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10 水晶端末
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戻るとセレスティアさんがコーヒーを淹れてくれた。
レオンを危険な場所に連れていくたび、ミルクたっぷりの心が温かくなるようなコーヒーをくれる。
私はいつもブラックで飲むって、セレスティアさんも知っているのに。
気を遣われているんだろうな。セレスティアさん大好き。
湯気の立つコーヒーに息を吹きかけてから飲む。まろやかなミルクの甘味で体から力が抜けた。
「ステラ、ちょっといい? フィンに水晶端末の使い方を教えて欲しいの。私は集団旅行の見積もりを学校に持っていくし、ライナスはもうすぐお客様がいらしてご案内するから」
「わかりました」
セレスティアさんが立ち上がって、私はそこに座った。
セレスティアさんが扉を開くと、お客様が入れ違いに入ってきた。
「いらっしゃいませ」
立ち上がって頭を下げる。
ライナスが「お待ちしておりました」と声をかけ、すぐに転移魔法でお客様を目的地に連れていった。
私とフィンだけになって、店の中が静寂に包まれる。フィンの表情は暗い。
「なんかあったの? 暗いけど」
「いえ、……ステラさんはレオンさんと仲が良いんですね」
レオンは物心ついた時から一緒にいた。年も一つしか変わらないから、よく遊んだ。
「小さな頃から一緒だからね」
「そう、なんですか」
フィンの声が沈んでいく。
「俺の接客にも優しかったですし、爽やかでかっこよかったですし……」
ボソボソとレオンを褒め出した。
「それ、私じゃなくて本人に言ったほうが喜ぶんじゃない」
「いえ、レオンさんに喜んでもらいたいわけじゃなくて」
そこで黙ってしまったから、気分を変えるために水晶端末を手に取る。
板状の水晶に魔法石がはめ込まれ、魔法石に触れると起動した。
「教えてって言われたけど、登録はしたの?」
「登録? まだ何もしていません」
フィンは物珍しそうに水晶端末に目を向けた。
ちょっと気持ちは浮上したのかな?
画面を指で触り、登録準備をする。
「使える人を制限するために、登録をするの。この魔法石に指先で触ってみて。どの指でもいいから」
フィンが人差し指で魔法石に触れると、緑色に光った。
「これで登録完了」
「早いですね」
「指紋を読み込むだけだから」
「これは何に使うんですか?」
興味津々で水晶端末をフィンが覗いた。
私は画面に触れて操作していく。
「宿泊先や観光施設の予約を取ることができるの。例えば、新婚旅行のお客様の候補にあったシーリナ・ベイで予約したいとするでしょ」
画面に映るリストから、シーリナ・ベイを選んだ。
そうすると予約のできるホテルや観光施設がずらりと並ぶ。
「多いですね」
「リゾート地だからね。それから予算や条件で絞って、予約を取る」
「便利ですね。ステラさんやライナスさんが現地に行って予約をとっているのかと思いました」
「無理無理。私は一日五回しか転移魔法が使えないんだから」
ライナスは私より多いけれど、それでも七回だ。
いちいち現地まで行っていたら、効率も悪い。水晶端末なら、画面にタッチするだけで予約が取れるから、ものすごく重宝している。
「操作に慣れるためにも、セレスティアさんが戻ってくるまで好きに触っていいよ」
「はい、わかりました」
フィンはグタンを選ぶ。
イレーネさんが宿がないと言っていた通り、飲食店しか予約できる場所がなかった。
「ステラさんは旅行に行きたい場所はあるんですか?」
「私はハニーシュガー島のリトルパフベールかな」
「お菓子のテーマパークですもんね。食べるのが好きなステラさんにぴったりですね」
フィンがハニーシュガー島を選択する。
リトルパフベール以外にも、グラスを作る工房や島の周りを一周できる遊覧船があることを教えてくれる。
「いいじゃん。自然な笑顔だし、声も聞きやすい。その調子でお客様にもご提案頑張って」
フィンの背中をポンと叩く。
「俺はステラさんだからできたんです」
フィンが奥歯を噛み締め、真剣な瞳で私を映す。
「そうだよね。セレスティアさんは綺麗すぎて緊張するよね。でもすっごく優しいから、大丈夫!」
親指を立てれば、フィンが慌てた様子で否定する。
ずいっとフィンが身を乗り出して、私は思わず背を反らした。
「そうではなく、俺はステラさんだから安心できるんです」
目元を染めるフィンに見つめられ、背中を反らしたまま動けない。
無言で見つめ合っていると、ドアベルが鳴った。そちらに目を向けると、セレスティアさんが目を大きく見開いて口元に手を添えていた。
「ごめんなさい。邪魔しちゃったわね。でもそういうことは仕事が終わってからにするのよ」
「そういうことって?」
私が首を傾ければ、セレスティアさんが「イチャつくの」と苦笑する。
「イチャついてなんていません。ちゃんと操作方法も教えましたし」
「そうです。それにステラさんにはレオンさんが……」
フィンの周りの空気が暗くなった気がする。
それにしてもなんでレオン? レオンになんて全く興味ないけど。
私は自分の席に移動する。セレスティアさんが端末を操作しながらいろんな観光地の特徴を話し、フィンはメモをとりながら真剣に聞き入っていた。
しばらくするとライナスが戻ってきて、セレスティアさんに桃がたっぷり入ったゼリーのお土産を渡していた。
「ライナスありがとう」
微笑むセレスティアさんに、ライナスは照れ笑いを浮かべる。
「ライナス、私のは?」
手を差し出すと面倒くさそうに同じゼリーをくれた。フィンにも渡している。
「ありがとう! やった!」
「買わないとうるさいし、セレスティアさんに食べさせてもらうし。面倒だから買ってきた」
セレスティアさんにあーんって食べさせてもらったのが、よっぽど羨ましかったんだろうな。
全員で桃のゼリーを食べる。
ゼリーを口に入れれば甘みが広がり、舌の上でつるんと溶ける。
大きめの果肉がゴロゴロ入っていて、瑞々しい桃はしっかりとした食べ応えがあった。
「めちゃくちゃ美味しい。センスいいじゃん!」
「ステラに褒められても……」
「本当に美味しいわ。いつもありがとう」
「セレスティアさんに喜んでいただけるのが、何よりも嬉しいです!」
声も表情も私とセレスティアさんで露骨に変えすぎだろ。
ライナスに向かって下唇を突き出せば、鼻で笑われた。
「俺にまでありがとうございます。とても美味しいです」
「そうか。また買ってくるから」
フィンにも言葉が優しい。
「私にもまた買ってきて!」と釘を刺しておいた。
ライナスは不本意そうに口を引き結ぶ。
「……ついでなら」
絞り出した声に顔を輝かせる。
「セレスティアさんのついででもいいし! 言質取ったからな!」
「違う。フィンがセレスティアさんのついで。ステラはフィンのついで」
言っている意味がわからなくて眉間を狭めた。
「なんで私がフィンのついで?」
「フィンは可愛い後輩。ステラは可愛くない後輩だから」
「私のどこが可愛くない後輩なの?」
「フィンは謙虚だけど、ステラは初めから図々しかった」
鼻息荒く言われるが、腑に落ちない。
私が入社してすぐに距離を詰めたから、飾らず話せる仲になったのに。
言い合いしていたらお腹が空いてきた。
時計に目を向けると、十二時を過ぎていた。
「ご飯を食べに行ってくる」
立ち上がってお弁当を掴む。
「今日は外で食べるの?」
「家に帰りたくて」
「いってらっしゃい」
店を出て、隣のアパートの自宅ではなく、フィルチ孤児院に向かう。
レオンを危険な場所に連れていくたび、ミルクたっぷりの心が温かくなるようなコーヒーをくれる。
私はいつもブラックで飲むって、セレスティアさんも知っているのに。
気を遣われているんだろうな。セレスティアさん大好き。
湯気の立つコーヒーに息を吹きかけてから飲む。まろやかなミルクの甘味で体から力が抜けた。
「ステラ、ちょっといい? フィンに水晶端末の使い方を教えて欲しいの。私は集団旅行の見積もりを学校に持っていくし、ライナスはもうすぐお客様がいらしてご案内するから」
「わかりました」
セレスティアさんが立ち上がって、私はそこに座った。
セレスティアさんが扉を開くと、お客様が入れ違いに入ってきた。
「いらっしゃいませ」
立ち上がって頭を下げる。
ライナスが「お待ちしておりました」と声をかけ、すぐに転移魔法でお客様を目的地に連れていった。
私とフィンだけになって、店の中が静寂に包まれる。フィンの表情は暗い。
「なんかあったの? 暗いけど」
「いえ、……ステラさんはレオンさんと仲が良いんですね」
レオンは物心ついた時から一緒にいた。年も一つしか変わらないから、よく遊んだ。
「小さな頃から一緒だからね」
「そう、なんですか」
フィンの声が沈んでいく。
「俺の接客にも優しかったですし、爽やかでかっこよかったですし……」
ボソボソとレオンを褒め出した。
「それ、私じゃなくて本人に言ったほうが喜ぶんじゃない」
「いえ、レオンさんに喜んでもらいたいわけじゃなくて」
そこで黙ってしまったから、気分を変えるために水晶端末を手に取る。
板状の水晶に魔法石がはめ込まれ、魔法石に触れると起動した。
「教えてって言われたけど、登録はしたの?」
「登録? まだ何もしていません」
フィンは物珍しそうに水晶端末に目を向けた。
ちょっと気持ちは浮上したのかな?
画面を指で触り、登録準備をする。
「使える人を制限するために、登録をするの。この魔法石に指先で触ってみて。どの指でもいいから」
フィンが人差し指で魔法石に触れると、緑色に光った。
「これで登録完了」
「早いですね」
「指紋を読み込むだけだから」
「これは何に使うんですか?」
興味津々で水晶端末をフィンが覗いた。
私は画面に触れて操作していく。
「宿泊先や観光施設の予約を取ることができるの。例えば、新婚旅行のお客様の候補にあったシーリナ・ベイで予約したいとするでしょ」
画面に映るリストから、シーリナ・ベイを選んだ。
そうすると予約のできるホテルや観光施設がずらりと並ぶ。
「多いですね」
「リゾート地だからね。それから予算や条件で絞って、予約を取る」
「便利ですね。ステラさんやライナスさんが現地に行って予約をとっているのかと思いました」
「無理無理。私は一日五回しか転移魔法が使えないんだから」
ライナスは私より多いけれど、それでも七回だ。
いちいち現地まで行っていたら、効率も悪い。水晶端末なら、画面にタッチするだけで予約が取れるから、ものすごく重宝している。
「操作に慣れるためにも、セレスティアさんが戻ってくるまで好きに触っていいよ」
「はい、わかりました」
フィンはグタンを選ぶ。
イレーネさんが宿がないと言っていた通り、飲食店しか予約できる場所がなかった。
「ステラさんは旅行に行きたい場所はあるんですか?」
「私はハニーシュガー島のリトルパフベールかな」
「お菓子のテーマパークですもんね。食べるのが好きなステラさんにぴったりですね」
フィンがハニーシュガー島を選択する。
リトルパフベール以外にも、グラスを作る工房や島の周りを一周できる遊覧船があることを教えてくれる。
「いいじゃん。自然な笑顔だし、声も聞きやすい。その調子でお客様にもご提案頑張って」
フィンの背中をポンと叩く。
「俺はステラさんだからできたんです」
フィンが奥歯を噛み締め、真剣な瞳で私を映す。
「そうだよね。セレスティアさんは綺麗すぎて緊張するよね。でもすっごく優しいから、大丈夫!」
親指を立てれば、フィンが慌てた様子で否定する。
ずいっとフィンが身を乗り出して、私は思わず背を反らした。
「そうではなく、俺はステラさんだから安心できるんです」
目元を染めるフィンに見つめられ、背中を反らしたまま動けない。
無言で見つめ合っていると、ドアベルが鳴った。そちらに目を向けると、セレスティアさんが目を大きく見開いて口元に手を添えていた。
「ごめんなさい。邪魔しちゃったわね。でもそういうことは仕事が終わってからにするのよ」
「そういうことって?」
私が首を傾ければ、セレスティアさんが「イチャつくの」と苦笑する。
「イチャついてなんていません。ちゃんと操作方法も教えましたし」
「そうです。それにステラさんにはレオンさんが……」
フィンの周りの空気が暗くなった気がする。
それにしてもなんでレオン? レオンになんて全く興味ないけど。
私は自分の席に移動する。セレスティアさんが端末を操作しながらいろんな観光地の特徴を話し、フィンはメモをとりながら真剣に聞き入っていた。
しばらくするとライナスが戻ってきて、セレスティアさんに桃がたっぷり入ったゼリーのお土産を渡していた。
「ライナスありがとう」
微笑むセレスティアさんに、ライナスは照れ笑いを浮かべる。
「ライナス、私のは?」
手を差し出すと面倒くさそうに同じゼリーをくれた。フィンにも渡している。
「ありがとう! やった!」
「買わないとうるさいし、セレスティアさんに食べさせてもらうし。面倒だから買ってきた」
セレスティアさんにあーんって食べさせてもらったのが、よっぽど羨ましかったんだろうな。
全員で桃のゼリーを食べる。
ゼリーを口に入れれば甘みが広がり、舌の上でつるんと溶ける。
大きめの果肉がゴロゴロ入っていて、瑞々しい桃はしっかりとした食べ応えがあった。
「めちゃくちゃ美味しい。センスいいじゃん!」
「ステラに褒められても……」
「本当に美味しいわ。いつもありがとう」
「セレスティアさんに喜んでいただけるのが、何よりも嬉しいです!」
声も表情も私とセレスティアさんで露骨に変えすぎだろ。
ライナスに向かって下唇を突き出せば、鼻で笑われた。
「俺にまでありがとうございます。とても美味しいです」
「そうか。また買ってくるから」
フィンにも言葉が優しい。
「私にもまた買ってきて!」と釘を刺しておいた。
ライナスは不本意そうに口を引き結ぶ。
「……ついでなら」
絞り出した声に顔を輝かせる。
「セレスティアさんのついででもいいし! 言質取ったからな!」
「違う。フィンがセレスティアさんのついで。ステラはフィンのついで」
言っている意味がわからなくて眉間を狭めた。
「なんで私がフィンのついで?」
「フィンは可愛い後輩。ステラは可愛くない後輩だから」
「私のどこが可愛くない後輩なの?」
「フィンは謙虚だけど、ステラは初めから図々しかった」
鼻息荒く言われるが、腑に落ちない。
私が入社してすぐに距離を詰めたから、飾らず話せる仲になったのに。
言い合いしていたらお腹が空いてきた。
時計に目を向けると、十二時を過ぎていた。
「ご飯を食べに行ってくる」
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