうして魔族の国にいるんですか?」
「魔王を倒して、自分の腕を証明したかった」

 自嘲気味に語るエルドさん。
 ガマさんが城で世間話をした時に聞いたことは、本当だったんだ。
 ジャックさんは震える身体を抱きながら話し始めた。

「だが、城に入ることすらできなかった。恐ろしく強いおっさんにやられた。そのおっさんはなぜか俺たちを城から離れたところに連れて行き、治癒魔法で傷を治した。二度と来るな、と城に戻って行ったが、もう俺たちが近付くことはない」

 お父さんだ。やっぱりお父さんは生きているんだ。
 もっと聞きたくて、前のめりになってしまう。

「他にその人に関することは知らないですか?」

 私の顔が期待に満ちているからだろうか、二人は顔を見合わせた後に、ポケットから小さな巾着袋を取り出した。

「おっさんが持っていた。人間でも強すぎたから、魔王の部下なんだろうと思って、記念にくすねてきた」

 巾着袋はカラフルな布で作ったはずなのに、汚れて元の色がわからないほど黒くなっていた。
 お父さんはずっと持っていてくれたんだ。
 涙が頬を伝い、自分で止めることができない。拭っても拭っても溢れてくる。

「その巾着袋をくれないか?」

 ジーンさんが私の肩を抱いてくれた。

「それ、お父さんに作ったお守りです」

 私が弟妹と作ったものだ。自分のポケットから、私が作ってもらったお守りを見せる。

「同じものです。お願いします」

 懇願すると、エルドさんとジャックさんは顔を見合わせて相談を始めた。

『それでは、二頭の馬と交換ではいかがですか?』

 ガマさんがニッコリと目を細める。それを伝えれば、二人はお守りを私に向けた。
 受け取って私のものとお父さんのものを、大事にポケットへ仕舞う。

「二人は馬に乗れるのか?」

 クロエさんが聞けば頷いた。
 元々馬で来たが、盗賊に捕まった時に、馬は食べられてしまったらしい。帰りの足ができて、エルドさんとジャックさんは喜んでいた。

『ガマさん、ありがとうございます。でもいいんですか? 二頭も馬を渡して』

 ガマさんによくしてもらっても、私は返せるだけのお金がない。

『いいんです。うちの執事たちだけでは、盗賊にやられていました。それにね、これは先行投資なんです。貴方たちが平和条約を結べば、ゆくゆくは人間の国とも商売できますよね。その時にはわたくしの会社を、ご贔屓にして頂きたいです』

 ガマさんが差し出す名刺を受け取った。ジーンさんが私に手を向けるから、名刺を乗せる。

『かならず、れんらくする』

 ジーンさんが笑うと、ガマさんが笑みを深くする。

『それと、わたくしは美人に目がないと言いましたよね。とくにね、笑顔が好きなんです。アメリアさんが笑ってくださることが、一番の報酬ですよ』

 濡れた目元をゴシゴシと拭って、感謝の気持ちを込めて思いっきり笑顔を見せた。ガマさんは満足そうに頷く。
 エルドさんとジャックさんは馬に跨るとルスアトロ・マリメーラ王国へ向けて駆けていった。

「自警団が来るまで、まだ時間がかかりますよね? 待ちますか?」
『先に進みましょう。身動きが取れないように縛っていますし、自警団に任せます。クロエさんとライリーさんも馬車に乗ってください。馬を二頭渡してしまいましたので』

 ガマさんが馬車に乗る。私たち四人は、もう一方の馬車に乗った。
 車輪がゆっくりと動き出す。

「アメリアは疲れていないか?」

 クロエさんが心配そうな眼差しを向ける。私ははっきりと頷いた。

「魔族は人間よりも少ない力で治癒できるんです。だから平気です」
「魔王の城はもうすぐだ。いまのうちに休んでおこう」

 ライリーさんの声でみんなは瞼を下ろした。
 私はお父さんに会える、と気持ちがはやり、眠れそうにない。
 早く会いたい。会っていっぱいお話がしたい。

 ……まずは何を話そうか。
 あっ! バートのことかな。お父さんはバートが生まれたことを知らない。驚くし喜ぶはずだ。
 馬車に揺られながら、ずっとお父さんとの再会を待ち望んでいた。
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