ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第一章 癒しの矢

13 楽しい食事

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 道具屋に着くと、薬草採取のお礼に、シーナが夕食を作ってくれると言ってくれた。

 シーナが夕食の準備をしている間に、チアとマイルズと受付で依頼終了の報告をして、報酬をもらう。

 報酬はあまりもらえないと聞いていたが、シーナと過ごせて夕食に手料理まで振舞ってくれると言うのだから、じゅうぶん得をしている。

「早く戻ろう。シーナのご飯が待ってる」

 チアはソワソワと落ち着かない。シーナの言う通り、本当に食いしん坊だ。

「まだできてないと思うよ。マナちゃんもいるから五人分を作るんでしょ? こんな短時間じゃ無理だよ」

 マイルズの言葉にチアは急ぐのをやめた。いつも通りの歩速で進む。
 道具屋に着くとマナが店番をしていて、店の奥に通された。
 ワンピースに着替え、エプロンを付けたシーナが振り返る。

「おかえり、もうちょっとかかるから座って待ってて」

 シーナは愛嬌たっぷりの笑顔で出迎えてくれた。セリフも同棲を妄想できて良かった。すぐ近くに、チアとマイルズもいるけれど……。

「手伝うことある?」

 マイルズがシーナに近付くが、シーナは首を振った。

「大丈夫だよ。マイルズくんは朝からお弁当も作ってくれて、大変だったでしょ? 夕飯は私に任せて座ってて」

 俺たちはダイニングテーブルに着く。

「シーナのご飯楽しみだね」

 チアが膝に乗せたルルを撫でると、同意するようにルルが鳴く。

「チア、ドリンク出して」
「お腹が減りすぎて動けない」
「食べた後も動かないでしょ」
「食べた後はお腹がいっぱいすぎて動けない」

 もう、とシーナは呆れたような声を出す。

「俺がやるよ」

 キッチンに立つシーナの隣に向かう。料理なんて全くできないが、好きな子と一緒にキッチンに立っているというだけで、心が弾んだ。

「カイくんありがとう。グラスはそこの棚にあって、お水とミルクがあるから両方持っていってくれる? 飲みながら待ってて」

 全てをダイニングテーブルに置くと、小皿を出したチアがミルクを注いだ。ルルは夢中で小皿を綺麗にしていく。

「今日も大活躍だったね。ありがとう」

 チアがルルを優しく労う。ルルは目を細めて、チアの手に擦り寄った。

「チアちゃんとルルはいつから一緒にいるの?」
「七歳の時だよ。完璧に力をコントロールできるようになって、ヴィクトリアさんが使い魔のことを教えてくれたの」
「チアちゃんはどうして使い魔を絵にしたの?」

 チアは気恥ずかしそうに口を開く。

「小さな頃は、ヴィクトリアさんと草原に家を建てて住んでいたって言ったでしょ? 遊ぶ相手がいないから、一人で遊ぶってなると限られていて、ずっと絵を描いていたの。描くとヴィクトリアさんが褒めてくれるんだ。『チアは上手だね』って。それが嬉しくてもっと絵を描いたし、絵なら自分の好きなものを使い魔にできると思ったから」
「猫が好きなの?」
「実際には見たことはなかったんだけど、図鑑で見て可愛くて」

 ルルが気を引くように鳴く。チアはくすくす笑って「ごめん」とルルに謝った。

「ルルが一番可愛いよ」

 ルルの当然とでもいうような表情が微笑ましい。

「お待たせ、ご飯できたよ」
「お腹減った」
「早く食べたかったら、運ぶのを手伝って」

 チアは立ち上がって配膳を手伝う。さっきは動かなかったのに、早く食べるためには、重い腰も軽くなるらしい。
 俺は店舗スペースに行き、マナを呼びに行く。

「夕飯できたよ」
「呼びにきてくれて、ありがとうございます」

 マナがドアの札をクローズに変えてから、リビングへ戻る。すでに食事が並べられており、俺とマナが座ると、揃って手を合わせた。

 具沢山のクリームシチューと、カラフルに彩られたコブサラダに、バターが染み込んだパン。見ているだけで口の中に涎が溢れ、腹の虫は空腹を訴える。

 大きな口を開けてクリームシチューを頬張った。ミルクの風味が口いっぱいに広がり、野菜は舌ですりつぶせるほど柔らかい。

「すげぇ美味い!」
「よかった! おかわりもあるからいっぱい食べてね」

 シーナは顔を綻ばせる。

「おかわり!」

 チアがシーナに皿を差し出した。シーナは目を丸くした後、優しく目を細める。

「チア、食べるの速すぎ」
「シーナの作るご飯が美味しいんだもん」

 シーナは皿を受け取って、クリームシチューをよそいにいく。
 食べやすい大きさに切られたサラダも、バターがたっぷり塗られたパンも、いくらでも食べられそうなほど美味い。

「サラダのドレッシング美味いね。これってどこで買えるの?」

 マイルズが聞けば、マナが口を開く。

「食料品屋さんに売ってますよ。場所はえっと……」

 説明するのが難しいのか、マナは斜め上に視線を送る。指先で顎を触りながら、懸命に考えを巡らせているようだ。

「私が書いた地図ある?」
「うん、あるよ」

 マイルズがチアに手書きの地図を渡すと、食料品屋が加えられた。チアの家のすぐ近くだ。
 ライハルでは自給自足が主だったから、食料品が買える店があることに驚いた。

 俺とマイルズは狩りをしていたから、肉を調達する。野菜や乳製品と交換してもらったり、服を作ってもらったりしていた。

「ボンドで働き始めたことだし、そろそろライハルに仕送りしないか?」
「そうだな。金より物の方がいいか? 金を使える店なんてないしな」

 マイルズと相談していると、シーナが提案してくれる。

「食料品屋さん以外にも案内しようか?」
「いいのか? めっちゃ助かる」

 シーナと買い物ができるのは楽しみだ。

「村に一人子供がいるんだけど、七歳の女の子が一人で遊べて好きそうなのってなんだと思う?」

 マイルズが聞くと、シーナ、チア、マナの三人は、自分が七歳の頃を思い出そうと頭を捻る。

「私は絵ばかり描いていたから。一人ならスケッチブックとかどうかな?」
「私はパズルが好きだったかな?」
「私はビーズでアクセサリーを作っていたと思います」

 チア、シーナ、マナの順で答えてくれた。

「全部いいんじゃないか?」
「ああ、それも送ろう」

 食料品以外にも送るものが決まった。

「他に気になるものはある?」
「うーん……、布とか? 服はサイズがあるから、布を送れば裁縫が得意なばあさんたちが服を作るし、喜ぶんじゃないか?」
「買うもの多すぎるな。手分けしようぜ」

 シーナと二人で出かけたい、という下心込みで提案すれば、マイルズも同意してくれた。
 俺とシーナが食料品で、マイルズとチアが布や雑貨を買いに行く。

「お店を任せてもいい?」
「うん、大丈夫だよ」

 シーナが聞くと、マナは得意げに胸を張る。
 三日後に出掛けることが決まった。
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