ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

64 双子の姉弟

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 五日後の昼前にアイメルの樹海入り口に集合する。ルルを隠す必要があるから、各々で来るようにと伝えたようだ。
 樹海の前にはすでにチアと入団希望の姉弟が待っていた。

「遅くなって悪い」

 一緒に歩いていたマイルズと駆け寄る。

「まだ時間になってないから大丈夫だよ」

 チアが首を振り、姉弟がこちらを向いて目が合った。

「あっ! 姉の彼氏!」

 弟が俺に指を突きつけて叫ぶ。
 アレンと道具屋で店番をしていた時に来た二人組だ。

「人に指を差してはいけませんわ」

 姉が弟の後頭部を掴んで下げさせる。

「なに? 知り合いなの?」

 道具屋でのことを話せば、チアは苦笑する。

「じゃあ試験を始めるけど、ボンドは仲間を大切にするの。それができない人は断ってる。今日は魔物を退治してもらって、実力を見させてもらう。一緒に行動するマイルズくんとカイくんには攻撃をしないように言ってあるから、二人を守りながら行動してね。あっ、名前と志望動機を聞きたいかな」

 弟が「はいはいはい!」と手を上げてアピールをする。

「俺はジュード十八歳。元々はエリザの付き添いだったんだけど、ボンドの姫ってめちゃくちゃ可愛い子がいるって聞いたからやる気あります! 君もすっごく可愛いけど、ボンドの姫とどっちが可愛いの?」

 チアは半目になって息を吐く。

「どっち? 私だけど?」
「マジ? もう知り合えたなんて、俺すげーラッキーじゃん」
「でもここに彼氏がいるから」

 チアがマイルズにピッタリと引っ付く。
 マイルズは照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。
 ジュードは地面に膝と手を着いて項垂れる。

「すみません、お気になさらないでくださいませ。持病なんですの。故郷では年の近い女の子全員に声をかけて、相手にされませんでしたわ」

 誰にでも声をかければ、相手にも本気にされないだろうしな。
 エリザは丁寧なお辞儀をする。
 やっぱりエリザはまともそうだ。

「わたくしはエリザと申します。ルーカス様と結婚をするために、入団を希望しますわ」

 ……エリザもまともじゃなかった。
 うっとりとした表情で「ルーカス様」と漏らす。

「ルーカスさんはかっこいいもんな。強くて面倒見もいいし、なんでもできる」

 マイルズがうんうんと頷く。

「そうでしょうか? ルーカス様だって人間ですわ。ダメなところもあるのではないでしょうか?」

 エリザが首を傾けて目を瞬かせる。
 ルーカスさんのダメな姿を想像できなかった。

「お心当たりはございませんか? いびきがうるさいだとか、部屋が汚いだとか」
「そんなルーカスさんは見たくない!」

 ルーカスさんのイメージが壊れる。

「寝てる時は静かだったよ。寝起きも良かったし」

 チュアロの宿でルーカスさんと一緒の部屋だった時のことをマイルズが話す。

「部屋が汚いかはわからないけど、ルーカスさんはお酒に弱い」

 チアが言いうと、エリザがくいつく。

「どんな感じですの? 笑うのか泣くのか暴れるのか」
「グラス一杯も飲まずに顔を真っ赤にして眠そうにしてる。普段は飲まないけど、バージルさんやヴィクトリアさんに勧められると飲んでる。それで次の日は二日酔いで体調が悪そう」
「ということは、飲んだ時に介抱をしてアピールすればいいですのね」

 エリザはウキウキと声を弾ませる。

「いいの? 勝手にそんなこと話して」
「ルーカスさんを本当に好きみたいだから。バージルさんも心配してるんだよね。いい年なのに浮いた話が一度もないって。ルーカスさんが初恋の子は多いんだけど、完璧超人だと思われて、成長するとみんな身を引いちゃうの。ルーカスさんだって普通の人間なのに」

 チアも思うことがあるのだろう。
 チアは見た目で清楚だと思われ、自分より強いことが知られるとダメになると言っていた。本当は食いしん坊だし、取っ組み合いの喧嘩だってするのに。

 俺もルーカスさんは特別な人だと思っていた。そうではないんだな、と考えを改める。

「そろそろ始めるけどいい? 質問はある?」

 エリザが「ありませんわ」と答えてジュードの腕を掴んで立たせる。

「じゃあマイルズくんとカイくんよろしくね。私は離れたところから見てるから」

 エリザが前を歩き、その後ろをジュードが着いていく。俺とマイルズは二人の後を追った。
 少し進むと、狼のような四足獣が飛び出してきた。群れで行動するようで、数は十匹くらいと多い。

 危なくなった時にすぐ動けるよう、俺は矢筒から矢を引き抜き、マイルズは剣の柄を掴む。

 エリザが抜剣して向かっていく。身体を回転させて剣を振る姿は、舞のように華麗だ。

 ジュードはエリザから遠い魔物に雷を落とした。エリザに被害が及ばぬよう、一体一体確実に仕留めていく。

 俺たちの出る幕はなく、エリザとジュードの二人で魔物を掃討した。
 エリザは剣に付着した血液を布で拭ってから鞘に収める。

「あの、わたくしたちの戦いはどうでしたでしょうか?」
「普通に強いと思うけど。連携も取れてるし、俺たちを守りながら戦おうとしてるのもわかった」

 エリザの問いにマイルズが答える。

「合格できるでしょうか?」
「それは俺たちじゃなくて、チアが決めることだからわからない」
「そうですわね。ルーカス様の役に立つためにも、絶対に合格してみせますわ!」

 エリザはやる気がみなぎっている。拳を掲げていた。
 反対にジュードはおとなしい。全く会話に入ってこない。

「ジュードはどうした?」
「……目当てのボンドの姫に彼氏がいたって落ち込んでんの」
「ボンドはチア以外にも女の人いっぱいいるぞ」

 ジュードはいっきに顔を輝かせる。

「可愛い子いっぱい?」
「ああ、そうだな」

 俺が頷けば、ジュードのやる気は鰻登り。足取り軽く前へ進む。
 雄叫びを上げながら目の前に現れた魔物をエリザが抜剣するとともに斬り伏せた。急所は外れており、ジュードが頭上から雷を落として絶命させる。

 二人が一息吐くと、背筋がヒヤリとして身震いした。
 威圧感に手が震え、今すぐにここから離れなければ危険だと本能が知らせる。

「なんですの?」
「逃げよう!」

 エリザとジュードも強い存在に気付いたようで、落ち着きなく視線を彷徨わせている。
 木を薙ぎ倒して、俺たちの背後に現れたのはルルだった。このプレッシャーもルルから感じる。

 ルルは四人は乗れそうな大きさで、前足で俺を薙ぎ払うように攻撃をした。前足が当たる直前に、身体を後ろに引っ張られるように飛ぶ。チアが魔術で俺がルルに吹き飛ばされたように演出した。

 背後の木に当たる直前で止まり、木に背を預けて座り込んだ。俯いて意識を失ったふりをする。
 マイルズはルルに踏みつけられていた。

「逃げて! 二人では勝てない」

 マイルズが叫ぶと、ルルが威嚇をするように喉を鳴らす。

「逃げたいけど、ここで見捨てたら美人が二人泣くってことだろ。俺は女の子の泣くところは見たくない!」

 ジュードが俺を庇うように前に立つ。足は微かに震えていた。

「わたくしも戦いますわ。ルーカス様の大切な人たちは、わたくしにとっても大切な人ですわ」

 剣を鞘から引き抜く音が響いた。
 緊張でピリつく空気は、チアが上から降ってきたことで霧散した。

「もういいよ」

 ルルは小さくなるとチアに飛びつく。迫真の演技を褒めてもらいたそうだ。

「ルル、かっこよかったよ」

 チアに撫でられて、ルルはご満悦だ。
 俺とマイルズも立ち上がって、汚れた服を手で払う。
 エリザとジュードは困惑の表情を向けていた。

「エリザとジュード、ボンドにようこそ。これからよろしくね?」

 チアがエリザの手をとって握手をする。ジュードに手を向けると、両手で握られてなかなか離されなかったが、マイルズが無理矢理引き剥がした。

「あの、どういうことですの? わたくしたちは合格したということですの?」
「私の使い魔のルルにカイくんとマイルズくんを襲わせるお芝居だったの。理由はどうであれ、二人はマイルズくんとカイくんを助けようとした。戦闘能力より、仲間を大切にできるかを見たかったの。ギルドハウスの食堂でお祝いの準備をしてくれているはずだから行こう」

 エリザとジュードはじわじわと合格の実感が湧いたようで、ハイタッチをして喜びを分かち合っている。

「あの、ルーカス様にもお会いできますの?」
「ルーカスさんにしか無理な依頼とかがなければいるはずだよ」

 エリザは飛び跳ねて、嬉しさを隠しきれない様子だ。

「可愛い子もいっぱいいる?」
「いっぱいいるよ。男性はもっといっぱいいるけどね」

 チアは肩を落として面倒くさそうに口を開いた。
 ジュードは後半部分が聞こえていないみたいにはしゃぐ。

「帰りは私が連れていくから早く帰ろう。お腹減った」

 チアが風の魔術で全員を飛ばし、あっという間にテアペルジまで着いた。
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