ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

65 歓迎会

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 ギルドハウスに着くと、肉を焼く匂いが充満していた。食欲が湧いてくる。
 食堂に入ると、エリザとジュードが取り囲まれた。

「よろしく」
「一緒に依頼を受けよう」
「仲良くしてね」

 などと歓迎の言葉が飛び交う。
 ジュードは女性陣に鼻の下を伸ばしてデレデレとしていた。

 エリザは「わたくしはエリザと申します。これからよろしくお願いいたしますわ」と頭を下げた。礼儀正しくてまともだ。ルーカスさんへの執着は強いけど。

「ちょっとみんな、歓迎するのはいいけど、せっかくの料理が冷めちゃうでしょ」

 チアが頬を膨らます。自分が食べたいのだろう。
 みんなが少し離れると、ジュードは残念そうに肩を落とした。

「エリザ、こっちにきて」
「はい、わかりましたわ」

 チアに呼ばれて、エリザが後を追いかける。
 チアはルーカスさんの隣に座るリオの前に腰掛けた。

「エリザはここ」

 自分の隣を指す。ルーカスさんの正面だ。
 俺はリオの、マイルズはチアの隣に座った。

「初めまして。僕はリオといいます。よろしくお願いします」

 リオが立ち上がってエリザに挨拶をする。
 エリザは品の良さそうなお辞儀をした。

「わたくしはエリザと申します。よろしくお願いいたしますわ」

 そしてルーカスさんにも深々と頭を下げた。

「あの、ルーカス様。わたくし、五年ほど前に落石事故で助けていただいて。あの時は本当にありがとうございました」

 エリザがルーカスさんに執着する理由はちゃんとあったのか。
 ルーカスさんは口元を微かに横に広げた。

「エリザの活躍を期待しているよ。座ったらどうだ?」
「はい、お役に立てるよう、日々邁進いたしますわ」

 エリザは目をキラキラと輝かせて、満面の笑みを見せる。
 優雅に座ると「名前を呼んでいただけましたわ」とほのかに染まった頬を押さえて喜びを噛み締めていた。

 歓迎会が始まり、ジュードは「美人さんばかりで幸せです」と相変わらず女性陣にデレデレしているし、エリザはルーカスさんを気にしてか料理を小さく切って上品に食べている。

 隣に座っているチアは、幸せそうに目を細めながら大きな口で頬張っていた。マイルズが甲斐甲斐しくチアに料理を取り分けている。

「料理は口に合うか?」

 ルーカスさんがエリザに声を掛ける。

「結婚していただきたいですわ」

 エリザがうっとりとした表情でルーカスさんに伝えると、騒がしかった食堂が静まり返った。
 エリザはハッと我に返り、顔を真っ赤にして口元を押さえる。

「間違えましたわ。『美味しいですわ』と答えたかったのに、思っていることが口から出てしまいましたわ」
「もう告白してるようなもんだよ」

 チアが肩をすくめる。
 エリザは不安気に眉尻を下げた後、意を決するよう奥歯に力を込めて頷いた。

「ルーカス様。わたくしと結婚してくださいませ」

 周りが固唾を飲んで見守る中、ルーカスさんはエリザに真摯な目を向ける。

「気持ちは嬉しいが、エリザのことをよく知りもしないで、結婚の約束などできない」
「では、結婚を前提としたお付き合いはいかがてしょうか?」

 食いつくエリザに、ルーカスさんは目を見開く。エリザはすぐに瞳を伏せて、小さく頭を下げた。

「いえ、ごめんなさい。ルーカス様を困らせたいんじゃありませんの。わたくしはルーカス様をお慕いしていますわ。この気持ちだけは知っていて頂けないでしょうか」

 ルーカスさんは「わかった。ありがとう」と頷く。
 ルーカスさんの後ろに立ったバージルさんとヴィクトリアさんが、肩をポンと叩いた。

「俺はギルドマスターのバージルだ。こっちは妻でサブマスターのヴィクトリア。よろしくな」

 エリザは勢いよく立ち上がって頭を下げる。

「よろしくお願いいたしますわ」
「そんなに畏まらなくていいわよ。座っていっぱい食べなさい。早く食べないと、チアに全部食べられちゃうわよ」

 ヴィクトリアさんがチアに視線を向けて苦笑する。チアはこの中の誰よりもたくさん食べていた。
 ヴィクトリアさんに頭を下げてからエリザが着席する。

「いい子じゃない! ルーカスもそう思うわよね」
「そうですね」

 エリザは照れ笑いを浮かべる。

「俺はルーカスに女っ気がないから心配してたんだよな。あいつを見習って欲しいくらいだ」

 バージルさんがジュードに目を向けて苦笑した。
 ジュードは女性陣に囲まれて「お綺麗ですね」「癒されます」「おしゃれですね」などと褒めまくり、ご満悦の表情だ。

「解釈違いですわ! ルーカス様が複数の女性を同時に口説くだなんて」

 エリザは額を押さえて項垂れる。

「ルーカスさんはそんなことしませんよ。安心してください」

 リオがエリザを励ますように力強く言い切る。
 俺もそんなルーカスさんは見たくない。

「マイルズ、ちょっといいか?」

 バージルさんは嬉々としてチアの世話を焼いていたマイルズを呼んで食堂から連れ出す。
 バージルさんの表情が固かったのが気になった。

「食事が終わったら、エリザに街を案内してあげたら?」

 ヴィクトリアさんがルーカスさんに寄りかかる。
 エリザは驚きに目を見開いだが、すぐに姿勢を正してルーカスさんへ期待の眼差しを向けた。

「わかりました。エリザはこの後、予定はあるか?」
「いえ、ありませんわ。ずっと暇ですわ!」

 必死なエリザにルーカスさんが口元を緩める。

「後で街を案内するから」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたしますわ」

 エリザはヴィクトリアさんにも何度もお礼を述べた。
 マイルズとバージルさんが戻ってくる。

「なんかあったのか?」

 マイルズに小声で話しかければ、いい笑顔で頷かれた。

「ギルドハウスに、ルーラちゃんから俺に手紙が届いたんだ」

 チアが食事の手を止めて「ルーラ?」と表情を険しくした。
 チアの纏う空気が重く冷たくなる。背筋が凍るような心地だ。

「相手が相手なだけに、中身を一緒に確認させてもらった。近況報告やマイルズへの感謝が書いてあるだけだった。内容になにも問題はなかったから、マイルズに手紙は渡した」
「ルーラちゃん、身体の心配はなかったみたいでよかったよ。チュアロの街もみんなで協力して建て直している最中だって」

 手紙の内容をマイルズがかいつまんで話す。

「ルーラに返事を書くの?」
「うん、そのつもりだよ」

 チアは面白くなさそうに眉間を狭める。

「私も書く。『マイルズくんは私の彼氏なんだからちょっかいかけるな』ってはっきり言ってやらなきゃ」
「ルーラちゃんは友達だよ」
「そう思ってるのはマイルズくんだけかもしれないでしょ。……でも、身体はなんともなかったのはよかったんじゃない」

 チアがそっぽを向く。

「一緒に手紙を書こうね」

 マイルズが目を細めて笑い、チアはマイルズに目を向け、服の裾を掴んで小さく頷いた。




 エリザとジュードの歓迎会が終わり、エリザはルーカスさんに街の案内をしてもらうとウキウキしていた。ジュードは女性陣と仲良くなったようで、お開きになっても食堂でまだ話している。

 マイルズとチアは腕を組んでデートに向かい、リオはバージルさんとヴィクトリアさんにお酒を注いで、楽しそうに話を聞いていた。

 俺はシーナに会いに道具屋へ向かう。
 道具屋の扉を開くと「いらっしゃいませ」とシーナが満面の笑みで迎えてくれる。

「あっ、カイくんおかえりなさい。入団試験はどうだった?」
「ああ、ただいま」

 おかえりと迎えてくれることが嬉しくて、シーナの笑顔は安心感も得られる。
 俺の帰ってくる場所はシーナなんだな、としみじみと思いながら、入団試験のことを話した。
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