下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

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49 帰宅

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 駅を出ると、名残惜しく思いながらも手を離した。前を向いてお城に向かって進む。
 途中で下町に向かう道で、足を止めそうになった。

「もうすぐ帰れるよ」

 ジーンさんは私の気持ちを察知して、優しい言葉をくれる。
 お城で平和条約の報告をしたら、お父さんと家に帰るんだ。
 ジーンさん、今までありがとうございます。心の中で呟く。

 活気あふれる平民街と、煌びやかな貴族街を抜けると、お城に着いた。
 旅を始めるときにも思ったけれど、大きすぎててっぺんが見えない。

 衛兵が扉を開けてくれて、オドオドしながら入る。二回目だけれど慣れない。ライリーさんも居心地が悪そうだ。

 謁見の間に続く扉の前で、私たちが前に出され、騎士がずらりと後ろに並ぶ。
 重厚な扉が開き、謁見の間に足を踏み入れた。

 正面にある階段の上に、玉座に座る王様と王妃様。その傍に控える第一王子様と王子妃様。本来なら、ジーンさんもあそこに並んでいるんだ。
 全員が足を止めて跪く。

「ご苦労だった。足をつかなくていい。楽にしなさい」

 王様の言葉で立ち上がった。王様はゆっくりと立ち上がり、階段を下る。私たちと同じ高さまで降りてきた。

「よく無事に帰ってきた。平和条約締結の貢献に感謝する」

 王様が頭を下げて、場が騒然となった。
 王様は神のような存在だ。頭を下げるなんて前代未聞のこと。

「王ではなく、この国の民として礼を言う」

 私たちと同じ高さで話している。同じ人間として、言葉をくださった。
 動揺のあまり頭が真っ白になって、全然耳に入ってこない。

 王様がお父さんと、平和条約について話しているようだ。
 魔族もこの国で移住や就業を積極的に受け入れる、というようなことを言っていた。

 話が終わったようで、全員が退室する。私も早足で扉に向かおうとするけれど、ジーンさんに腕を掴まれた。
 驚きすぎて、身体を跳ねさせる。

「僕、アメリアと結婚するから」

 ジーンさんは王族の皆さんに向かって宣言した。
 しんと静まり返る。私は反応が怖くて俯いた。

「アメリアが好きだよ。僕と結婚してください」

 プロポーズと結婚宣言が逆などとつっこめる人はおらず、ジーンさんは私の手を掬って片膝をついた。
 私は俯いたまま首を振る。

「できません、ごめんなさい」

 身体がカタカタと震えた。平民が王族になるなんて、やっぱり無理だ。
 ジーンさんが立ち上がった気配がした。

「申し訳ございません。アメリアも戸惑っているのだと思います。落ち着いたころに、また返事をさせていただけないでしょうか?」

 お父さんが私の肩を抱いて、ジーンさんに頭を下げる。
 ジーンさんは小さく息を吐いた。

「そうだね。アメリア、僕は絶対に君と結婚するし、すると言うまでしつこいからね」

 ジーンさんの明るい声が聞こえるけれど、顔を見ることができなかった。
 お父さんに支えられて退室する。

 帰る前に報奨金を受け取るけれど、全く気持ちは晴れなかった。最初の目的はこれだったのに。家族にお腹いっぱい食べさせられると旅に出た。お金の詰まった重たい袋は、お父さんに渡す。




 家に向かいながら、お父さんと話をした。

「聞いてもいいか? アメリアはユージーン殿下のことをどう思っているんだ?」

 お父さんは私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれる。
 私はジーンさんが好き。でも、気持ちを閉じ込めることしかできない。
 私が黙って俯くと、お父さんの大きな手が頭を撫でる。穏やかな声が降ってきた。

「俺しか聞いていない。アメリアの素直な気持ちが知りたい」
「……私はジーンさんが好き。でも、ジーンさんがいいと言っても、王子妃になんてなれない。私は好きになれて幸せだった」

 短期間だけど、ずっと一緒に旅をして、濃い時間を過ごした。いっぱい助けてもらったし、辛いこともあったけれど、楽しいこともたくさんあった。
 本心を吐露して、涙が溢れないように下唇を噛んで耐える。

「親としては、本当に好きになった人と一緒になって欲しいがな」

 それには私が王族になるしかない。どう考えても無理だ。




 家の前に着き、沈んだ顔を見せないように頬骨を上げる。

「ただいま」

 扉を開いて声を上げると、中から全員が駆けてきて、家が縦揺れを起こした。
 私と並ぶお父さんを見て、お母さんは飛びついて泣きじゃくった。亡くなったと聞かされていたお父さんが、五年ぶりに帰ってきたんだ。

 お母さんの後から、上三人の弟妹がお父さんに抱きつく。お父さんは全員を受け止めて、キツく抱きしめた。

 幼い三人は私にしがみつく。お父さんのことを覚えていないから、不思議そうな顔で見ていた。バートにいたっては、お父さんに初めて会う。

「お父さんだよ。抱っこしてもらお」

 三人の背を押して、お父さんの方へ歩かせる。

「おいで」

 お父さんの目には涙が滲んでいる。人見知りしているのか、もじもじとして私の後ろに隠れた。
 お母さんに一人を抱かせ、私は片手で一人ずつ持ち上げた。この重みが懐かしくて愛おしい。
 そのままお父さんにひっついて、全員で抱き合った。

 近所の人たちも集まってきて、私とお父さんの帰りを喜んでくれた。
 下町の塗装の剥がれている集会所に集まって、料理を持ち寄りパーティーをした。
 下町の人たちの温かさで、楽しく過ごすことができた。

 でも私の心の真ん中には、ジーンさんがいる。
 そんなに簡単に忘れることなんてできない。忘れられるような人じゃない。
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