ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

57 温かい村

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 歩いてイリスの家に向かう。
 イリスの家の扉を叩くと、ヒューさんが迎え入れてくれた。
 イリスはリビングのソファで膝を抱えて座っていた。表情は暗い。

「リラックス効果のある飲み物です。イリスちゃんに飲んで頂けたらと思いまして。少しクセがあるので、はちみつとミルクを入れてください」

 シーナがヒューさんに水筒を渡すと、早速カップに注いでイリスの前に置いた。

「お姉さんがイリスのために持ってきてくれた飲み物だよ」

 イリスはシーナをジッと見つめて、小さく頭を下げる。
 カップを持って口に含んだ。

「美味しい」

 呟かれた声にシーナと顔を見合わせて、ホッと息をつく。イリスは飲み干してカップの中を空にした。少しだけ表情が和らいだ気がする。

「助けてくれてありがとう。遊び道具も選んでくれてすごく嬉しかったの。お花を摘んでこれなかった。お礼ができなくてごめんなさい」

 イリスは下唇を噛んで俯いた。
 怖い思いをしたのにそのことには触れず、シーナに礼をできないことを悲しむイリスに目頭が熱くなった。
 シーナはイリスの前でしゃがみ、両手でそっとイリスの手を包む。

「イリスちゃんが帰ってきて良かった。イリスちゃんが採ってくれようとしたお花を見に行ったよ。すっごく綺麗だった。イリスちゃんの気持ちが嬉しかったよ。ありがとう」

 イリスの瞳は潤んでいたが、口元には笑みが見えた。

「カイお兄ちゃんもありがとう」
「怪我がなくてよかった」
「もう一人のお姉ちゃんとネコちゃんは?」
「どこにいるかわからないから、マイルズの家に行って聞いてくるよ」

 俺が申し出れば、イリスが立ち上がってシーナの手をキュッと握る。

「一緒に行きたい」
「うん、一緒に行こう」

 ヒューさんも着いてきて、四人でマイルズの家に向かう。
 イリスが外を歩くと、村人たちは安心した様子で顔を綻ばせた。

 野菜や果物を持っていけと手渡す。イリスは「ありがとう」と笑顔が戻ってきた。
 マイルズの家に着くと、マイルズの母親が扉を開く。

「チアってどこに行ったかわかる?」
「チアちゃんならマイルズとお部屋にいるけど」
「呼んでくるから待ってて」

 俺だけ家に入る。イチャついていたら気まずいから、わざと大きな足音を立てて階段を登った。
 マイルズの部屋の扉をドンドン叩く。

「チアいる?」

 扉越しに声をかけると、「なに?」と気怠げな声が返ってきた。

「イリスがお礼をしたいって」
「ちょっと待ってて」

 中でゴソゴソと音が聞こえた。俺はすぐに階段を降りる。
 玄関でルルが待っていた。

「イリスがルルにも会いたがってたぞ」

 ルルは「ニャー」と鳴き、開けろと言っているようだった。
 扉を開くとルルが軽やかに飛び出す。イリスの前でちょこんと座った。

「ネコちゃん、村まで連れてきてくれてありがとう」

 イリスはしゃがみ込んでルルの頭を撫でる。ルルはおとなしく撫でられている。
 男はマイルズ以外を拒否するのに、女には優しい。
 程なくしてマイルズとチアが外に出てきた。

「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
「全員警備隊に引き渡したし、脅しといたからもうあんな事件は起きないと思うよ」

 チアはイリスに向ける声と表情は優しいのに、言っていることは物騒だ。

「マイルズお兄ちゃんもありがとう」
「無事でよかった」

 イリスはモジモジと指を遊ばせ、シーナとチアを見上げる。

「お姉ちゃんたちははちみつは好き?」

 シーナとチアが声を揃えて「好きだよ」と笑う。

「お花は持ってこられなかったけど、お父さんとはちみつを採ってくるからもらって欲しい」
「楽しみにしてるね」
「はちみつはパンに塗ったりフルーツにかけたりしても美味しいし、下味に使えばお肉が柔らかくジューシーになるし、どんな料理にも合うんだよね。……想像したらお腹が減ってきた」

 いつもの食いしん坊なチアに全員が笑う。
 ルルも可愛らしい鳴き声をあげて食べたいアピールをした。

「明日の朝に持ってくるね」

 イリスは手を振りながらヒューさんと帰っていった。

「良かった。あんなことがあった後だから、外に出るのも怖いんじゃないかって心配してた」

 チアが目を細める。

「この村だからじゃない? 温かい人たちに囲まれて育って、外が怖くないって知っているから」

 シーナが口元に笑みを携えた。
 空はオレンジに染まり、もうすぐ日が暮れる。

「じゃあ俺は帰るから」
「またね」

 三人が家に入るのを見届けて、帰路に着く。


 次の日の朝、俺がマイルズの家に向かうとすでにイリスはいた。
 ガラス瓶に入った黄金色のはちみつをシーナとチアに渡す。
 シーナとチアが「ありがとう」と告げると、イリスは嬉しそうに帰っていった。

「綺麗な色だね。食べるのがもったいないくらい」

 チアが顔の高さまで瓶を持ち上げて覗き込む。

「でも採れたてが一番美味しいよ」

 マイルズの言葉ですぐに「食べる!」と意見を変えるところが、食いしん坊のチアらしくてみんなで笑った。




 今日の昼にこの村を出るから、村の中心にある塗装の剥がれた集会所に村中の人が料理を持ち寄って集まった。
 シーナはレシピを聞いたりしてイキイキとしているし、チアとルルは顔を輝かせながらたくさん食べている。

「何もない村だから退屈じゃないか心配だったけど、チアちゃんもシーナちゃんも楽しそうでよかったな」

 マイルズが愛おしそうにチアを見つめる。

「またみんなで里帰りしよう」

 俺の言葉にマイルズが頷いた。
 食事を食べ終えるとみんなが村の出入り口まで見送りに来てくれた。

「いつでも帰ってきなさいよ」
「チアちゃんとシーナちゃんもまた来てね」

 採れたての食材をたくさんもらった。
 シーナとチアは頭を下げ、俺とマイルズは手を上げて別れを告げる。
 チアの風の魔術で浮き、ライハルを後にした。バルディアを目指す。

「優しい人たちがいっぱいの村だったね」
「最初は緊張したけど、みんな気さくだからすぐに慣れた」

 シーナとチアが顔を見合わせて笑う。
 故郷が褒められるのは嬉しいけれど少しくすぐったい。

「なにが一番気に入った?」

 マイルズの言葉にシーナとチアは「うーん」と悩んでいる。

「食べ物は美味しいしのどかな景色もよかったけど、一番は二人の子供の頃の話を聞けたことかな」
「わかる! お花畑は綺麗だし、初めてヨナミ草を見つけられて興奮したけど、二人のことを聞けたのが嬉しかったな」

 ばあちゃんももっといいことを話してくれればいいのに、恥ずかしい話ばかりだった。

「俺らもバージルさんやヴィクトリアさんにチアとシーナの子供の頃の恥ずかしい話を聞こうぜ」

 マイルズに言えば、チアが「絶対にやめて」と声を低くした。
 行き同様、話しながら飛んでいると、バルディアに着くまでが早く感じられた。
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