ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

58 拒絶

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 バルディアの出入り口で下ろされ、宿屋に向かって大通りを進む。

「あっ、マナとアレンにお土産を買ってくるって言ったのに忘れてた」

 シーナが目を見開いて口を押さえる。

「好きなお店を見てきていいよ。私は宿屋に荷物を置いてからルルにシーナの匂いを追わせて合流するから」

 荷物はチアが頭上にふわふわと浮かせている。

「俺もチアちゃんに着いて行くよ」

 マイルズがチアの隣に立つと、ルルがチアの腕から抜け出してマイルズに飛びついた。マイルズは難なく受け止める。

「荷物を置いたらすぐに向かうから」
「また後で」

 チアとマイルズは寄り添い合うように歩いていった。
 俺はシーナと指を絡める。

「お土産はなにを買うんだ?」
「美味しいものがいいかな」

 並ぶ飲食店を眺めながら歩き、シーナが焼き菓子の店の前で止まった。

「ここにしようかな」

 背中に衝撃があり「キャッ」と幼い声が響く。後ろを振り返ると、女の子が尻餅をついていた。下を向いていて表情がわからないが、泣いてはいなさそうだ。

「大丈夫か? 道の真ん中で立ち止まって悪かった」

 手を差し出すとそっと握られる。

「私も前を見ていなくて、ぶつかってごめんなさい」

 引き上げて立たせると、俺を見上げる顔に目を見開く。

「チア?」

 思わず口から溢れた。
 女の子は十歳前後だろうが、金のウェーブヘアや緑色の瞳が同じで、チアをそのまま小さくしたような美少女だった。

「チア? 私はシャーロットよ」

 シャーロットは首を傾ける。
 俺とシーナは顔を見合わせた。

 行きの列車でのことを思い出す。チアのことをシャーロットと呼んだ男性は、この子とチアが似すぎていたからそう呼んだのだと知る。

「ごめんね。シャーロットちゃんがお友達に似ていたからびっくりしちゃって。シャーロットちゃんはチアって名前の子を知ってる?」

 シーナはシャーロットと目線を合わせて優しく問いかける。
 シャーロットは口元に手を添えて「うーん」と悩んだ後に首を振った。

「知らないよ。私に似てるんだよね? 私は一人っ子だし、ママには似てるって言われるけど、ママはチアって名前じゃないよ」

 他人の空似にしては似すぎだ。本当に血縁関係ではないのだろうか。

「シャーロット、なにをしているの?」
「あっ、ママとパパだ」

 シャーロットが目を向けた方に視線を追う。
 母親はシャーロットとチアの面影があり、父親は列車でチアをシャーロットと呼んだ男性だった。チアが娘に似ていたから驚いたのだろう。

 俺とシーナに気付いたのか、父親は顔を白くして視線を外す。
 カタカタと震えて「ここを離れよう」と母親とシャーロットの腕を掴んだ。
 シャーロットは父親の異変に気付いていないようで、無邪気に笑う。

「あのね、お姉ちゃんとお兄ちゃんのお友達に私が似ているんだって。チアって名前の子を知ってる?」
「チア?」

 母親の顔からも血の気が引いていく。
 シャーロットは一人っ子だと言っていたが、この二人がもしかして……。

「シーナお待たせ」

 後ろからチアの声が聞こえて、ハッと振り返った。
 ルルを抱えるマイルズの腕に、チアは腕を絡めて寄り添っている。

「わー、本当に私に似てる!」

 シャーロットが目を輝かせ、声を弾ませた。
 チアとマイルズがシャーロットに目を向ける。二人とも目を大きく見開いて固まった。
 シャーロットがチアに近付こうとすると、父親がキツく腕を掴んで止めた。

「パパ? 痛いよ」
「危ないから近付いたらダメだ!」

 父親の鬼気迫る表情に、シャーロットは眉を下げて不安気にチアを見上げる。

「チアは危なくなんてありません!」

 俯くチアを庇うように立ち、シーナがハッキリと口にした。

「この子の魔術の暴走で、何度も村が襲われたわ。危ないに決まってる」

 母親の言葉に胸を抉られるようだった。
 やっぱりチアの両親だ。シャーロットはチアのことを知らされていないようだ。
 ルルが毛を逆立てて「フー」と威嚇する。チアを守ろうとしているんだ。

「それは赤ちゃんの頃の話ですよね。今はそんなことありません。コントロールができるようになってから会っているはずです」
「そんなの、またいつ暴走するかわからないじゃない」

 母親が片眉を跳ね上げ、シャーロットを隠すように抱きしめる。
 チアは駆け出した。

「俺はチアちゃんのことが大好きです。チアちゃんを産んでくれたことだけはありがとうございます」

 マイルズは鋭い視線を向けて、耐えるように奥歯をギリッと噛み締めた。

「ルル、チアちゃんのところまで案内して」

 マイルズがルルを下ろすと、すぐに走り出した。マイルズがその後を追う。
 俺とシーナも見失わないように続いた。

 走りながら後ろを振り返ると、両親はシャーロットを抱きしめていた。
 シャーロットを大切にできるのに、なんでチアにも同じようにできないのだろうか。

 チアだって愛されて生まれたはずだ。
 ただ魔力が強すぎて、赤ん坊の頃に制御ができなかった。チアが泣けば、村を竜巻が襲ったり水没したりしたと聞いた。

 ヴィクトリアさんのおかげで制御ができるようになったのに、チアはいなかったかのように生活している両親に胸が締め付けられるような怒りが湧く。

 ルルを追いかけて辿り着いたのは宿屋だった。
 階段を駆け上がって二階に行く。一番手前の部屋にマイルズが鍵を差し込んだ。カチリと小さな音が鳴るとともに、シーナが扉を開いて部屋の中に飛び込む。
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