ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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16 転移魔法のコツ

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「レオンどうしたの?」
「ステラたちが助けてくれただろ? お礼をしにきた」

 レオンは大きな箱をカウンターに置く。中身はいろんな味のプリン。

「ありがとう。みんなで食べるね」

 お店の奥にある小さな冷蔵庫にしまった。

「レオンは今日の調査には参加しなかったんだね」
「ああ。昨日怪我をしたから、今日は仕事をするなって言われた。フィンくんが治してくれたから大丈夫なのに」

 レオンは口を尖らせて不満そうだ。
 自分たちが隠し扉を見つけたのだから、その先に何があるのか自分の目で確かめたかったようだ。

「あんまり無理しないでよ」
「わかってる」

 レオンは目を細めて、頬を緩める。

「あの! ステラさんとレオンさんは本当にお付き合いしていないんですか?」

 フィンが急に大きな声を出すから、驚いて目を丸くする。

「ないない。俺は世界にステラと二人だけになったとしても、ステラとだけはつきあわない!」

 レオンは笑いながら手を横に振る。

「どうしてですか?」
「ステラを女だと思ったことがない」
「なんだと!」

 片眉を跳ね上げて睨みつけると「だってそうだろ」と反論される。

「ステラは男に混じって木登りやチャンバラで遊んでいたし、食事を奪おうとしてくるしで、未だに女の子って感じがしない。だから格好つけなくていいから、一緒にいて楽ではあるけど」
「……仲がいいですね。俺は一緒に食べても、おかずを取られませんでした」

 フィンがシュンと体を小さくする。

「取られないのはいいことじゃないの? 守るのたいへんだよ」

 小さな頃からの食事風景を思い返して、レオンはフィンに優しく声をかける。

「取らなかったのは、フィンが年下だから。私は下の子からは取らないの」

 孤児院にいた頃は、大人になって出ていった兄や姉が遊びに連れて行ってくれたり、美味しいものを食べさせてくれたりした。

 私がミスティック・ツアーズで働いて、初めてお給料をもらった時に兄や姉にお返しをしようと思ったことがある。

 みんなは「感謝するなら、下の子達に同じことをしてあげて」と私にお返しをさせなかった。みんな上の子達にしてもらったことを、下の子達に返している。
 だから私は年下からは取らないけど、年上には遠慮なくたかる。

 レオンはフィンの肩をバシバシと叩いた。

「俺とステラは血は繋がっていないけど兄妹だから安心して。気が強くてわがままで食い意地が張ってるけど、根はいい子だから。多分」
「はい! ステラさんはきちんと仕事を教えてくれますし、さっきは小さな子に優しく話しかけていました。仕事に対して真摯な姿を尊敬しています」

 拳を握って力説するフィンに、レオンが優しく笑いかける。

「じゃあステラのことよろしく。ステラ、また仕事をする時は頼むな」
「私は美味しいものがあるところに行きたいんだけど」

 頬を膨らませるが、レオンは眉尻を下げて笑い、片手を上げて店を出ていく。
 フィンが「よろしくと言われてしまいました」と嬉しそうに呟く。
 なんでフィンに私のことを頼むんだろう? 私の方が年上なのに。




 午後は三組のお客様の接客をした。
 フィンは言葉遣いも丁寧だし、お客様の言葉もきちんと聞いているしで、私は隣に座って少しサポートをすればいいだけだった。

 夕方になると、ライナスが十五人のギルドの人たちと帰ってくる。

「ご利用ありがとうございました」

 頭を下げると相手側も次々にお礼を言って出ていく。
 ライナスはまたすぐに転移魔法を使って消えた。
 しばらくすると、もう十五人とオーナーを連れて戻ってくる。

 ギルドの人たちや、オーナーとライナスも疲れているような浮かない表情をしていた。
 ギルドの人たちがいなくなると、オーナーは私とフィンに向かって声を顰める。

「ステラとフィンは、ギルドと業務提携を結んだことを誰かに話したか?」
「話してないよ」
「俺もです」

 業務提携の話を聞いたのは今日の朝だ。仕事中だから誰にも話していない。

「誰にも言うな。俺はギルドマスターと話をしてくる。お前たちは時間になったら帰れ」

 オーナーの纏う空気がピリピリしている。
 扉を雑に閉めて、オーナーは店を出て行った。

 しばらく静寂に包まれる。
 ライナスが自分の席に向かう足音で我に返った。

「ねぇ、何があったの? すごいお宝でも見つけたの?」

 ライナスは下唇を噛んで首を振った。

「お宝なんてものはなかった。詳しくは明日オーナーから話があると思う。僕から話していいかわからないから、何があったかは言えない」

 ライナスの表情は硬くて、あまりいいことではないのだろうと悟る。
 重い空気を変えたくて、極力明るい声で話しかける。

「ねぇ、ライナスはゲートを繋げるの速いでしょ? コツとかあるの?」
「魔法陣を速く描くために、光を動かす速度を上げる」
「そんなことはわかってんの。それをどうやるのか知りたいんだって!」
「集中する」

 大きく息を吐き出して、背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
 わかりきったことしか言わない。

「僕から見ると、ステラは集中できていないから遅い」
「そんなことない」

 口を尖らせてそっぽを向く。
 魔法陣を描く時には、他にないほど気を使っている。間違えたら初めからやり直しだし。
 フィンが私とライナスに交互に目を向け、オロオロとしている。

「ステラは描くことだけじゃなく、全体を見てるだろ? 僕は書いた部分なんかは確認したりせず、先しか見ていない。だから描くことだけに集中できる」
「でも全体を見ないと、上手く描けなくない?」
「じゃあこれは慣れだ。僕は書いた部分にまで気を張ったことはないから」

 ライナスは動かす光だけに集中しているらしい。私は光はもちろんだけど、魔法陣の全体を見ながら光を動かして描いている。見るところが多い私の方が遅いのだろう。

 次にゲートを繋げる時の参考にしよう。それができれば、私だってゲートを早く繋げるようになるかもしれない。
 危険なことがあって、私だけ役に立たないなんてこともなくなるはずだ。




 就業時間になって家に帰る。
 食事の準備をしながら、レオンにもらったプリンのことを思い出した。
 明日はセレスティアさんもいるだろうし、みんなで食べよう。
 楽しみで自然と頬が緩む。

 それなのに隣からまたガッシャーンと何かを落としたような音が聞こえてくるし、叫び声もした。

「一人暮らしで、こんなにうるさくなることってある?」

 フィンは何をして一人で騒いでいるんだろう。
 明日会ったら、うるさいって文句を言ってやろう。
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