ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

41 コギワの実採集

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 昼過ぎに特訓を切り上げた。三人とも空腹で、街に戻ってレストランに入る。
 店内は昼食にしては遅めの時間だから空いていた。

 店の角にあるゆったりとしたソファ席に案内される。周りに人がいないから、落ち着いて食事ができそうだ。
 俺はドリアを注文して、料理が運ばれてくるのを待つ。

「カイさんとアレンさんは明日は予定ありますか? なければ一緒に依頼を受けませんか?」
「いいな。やろうぜ」

 リオの提案に俺は乗る。
 特訓にもなるし、金も稼げる。

「俺は無理」

 アレンには断られた。

「どうしてですか? もう依頼の予定を入れているんですか?」

 リオはアレンにはグイグイいくな。不満そうに口を尖らせている。それだけ懐いているのだろう。

「依頼じゃなくて、マナちゃんにコギワの実を取ってきてほしいって頼まれてるから無理」
「マナさんとの約束じゃ、仕方ないですね」

 アレンがマナのことを溺愛しているのを知っているからか、リオはあっさりと諦めた。

「マナはアレンに直接頼んだのか? ボンドを通さなくてもいいのか?」

 チアがギルドと店の契約で、依頼はボンドを通さなきゃいけないと言っていた気がする。

「道具屋の依頼じゃなくて、マナちゃん個人のお願いだから」

 アレンは周りに視線を走らせて、声を顰める。

「マナちゃんに聞いたんだけど、リオはシーナに身体を治してもらったんだよな?」
「えっと、腕のことですか?」

 リオは戸惑いながらも小声で訊ねる。アレンは大きく頷いた。

「アレンはシーナの力をマナに聞いたのか?」
「いや、俺は子供の頃から知ってる。シーナにマナちゃんにはバレないようにしたいから気にかけてほしいって本人に聞いた」

 シーナは自分からアレンに話したのか。シーナはアレンを信頼しているということだろう。マナの為とはいえ、心の中がモヤモヤする。

「あのさ、俺とシーナは親友だからな。マナちゃん以外に興味ないし。勘違いすんなよ」

 俺が不満を顔に出していたのか、アレンが肩を竦める。

「そうですよ! アレンさんはマナさんにだけ、甘ったるいんですから。シーナさんとカイさんも仲良しじゃないですか」

 リオが俺を安心させるためか、力強く頷く。

「話が逸れたけど、シーナは昨日力を使ったんだよな?」

 アレンは神妙な面持ちで口を開いた。時の魔術のことを言っているのだろう。俺はそうだと頷いた。

「それでだと思うんだけど、コギワの実は風呂に入れると疲労回復効果があるんだ。このタイミングで取ってきてほしいってことは、シーナに使いたいんじゃないのかなって」

 シーナもマナも大丈夫だって言っていたけれど、マナはシーナに何かをしてあげたいと思って、アレンに頼んだのか。

「それ、俺も行っていい? 俺もシーナになにかしたい」
「僕も行きたいです!」

 俺とリオはアレンに頼む。

「いいけど、依頼じゃないから報酬はないよ」
「それでいい」
「僕も!」

 明日の早朝に、東の入り口に集合することになった。
 ちょうどよく料理が運ばれてくる。

 スプーンで掬うと、チーズがよく伸びて食欲がそそられた。熱々のドリアに息を吹きかけて冷まし、口に含む。濃厚なホワイトソースが口いっぱいに広がって、頬が落ちそうになった。
 三人とも会話を忘れて夢中で食べる。空腹すぎた。




 次の日の朝、待ち合わせの場所に行くと、リオがすでに待っていた。

「カイさんおはようございます」
「ああ、おはよう。アレンはまだなんだな」
「アレンさんは時間ちょうどにくると思いますよ」

 子供の時からそうらしい。
 リオの言う通り、待ち合わせ時間ぴったりにアレンはやってきた。

 東の入り口から街を出て、二時間ほど歩いた先にある『テーセの泉』に向かう。
 



 テーセの泉は水に色がついているのではないかというほど真っ青だった。小さな白い花があたり一面に咲き誇っている。
 神秘的な場所で、どうせならシーナと二人で来たかった。今度誘ってみよう。

「コギワの実はどこにあるんだ?」
「泉の東の方に大きな木が生えてるだろ? あそこにある」

 手前にある岩場の奥に、太く逞しい木があった。
 俺たちは岩場を登って足を止める。

 木陰にはウサギのような長い耳で、クマのような巨体の魔物がたくさん寝そべっていた。
 腹を掻いたり尻を掻いたり、全く可愛げがない。

「アレンさん、あれはなんですか?」

 リオが声を顰める。リオも知らない魔物らしい。
 アレンは気難しい顔をしていた。

「あいつらはクーという魔物だ。大人しい魔物で討伐依頼なんかは出ないから、リオが知らなくても無理はない」
「大人しいの? じゃあなんで取りに行かないんだ?」

 アレンは動く気配がない。

「あれは求愛行動なんだ。繁殖期なんだろう。普段は大人しいけど、それを邪魔される時は急変して凶暴になる。俺たちが邪魔をするのに、倒すのはおかしいだろ? どうしたもんか」

 あのゴロゴロしたおっさんみたいな寝姿が求愛行動? もっとアピールの仕方はあるだろう、と口元を引き攣らせる。

「僕が行きましょうか? 一番速いのは僕なので」

 リオはスピードだけなら、ボンドでもトップクラスだろう。それでも木に登ってコギワの実を取ってこれるのだろうか。

「カイはここからコギワの実を撃って落とせるか? 落とせるなら登る必要もなく、リオに回収だけ任せられるんだが」

 ここからなら射程範囲内だ。実を落とすということは、枝を狙うということ。

「カイさんならできますよ!」

 リオが瞳を輝かせて両手の拳を握る。

「止まっているものなんて外すはずないだろ。リオ、右端を狙うから」

 比較的クーが少ない。
 俺は矢筒から矢を抜き、弓を構えた。

「いつでもいいぞ」
「わかりました、いってきます」

 リオは岩場を降り、木の右端目掛けて走っていく。

「カイ、撃って」
「任せろ」

 アレンの合図で矢を放った。続けてもう一本。狙い通りの場所にまっすぐ飛んでいき、実をつけた枝が二つ落ちる。地面に落ちる前にリオが両方キャッチして、踵を返して走った。

 クーたちはなにかあったのかと視線を巡らせるが、その頃にはすでにリオは木から離れていた。
 クーたちは暴れることもなく、求愛行動を続けている。

「ただいま戻りました」

 息を弾ませて、リオが満面の笑みを向ける。
 コギワの実は近くで見ると、思ったより大きかった。薄いオレンジ色の実は、リオが片手で掴めないほどの大きさだ。大事そうに抱えている。

「カイとリオがいてよかったよ。俺、なにもしてないし」
「そんなことありません。三人だからすんなり取れたんです。一人でも欠けていたら、こうはいきません」

 肩を落とすアレンにリオが力強く反論する。
 アレンがいなければ、なにも悪くないクーを傷付けていただろう。

「そうそう、早く持って帰ろうぜ」

 俺がアレンの背中をポンと叩くと、アレンは眉尻を下げて笑う。

「そうだな、帰ってマナちゃんと一緒に風呂に入って癒されよ」

 アレンが漏らした言葉に、俺とリオは固まった。

「どうした? 帰るんじゃないの?」

 アレンが目を瞬かせる。

「そうですね、ひゃやく帰りましょう」

 動揺を隠せないリオは、顔は赤いし舌はもつれた。
 うらやましいぞアレン。俺だってシーナと、と思うが、付き合って三ヶ月でハグまでしかしたことないのに誘えるわけがない。

 煩悩を頭から追い払うように、帰り道では今までに受けた依頼のことなど、全く別の話題を振った。




 街に戻って道具屋に行くと、シーナとマナが「いらっしゃいませ」と声を揃える。
 俺たちだとわかると、二人ははにかんだ。
 笑って出迎えられると、疲れなんて吹っ飛ぶ。

「マナちゃん、カイとリオと一緒に取ってきたよ」

 アレンがマナにコギワの実を渡す。

「アレンくんありがとう! カイさんとリオくんもありがとうございます」

 マナは顔を綻ばせた。

「お姉ちゃん、今日はお風呂にコギワの実を入れようよ」

 シーナは目を細めて柔らかく笑った。シーナが笑うと体の奥底から温かくなる。

「みんなありがとう。今日使うね」
「シーナさんはお身体の調子はいかがですか?」

 リオが心配そうに訊ねると、シーナは声を弾ませる。

「元気だよ! 今回戻したのは、短い時間だから」
「そうですか、良かったです」

 リオは自分が切断された腕を治された時に、シーナがしばらく体調を崩していたことを気にしているみたいだ。

「お姉ちゃん、久しぶりに一緒にお風呂に入ろうよ」
「そうだね」

 マナとシーナが顔を見合わせて微笑み合う。俺とリオが仲の良い姉妹を見て和んでいると、アレンだけは眉間を狭めて口を尖らせていた。

 マナと一緒に入れなくて不満なのだろう。
 俺もシーナといつか一緒に入りたい。でも、ハグ以上にどう進めば良いのかわからない。まだまだ先は長そうだ。
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