ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第一章 癒しの矢

25 温かい手紙と食事

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 空が暗くなる頃に寮へ戻り、マイルズの部屋の扉を叩く。足音が近付いてきて扉が開いた。

「カイか、どうした?」
「どうしたって、マイルズがどうしたんだよ!」

 疲労困憊といった、覇気のない顔を見て目を見張る。

「ルーカスさんに頼んでしごいてもらってた」

 やはりルーカスさんに体術を習っているらしい。

「そうか、上手くいってるか?」
「無駄な動きが多いって言われてる。ルーカスさんにはずっと手加減されているし、なかなか難しい」
「初日だしな。明日は暇か?」
「ああ、でもルーカスさんには休めって言われてる」

 狩りをして生活していて、マイルズは体力がある方だと思う。それなのにクタクタになるほどハードに鍛えられたんだ。そう言われて当然だろう。

「明日シーナのところで夕飯食べるから、マイルズもこいよ」

 アナガレガには疲労回復効果があると聞いた。今のマイルズにもぴったりだろう。

「シーナちゃんが作るの?」
「ああ、マナと作るって言ってた」
「シーナちゃんにはゆっくりして欲しいし、俺が作りに行こうかな。ずっとは寝ていられないし、暇だから料理させてくれると助かる」
「いいんじゃないか? シーナもマナも仕事があるし、マイルズが作ったら助かるはず」
「じゃあそうする」
「ああ、今日は早く寝ろよ」

 マイルズに別れを告げて自分の部屋に入った。
 寝る前には日課の炎を出すイメージトレーニングもする。今日も手のひらが温かくなるだけだった。




 次の日は依頼を終えて、着替えてから道具屋に向かう。街の近くで鹿とうさぎを狩った。鹿を肩に担ぎ、うさぎを小脇に抱える。かなり汚れた。

 前日はチアが運んでくれて、かなり楽をさせてもらった。ライハルでは自分で狩ったものは、自分で運ぶのが当たり前だった。それを思い出した。
 道具屋の扉を開く。

「いらっしゃいませ」

 俺が入るとマナがドアの札をクローズに変える。

「もうみんな来ていますよ」

 リビングに入ると、リオがおとなしく座っていた。
 マイルズとシーナが料理をする後ろで、チアとルルが「味見をしたい」と騒いでいる。

 食欲を刺激する匂いが充満していて、腹の虫が鳴いた。口の中で唾液も溢れる。
 この匂いをずっと嗅いでいて、チアは我慢できなくなったのだろう。
 リオの隣に腰掛けると、料理がテーブルの上に並べられた。

「美味しそうです! マイルズさんとシーナさんは料理がお上手ですね」

 リオが澄んだ瞳を輝かせる。

「いっぱい食べてね」

 リオはシーナに笑いかけられて「はい!」と元気に返事をした。

「私もいっぱい食べる!」
「チアはいつもでしょ」

 早く食べるために配膳を手伝っていたチアが力強く言えば、シーナは口の端を広げた。
 俺の隣にシーナが座り、正面にマナ、チア、マイルズが腰掛けた。

 手を合わせて全員で食べ始める。
 アナガレガは柔らかく煮込まれており、口に入れた瞬間に溶けた。

「すげぇ美味い!」
「そうだね、美味しい。みんなありがとう」

 シーナの笑顔で、全員が頬を緩めた。シーナが笑うと、心の奥がポカポカと暖かくなる。

「みんなで食べると楽しいね」

 純粋無垢な瞳でそんな言葉をかけられ、全員が頷く。
 腹がはち切れそうになる程食べた。
 リオが食器を洗うと言うから、俺は拭くのを手伝った。

「そのままにしててもいいよ。後でやるから」
「美味しいものを食べさせていただいたので、これくらいやらせてください」
「そうそう。シーナは料理を作ってくれたんだから、ゆっくりしてなよ」

 戸惑う様子を見せたが、シーナは「ありがとう」とイスに座った。
 片付け終わり、席に戻る。マナが温かい紅茶を淹れてくれた。

「またみんなで食べようね」

 隣のシーナに顔を向けると視線が絡んだ。「そうだな」と同意しつつも、二人っきりでも食べたいと欲が湧くのは仕方がない。




 みんなで食事をしてから四日後、いつものようにギルドハウス行くと、陽気な男に声をかけられた。

「カイ、荷物は無事にライハルへ届けたから」
「ありがとうございます」

 この人が届けてくれたのか。

「木箱に入っていたカイの手紙を見て、村の人たちが『すぐに書くから持っていって欲しい』って手紙を書いて、それも預かった。受付に行って受け取ってくれ」
「分かりました」
「またいつでも届けるから」
「ありがとうございます、お願いします」

 頭を下げてから受付に行くと、手紙の束を渡される。

「手紙を受け取ったサインを書いてね。あと、手紙を届ける代金はカイとマイルズに払ってもらってって言われたみたいだから、それもお願いね」

 サインをして金も払った。みんなちゃっかりしている。
 依頼を受けるのはやめ、帰宅して手紙を読む。

 俺とマイルズを気にかける言葉ばかりで、少しうるっときた。届けてくれた人を待たせているからか、みんな一言なのに、じいちゃんだけはけっこう長い手紙だった。

『カイもマイルズも元気そうでよかった。こっちもみんな元気だよ。可愛い彼女はできたか? できてたら手紙に書くだろうからまだかな? 二人とも男前だからすぐにできるよ。カイの手紙、嬉しかった。でも文字と文章はもう少し練習したほうがいいな。じいちゃんより』

 可愛い彼女はいないけど、好きな女の子はできた。
 ダメ出しをされたが、手紙は喜んでもらえた。心がこもっていたらいいとシーナが教えてくれた。俺もみんなからもらって照れくさいけど嬉しかった。

 シーナに手紙を書いてみようか。文字も文章も下手だけど、ありがとうの気持ちを込めて書く。なるべく丁寧にを心がけても、やはりシーナのような綺麗な字にはならない。
 紙を折りたたみ、市場の日に渡そうと決めた。

 夜になってマイルズの部屋を訪ねる。手紙を渡した。マイルズは目に涙を浮かべながら、嬉しさを隠しきれないといった表情で読んでいた。
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