ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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11 帰ってこない

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 フィルチ孤児院に着くと子供たちは学校に行っていて、みんなのパパとママである院長夫婦は、赤ん坊を抱きながら昼食を食べていた。

「ステラが昼間に来るなんて珍しいな」
「ちょっと相談があって」

 私はパパの前に座る。

「どうしたの? 困ったことがあるならなんでも言って」

 ママが親身に話を聞いてくれる。

「そうじゃなくて、みんなを旅行に連れて行ってあげたいなって思って。日帰りになっちゃうけど。お菓子のテーマパークとかどうかな?」
「子供たちは喜ぶだろうけど、うちはあまり余裕がないからな」

 パパは小さく息をついた。

「お金のことは私に任せて。社員割で安く行けるから」

 そんなものあるかわからないけれど、安心させるために言う。でもダメもとで聞いてみようか。安くチケットが取れるかどうか。

「……じゃあ子供たちだけでも頼んでいいか? 俺たちは赤ん坊とのんびりしているから」
「わかった。任せて」

 お弁当を食べながら、学校と私の休みが重なる十日後に決めた。

「子供たちが喜ぶわ。ステラありがとう」

 ママは優しく目を細めた。
 食事を終えると、中庭で転移魔法の魔法陣を書いてゲートを繋げる。
 これですぐにでも行ける準備が整った。




 ミスティック・ツアーズに戻り、カウンター越しにフィンの前に座った。

「フィン、チケットを取って欲しいの」
「はい、わかりました」

 フィンは水晶端末を起動させ「どのチケットですか
?」と端末をタッチする。

「その前にセレスティアさんに聞きたいんですけど、社員は安くなるとかありますか?」
「あるわよ。安くなるというより、補助金を支給するという形ね。先に払ってもらうけれど、後から戻ってくるわ」
「すごく助かります。フィン、ハニーシュガー島のリトルパフベールのチケットを大人一人、子供十五人で取って」
「子供十五人?」
「私は弟妹が多いって言ったでしょ。家族旅行に連れて行ってあげたいの」
「そんなに多かったんですね」

 フィンは目を見張って口を開いた。
 フィンが操作するのをセレスティアさんが隣で見守る。

「あの、これでいいんですか?」

 フィンはセレスティアさんに購入画面を開いた状態で訊ねた。

「人数も間違っていないし、大丈夫よ」

 無事に購入して、購入完了画面を紙に印刷してくれる。

「これを入り口で見せれば入れるから。あとは補助金の申請書を書いてちょうだい」

 セレスティアさんがファイルから申請書を出し、私は記入していく。

「泊まる場所は予約しないんですか?」
「私の給料じゃ無理。日帰り旅行だよ」

 書き終えるとセレスティアさんに記入漏れがないかを確認してもらう。

「大丈夫ね。旅行楽しんでね」
「ありがとうございます」

 自分の席に座って時計に目を向けた。レオンを迎えにいくまであと二時間くらいある。
 時間までお客様に提案するプランを作成した。




「レオンたちを迎えに行ってきます」
「ステラさん、いってらっしゃい」

 時間になって立ち上がると、フィンが言葉とは裏腹に不満そうな表情をしていた。

「どうしたの?」
「いえ、妬いているだけです」
「誰に?」
「レオンさんに決まっているじゃないですか」

 レオンに妬く意味がわからなくて首を捻る。
 フィンはレオンのことを褒めたり妬いたり忙しいな。

「よくわかんないけど、遅れるといけないから行くから」

 転移魔法を発動させて、ルトアリン遺跡に移動した。
 約束の十分前なのに、レオンたちはまだ遺跡を探索中のようだ。

「珍しい。いつも私より先に待っているのに」

 遺跡を囲う石でできた低い塀に腰掛ける。入り口に目を向けるが、暗くてまだ出てくる気配もない。




 約束の時間になってもレオンたちは戻ってこなかった。
 その後も待ち続けても出てこない。

「何かあったんじゃ……」

 心の中が不安で澱んでいく。
 二十分を過ぎて、居ても立っても居られず、遺跡の中に足を踏み入れた。

 遺跡の中は薄暗く、風通しが悪いようでカビ臭い。
 進む先は真っ暗で何も見えず、静寂に包まれている。

「どうしよう」

 思わず漏れた声が反響した。
 レオンが帰ってこない場所に、私が行ってどうなるの。

 転移魔法は扉となる魔法陣を書いた場所でしか使えない。
 何かあった時にすぐに使える便利な魔法ではない。

 足がすくんで進めずにいると、ハッと思い返す。
 フィンはギルドにいた。戦えて治癒魔法まで使える。
 フィンに望みをかけて引き返した。

「王都のミスティック・ツアーズへ」

 魔法陣が光に包まれると、すぐに見慣れた店に景色が変わった。

「おかえりなさい。ステラ一人?」

 セレスティアさんが声をかけてくれるが、私はセレスティアさんの隣に座っているフィンの前のカウンターにバンと手をついて詰め寄る。

「レオンたちが帰ってこないの。お願い、助けて!」

 フィンは目を丸くして、すぐに真剣な瞳で頷いた。

「家に剣を取りに行ってきます。すぐに戻ります」

 フィンは勢いよく飛び出していく。

「私も行くわ」

 セレスティアさんが立ち上がると、ライナスが慌てて止める。

「危ないです」
「フィンは一ヶ月しかギルドにいなかったのよ。遺跡にあるトラップや危険生物に気付けないと思うの。ステラとフィンの二人でなんて行かせられないわ」
「でも、セレスティアさんはそういう場所で大怪我を負ったんですよね」
「そうよ。だから怖さを知っているの」

 扉が大きな音を立てて開く。息を切らせたフィンが戻ってきた。

「すぐに行きましょう」

 フィンが私の隣に立つ。

「フィン、私は逃げる時のために魔法を使う。私とステラは戦えないわ。任せるわよ」

 フィンが私とセレスティアさんの顔を交互に見て、力強く頷いた。

「わかりました」
「ライナスはギルドに連絡をして、応援を呼んで」

 セレスティアさんがランタンを持って私の隣に立った。
 魔法陣を展開させる。
 ライナスは「危険だと思ったらすぐに引き返してください」と店を出ていった。
 ギルドの本部に向かったのだろう。

「ルトアリン遺跡へ」

 光が辺りを覆い、遺跡に移動した。

「私が先頭を歩くから、後をついてきて。どこにトラップがあるかわからないから、壁には絶対に触らないで」

 私とフィンは「わかりました」と力強く頷く。

「ステラを真ん中にして、フィンは一番後ろを歩いてね」

 一列に並んで遺跡の中に入る。
 セレスティアさんの持っているランタンで、足元が照らされた。

 コツコツという靴音が響き、進むに連れてカビ臭さや埃っぽさが増す。

「ステラ、レオンさんたちを見つけられそうよ」

 セレスティアさんが私を安心させるように、優しい声で教えてくれる。

「本当ですか?」
「ええ。黒い石が落ちているでしょ? この遺跡は鉱物を含んでいるのか、青い光が混じった灰色をしている。真っ黒な石が落ちているのは不自然なの。多分レオンさんたちが帰るときの目印に落としていった物だと思うわ」
「それじゃあ、黒い石を辿ればレオンたちを見つけられるんですね」

 安否の確認はできていないけれど、レオンたちを見つけることができると少しだけ希望が見えた。
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