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第一章 癒しの矢
20 強くなる理由
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ルーカスさんとリオとは途中で別れた。「大勢で押しかけては疲れるだろう。日を改めて様子を見に行く」とシーナに配慮して。
道具屋の扉を開くと、接客中のマナがリビングを指差したからそちらに向かう。
シーナとチアはマイルズが作ったミルクプリンを食べていた。顔色は少し悪い気がするが、食欲があって良かった、とホッとする。
「シーナ、体調はどうだ?」
「いっぱい寝たから元気だよ」
朝日のように眩しい笑顔を見られて、俺も自然と口元が緩む。
「騙されちゃダメ。シーナは平気なフリが上手いだけだから」
チアが頬を膨らませ、ふてくされたような声を出す。
ケイルの森で会った時もそうだった。シーナは心配をかけないように、足首を腫らしながらも笑っていた。チアはシーナに遠慮されているようで不満なんだろうな。
マイルズに抱えられているルルが、甘えた鳴き声を出しながら暴れ出した。マイルズが床に下ろすと、チアの膝に飛び乗る。ミルクプリンが欲しかったらしい。
「まだ家にあるから、持ってこようか?」
ルルよりも早くチアが「欲しい」と反応した。それを見て「本当に食いしん坊なんだから」とシーナが笑みを深めた。
シーナの平気なふりをする笑顔ではなく、自然に綻んだ表情で、チアは少し機嫌が回復したようだ。
「二日後に予定していた買い物はやめとこう。俺、一人で行ってくる」
本当は一緒に行きたいけれど、シーナにはゆっくり身体を癒して欲しい。
「大丈夫だよ! 私も行きたい」
シーナが両手をテーブルに着いて身を乗り出す。チアが「落ち着いて」と腕を引くと、シーナは気恥ずかしそうに座り直した。
「俺は食材とか分からないから一緒に行ってくれるのは助かるけど、シーナに無理してほしくない」
「無理なんてしないよ」
「なんでそんなに行きたいんだ?」
俺の故郷に送るものを買うために、食料品屋に一緒に行ってもらう約束をした。シーナが無理をしてまで行くことではない。
シーナの頬がみるみる紅潮した。隣のチアにすがるような視線を送る。目を交わし合い、チアが小さく息を吐いて俺に目を向ける。
「当日の体調次第で考えたら? シーナは絶対に『大丈夫』って言うから、マナちゃんに本当に大丈夫そうなのか確認して」
うーん、と悩むが、シーナが不安そうに上目遣いで俺の様子をうかがっている。ジッと見つめられてドキドキと心音が早くなった。
シーナの視線を独占していることに舞い上がり、何も考えられずに頷く。
シーナの顔一面で嬉しさを表すような笑顔に、痛いほど胸が高鳴って左胸を押さえた。
「朝、迎えにくるから」
それだけなんとか絞り出す。
「うん! 楽しみにしてる」
シーナは声を弾ませ喜んでいる。
直視できずに視線を下げた。
シーナが可愛すぎる。付き合いたい。彼女になって欲しい!
「チアちゃんは? 俺も家まで迎えに行こうか?」
ソワソワしながらマイルズがチアに声をかける。迎えに行きたいのだろう。
「そうだね、迎えにきて」
「もちろん!」
マイルズがパッと表情を明るくする。
二日後に買い物に行く約束をして道具屋を出た。
寮に帰ろうと歩いていると、チアも着いてきた。
「チアは帰らないのか?」
「ミルクプリン」
チアはキラリと瞳を輝かせて、言葉を被せる勢いで声を上げた。
マイルズが口角を横に広げて目を細める。
「そんなに気に入ってくれたの?」
「うん、マイルズくんの作るものはなんでも美味しい」
ルルも同意するように鳴いた。
「チアちゃんは美味しそうにいっぱい食べてくれるから、すげぇ嬉しい!」
寮に入り、マイルズが部屋の扉を開く。「どうぞ」とチアに向けた。先に俺が入るとチアも後から続いた。
「カイも食べたかったのか?」
「俺はミルクプリンより、夕飯が食いたい」
我が物顔でフローリングに腰を下ろす。
マイルズはミルクプリンだけではなく、作り置きしていたおかずも詰めた。
「お腹が空いたらルルと食べて」
「ありがとう!」
チアとルルは目を輝かせてマイルズを見つめる。同じ表情で笑ってしまった。
ウキウキしながら部屋を出ていくチアとルルを見送る。扉が閉まるとマイルズが口を開いた。
「俺さ、やっぱり人を斬るのは怖いけど、チアちゃんには毎日笑っていっぱい好きなものを食べて欲しい。そのために強くなりたいと思う」
「そうだな。体術を習うのか?」
「ああ。やってみようと思う」
マイルズは前を向いて力強く言い切った。人を斬るのは怖いというのは変わらない。だが、もうリオと手合わせしていた時のような怯えた表情ではない。覚悟を決め、自信に満ちたいい顔をしている。
マイルズはもっと強くなる。俺だって負けていられない。まずは炎を出せるようにならなければ。
シーナと買い物に行くまでに、魔物退治と素材採取の依頼をやり遂げた。金がなければ故郷に送るものも買えない。
ある程度蓄えはあるが、ライハルは物々交換が主だった。金なんてごく稀に連れて行ってもらえた、近くの村でしか使ったことがない。
金を使う経験が乏しいから、どれくらい必要なのか分からない。足りなかった、では困るから、軍資金は多いに越したことはない。
眠る前に炎を出す特訓のため、手のひらに魔力を集める。すぐにできるようになるわけもなく、手のひらが温かくなるだけだった。
ルーカスさんが力の込め方は間違っていないと言っていたから、毎日続けようと思う。
道具屋の扉を開くと、接客中のマナがリビングを指差したからそちらに向かう。
シーナとチアはマイルズが作ったミルクプリンを食べていた。顔色は少し悪い気がするが、食欲があって良かった、とホッとする。
「シーナ、体調はどうだ?」
「いっぱい寝たから元気だよ」
朝日のように眩しい笑顔を見られて、俺も自然と口元が緩む。
「騙されちゃダメ。シーナは平気なフリが上手いだけだから」
チアが頬を膨らませ、ふてくされたような声を出す。
ケイルの森で会った時もそうだった。シーナは心配をかけないように、足首を腫らしながらも笑っていた。チアはシーナに遠慮されているようで不満なんだろうな。
マイルズに抱えられているルルが、甘えた鳴き声を出しながら暴れ出した。マイルズが床に下ろすと、チアの膝に飛び乗る。ミルクプリンが欲しかったらしい。
「まだ家にあるから、持ってこようか?」
ルルよりも早くチアが「欲しい」と反応した。それを見て「本当に食いしん坊なんだから」とシーナが笑みを深めた。
シーナの平気なふりをする笑顔ではなく、自然に綻んだ表情で、チアは少し機嫌が回復したようだ。
「二日後に予定していた買い物はやめとこう。俺、一人で行ってくる」
本当は一緒に行きたいけれど、シーナにはゆっくり身体を癒して欲しい。
「大丈夫だよ! 私も行きたい」
シーナが両手をテーブルに着いて身を乗り出す。チアが「落ち着いて」と腕を引くと、シーナは気恥ずかしそうに座り直した。
「俺は食材とか分からないから一緒に行ってくれるのは助かるけど、シーナに無理してほしくない」
「無理なんてしないよ」
「なんでそんなに行きたいんだ?」
俺の故郷に送るものを買うために、食料品屋に一緒に行ってもらう約束をした。シーナが無理をしてまで行くことではない。
シーナの頬がみるみる紅潮した。隣のチアにすがるような視線を送る。目を交わし合い、チアが小さく息を吐いて俺に目を向ける。
「当日の体調次第で考えたら? シーナは絶対に『大丈夫』って言うから、マナちゃんに本当に大丈夫そうなのか確認して」
うーん、と悩むが、シーナが不安そうに上目遣いで俺の様子をうかがっている。ジッと見つめられてドキドキと心音が早くなった。
シーナの視線を独占していることに舞い上がり、何も考えられずに頷く。
シーナの顔一面で嬉しさを表すような笑顔に、痛いほど胸が高鳴って左胸を押さえた。
「朝、迎えにくるから」
それだけなんとか絞り出す。
「うん! 楽しみにしてる」
シーナは声を弾ませ喜んでいる。
直視できずに視線を下げた。
シーナが可愛すぎる。付き合いたい。彼女になって欲しい!
「チアちゃんは? 俺も家まで迎えに行こうか?」
ソワソワしながらマイルズがチアに声をかける。迎えに行きたいのだろう。
「そうだね、迎えにきて」
「もちろん!」
マイルズがパッと表情を明るくする。
二日後に買い物に行く約束をして道具屋を出た。
寮に帰ろうと歩いていると、チアも着いてきた。
「チアは帰らないのか?」
「ミルクプリン」
チアはキラリと瞳を輝かせて、言葉を被せる勢いで声を上げた。
マイルズが口角を横に広げて目を細める。
「そんなに気に入ってくれたの?」
「うん、マイルズくんの作るものはなんでも美味しい」
ルルも同意するように鳴いた。
「チアちゃんは美味しそうにいっぱい食べてくれるから、すげぇ嬉しい!」
寮に入り、マイルズが部屋の扉を開く。「どうぞ」とチアに向けた。先に俺が入るとチアも後から続いた。
「カイも食べたかったのか?」
「俺はミルクプリンより、夕飯が食いたい」
我が物顔でフローリングに腰を下ろす。
マイルズはミルクプリンだけではなく、作り置きしていたおかずも詰めた。
「お腹が空いたらルルと食べて」
「ありがとう!」
チアとルルは目を輝かせてマイルズを見つめる。同じ表情で笑ってしまった。
ウキウキしながら部屋を出ていくチアとルルを見送る。扉が閉まるとマイルズが口を開いた。
「俺さ、やっぱり人を斬るのは怖いけど、チアちゃんには毎日笑っていっぱい好きなものを食べて欲しい。そのために強くなりたいと思う」
「そうだな。体術を習うのか?」
「ああ。やってみようと思う」
マイルズは前を向いて力強く言い切った。人を斬るのは怖いというのは変わらない。だが、もうリオと手合わせしていた時のような怯えた表情ではない。覚悟を決め、自信に満ちたいい顔をしている。
マイルズはもっと強くなる。俺だって負けていられない。まずは炎を出せるようにならなければ。
シーナと買い物に行くまでに、魔物退治と素材採取の依頼をやり遂げた。金がなければ故郷に送るものも買えない。
ある程度蓄えはあるが、ライハルは物々交換が主だった。金なんてごく稀に連れて行ってもらえた、近くの村でしか使ったことがない。
金を使う経験が乏しいから、どれくらい必要なのか分からない。足りなかった、では困るから、軍資金は多いに越したことはない。
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