下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

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46 クロエ失踪

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 夜になり、列車は止まる。王都までは辿り着けず、途中で一泊することになった。
 あまり大きな街ではなく、宿屋が一軒しかなかった。

 私はクロエさんとの二人部屋。室内も質素で、ベッドが二つとテーブルが一つあるだけ。
 私は先にシャワーを使わせてもらう。身体が綺麗になり、さっぱりした。

 私が出ると、クロエさんもすぐにシャワー室へ入る。
 ドリンクを飲んで一息つき、タオルで髪を乾かし終わる頃、シャワー室から大きな音が聞こえた。
 驚き過ぎて身体が跳ねる。

 クロエさんが足を滑らせて、転んじゃったのかもしれない。
 心配になり、私は扉をノックして声をかける。

「クロエさん? 大丈夫ですか?」

 しばらく待っても返事はない。脱衣所の扉を開ける。シャワー室から聞こえる水の音で、クロエさんに私の声が届かなかったのかもしれない。
 私はシャワー室の扉を叩いた。

「クロエさん? すごい音がしましたけれど、大丈夫ですか?」

 何も返事がなければ、水音以外も聞こえない。不審に思って「開けますね」と声をかけてから扉を引いた。
 クロエさんはおらず、シャワーが流れているだけだった。

「え? クロエさん?」

 脱衣所にはクロエさんの服がある。……クロエさんが消えた。
 クロエさんはシャワー中に、裸でどこかに行った? 私に黙って?

 そんなわけないよ。狭い部屋だから、脱衣所からクロエさんが出てきたら、私が絶対に気付いていた。クロエさんは攫われた?

 シャワー室を見渡すけれど、私が使った時と何も変わらない。
 抜け道があるのかな。クロエさんを助けなきゃ。シャワー室を調べようと意気込むと、部屋の扉がノックされた。

 驚きすぎて心臓が飛び出そうになる。動悸は激しく、背中を嫌な汗が伝った。
 私は音を立てないように、扉に近付く。
 扉の穴から確認すると、ジーンさんがいた。急いで扉を開く。

「ジーンさん、クロエさんがいなくなってしまいました。クロエさんを助けなきゃ」

 ジーンさんの二の腕を掴んで、息を荒げながら話した。ジーンさんは「落ち着いて」と私の肩を掴む。

「何があったか教えて」

 私を落ち着かせようと、ジーンさんは穏やかな声で視線を合わせてくれた。
 私は何度も小さく頷く。
 ジーンさんを部屋に招き入れ、ことのあらましを話した。

「そんな短時間でクロエを連れ去るような芸当ができるやつに、二人で挑むのは危険だ。ガイラとライリーを呼びに行こう」
「私はここで待っています」
「一人でここに残るのは危険だ」
「大丈夫です。私には結界があります」

 もしクロエさんが自力で逃げてきて、この部屋に私がいなかったら、私も連れ去られたと思うはずだ。クロエさんは私を助けようと引き返すに違いない。だから私はこの部屋から出てはいけない。
 真剣な表情で見つめれば、ジーンさんは奥歯を噛み締めて小さく頷いた。

「すぐに戻る。五回ノックをしたら僕だから、部屋を開けてくれ」
「わかりました」
「大丈夫だ。ここにはたくさんの騎士がいる。すぐにクロエは見つかる」

 ジーンさんは私を安心させるように、優しく笑う。
 私は頷いて床に手をついた。自分の周りに結界を張る。それを確認すると、ジーンさんは部屋を出て行った。

 クロエさん、無事でいて。
 ゴトゴトと音が聞こえて、息を飲む。耳を澄ませると、シャワー室からではなく、上から聞こえる音だと気付いて、安堵の息を吐き出した。
 しばらくすると、扉が五回ノックされた。私は結界を解いて扉を開く。

「アメリア、クロエは?」

 ライリーさんが部屋に飛び込んできて、私は首を振った。

「すみません、わかりません。クロエさんは服も着ていないし、剣も部屋に置いたままで」

 ライリーさんがクロエさんの剣を掴む。ジッと見つめて力強く頷いた。

「絶対にクロエを助ける」

 ライリーさんは怒りに燃えたような瞳を見せた。ライリーさんは穏やかな人だ。
 クロエさんがオークションの時に、囮になろうとして、ライリーさんが怒鳴って驚いた。その時とは違い、ピリピリとした空気を纏い、静かに怒っている。

「まずはシャワー室を調べよう。人が通れる場所がどこかにあるはずだ」

 お父さんが出しっぱなしのシャワーを止める。壁を念入りに調べるけれど、抜け道のようなものは見つけられなかった。

「どういうことだ?」
「もう通れそうと言えば、通気口くらいしかありませんね」

 ジーンさんに聞かれ、お父さんは天井を指した。

「いや、見落としているはずだ。クロエを抱えて、通気口に押し込むなんてできる時間はなかっただろうから。アメリアはどう思う?」

 必死に思い返す。

「私が大きな音を聞いてからは、あまり時間は経っていないです。でも、クロエさんがシャワー室に入ってすぐだと、わかりません」
「クロエがなんの抵抗もなく連れ去られるとは思えない。大きな音がした時だと俺も思う」

 私の言葉にライリーさんが口元に手を添えて答えた。
 お父さんはもう一度、シャワー室の確認をする。私とジーンさんとライリーさんで、念の為に脱衣所も調べた。やっぱり何も見つけることができない。

 上からまた音が聞こえた。今度はしばらく続く。
 みんなも音が気になるのか、視線を天井に向けている。

 通気口が勢いよく開いた。
 クロエさんかと思ったら、男の人が落ちてきた。宿の制服を着ている。突然降ってきた男性を、私たちは呆然と見つめた。
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