ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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15 お弁当の交換

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 十一時になると、ドアベルを鳴らしながら扉が開いた。三歳くらいの男の子を真ん中に、両親と手を繋いでいる。
 男の子は丸いほっぺを真っ赤にして、わくわくを抑えきれないようで目がキラキラと輝いていた。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。すぐにラグアリアに向かいます」

 立ち上がってお辞儀をする。フィンもわずかに遅れて頭を下げた。

「すぐに戻ってくるから」
「はい、いってらっしゃい」

 フィンはとびっきりの笑顔で私を送り出す。
 フィンに向かって片手を上げてから、お客様のもとに向かう。

「こんにちは。おねがいします」

 大きな声で男の子が挨拶をしてくれた。
 私は目線を合わせるためにしゃがむ。

「こんにちは。今から旅行に行くけど、眩しくなるから目を閉じていられるかな?」

 男の子は顔がしわくちゃになるほどキツく目を瞑った。
 両親は愛おしそうに男の子を見つめる。
 集中して魔力を練ると、魔法陣が浮かび上がった。

「転移が終わるまで、魔法陣からは絶対に出ないでください。お子様の手も離さないでください。お願いいたします」

 両親が男の子の手を握る手に力を込めるのがわかった。

「それでは行きます。港町ラグアリアへ」

 魔法陣が光り、視界が白く染まる。一瞬の浮遊感があり、すぐに硬い地面に足が着く。
 ラグアリアの入り口に転移した。

「もう目を開けても大丈夫だよ」

 男の子がゆっくりと目を開ける。
 パチパチと丸い目を瞬かせて、満面の笑みを見せた。

「お姉ちゃんすごいね! どうやって違う場所に移動したの?」
「お姉ちゃんの魔法だよ」

 男の子はぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「もう一回やって!」
「また明日、帰る時にね。今日は美味しい物いっぱい食べて楽しんできて」

 両親に目を向ける。

「お迎えは明日の十四時でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「では十四時にこの場所でお待ちしております。いってらっしゃいませ」

 男の子と手を振りあって別れた。

「さて、戻るか」

 フィンは入社して二日目だ。短時間だとしても、一人では心細いだろう。

「王都のミスティック・ツアーズへ」

 すぐに引き返す。
 視界が開けると、フィンがポツンと座っていた。
 私と視線が絡むと、徐々に表情が明るくなる。

「一人の間、なにもなかった?」
「はい、ステラさんがすぐに帰ってきてくれたので。でもお客様が来たらどうしよう、ってすごく不安でしたが、ステラさんが戻ってきて安心しました」

 フィンの表情は緩みきっている。
 私はフィンの隣に腰を下ろした。

「昼休憩とっていいよ」
「ステラさんはどうされるんですか?」
「お客様が来たら対応しなきゃいけないから、私はここで食べる。いつもお弁当を持ってきてるから、気を遣わなくていいよ」
「俺もここで食べたいので、買ってきます」

 フィンは「すぐに戻ります」と飛び出して行った。
 私に気を使わずに、昼休憩くらいのんびりしたらいいのに。

 フィンは慣れない仕事を覚えようと、真面目に取り組んでいるのがわかる。疲れるだろうに。




 十分ほどしてフィンが息を弾ませながら戻ってくる。
 私は自分の席に移動して、フィンのイスをカウンターから持ってくる。

 カウンターだと、お客様が扉を開けた時に食べているところが見えてしまう。
 イスに座って、フィンが机にお弁当を置いた。

「マルデリのお弁当だ」
「食べたことありますか?」
「ない。王都のお店はあまり食べる機会がなくて」

 マルデリは王都では有名なお弁当屋だが、王都から出発するから経費で食べることもない。私は小さな頃から王都に住んでいるけれど、あまり店に詳しくない。

 私は自分のお弁当を出して、野菜やチーズを挟んだホットサンドにかぶりつく。

 横目でフィンのお弁当を見るけれど、ふわふわの卵焼きときつね色の魚フライが美味しそう。
 フィンが魚フライを齧ると、サクッといい音が聞こえて耳が幸せ。

「食べますか?」

 私がジッと見ていたからか、フィンが声をかけてくれた。

「いいの? じゃあ私のホットサンドと交換ね」

 魚フライをもらって、ホットサンドを差し出した。
 魚フライは咀嚼するたび口の中でサクサクといい音が響く。やっぱりこの音は、自分で出す方が幸せだ。

「ステラさんの手作りですよね?」

 フィンがホットサンドを両手で持ったまま凝視している。

「そうだけど、不味くはないから」
「いえ、味の心配をしているのではなく、ステラさんの手作り料理に感動してしまって。大事にします」
「今すぐ食べなさいよ」

 お弁当を大事にするってなに? 持って帰って保管でもするの? 腐るだけだ。
 フィンはホットサンドにかぶりつく。ゆっくり味わって飲み込んだ。

「美味しいです。ステラさんの手料理が食べられるなんて嬉しすぎて天にも昇る思いです」
「大袈裟」

 肩をすくめて、私は残りのホットサンドを食べる。
 私が食べ終わっても、フィンは噛み締めて食べていた。
 ドアベルの音が聞こえて、扉に目を向ける。レオンだ。

「ゆっくり食べていていいから」

 フィンに告げてから、カウンターに移動した。フィンは急いでお弁当を食べ切って、イスを持って隣に座る。
 レオンは私の前に座った。
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