ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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17 隠し部屋の奥

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 次の日の朝出勤すると、セレスティアさんとライナスとフィンがいて、私はレオンからもらったプリンを冷蔵庫から出して差し出した。

 私は紅茶のプリンを選ぶ。
 一口食べた瞬間、ふわりと紅茶の華やかな香りが広がった。舌の上でとろけるプリンは、甘さ控えめで紅茶の渋みがアクセントになっている。甘いものが苦手な人でも食べられそうだ。
 全員が食べ終わる頃に、オーナーが入ってきた。

「みんな揃っているな」
「オーナーおはよう。レオンがお礼にってプリンを持ってきたから食べて」
「ああ、後でもらおう。みんな俺の話を聞いてくれ」

 オーナーが硬い声を出し、私たちは姿勢を正す。
 昨日のことを、教えてくれるのかな。緊張でゴクリと唾を飲み込んだ。

「昨日ギルドと隠し扉の奥に向かった。そこでは植物が栽培されていた」

 誰がそんなところで育てていたんだろう。遺跡の隠し扉の奥なんて、自分で見にいくのも大変だ。

「その植物は、国が取り扱い指定している幻覚作用のあるアビラドンナという毒草だ」

 毒草?
 隠し扉の奥なんて人目がつかないから、悪いことをするのに都合が良かったんだ。

「ギルドの中に植物に詳しい人がいて、アビラドンナだとわかった。炎を扱える魔法使いたちが全てを燃やし、それを悪用される心配はない」

 私たちは顔を見合わせて、ホッと息を吐く。
 もうないのなら問題ない。

「ギルドが騎士団に知らせて、今日から騎士団が遺跡の調査に入る。騎士団に任せておけば、犯人も近いうちに捕まるだろう」
「それなら安心だね」

 私が頷くと、オーナーは小さく首を振る。

「いいか、俺たちがこのことに関わったことは、誰にも言うな。騎士団にはギルドが単独で見つけて処理をしたと報告している」
「なぜですか?」

 フィンが不思議そうに眉を顰める。
 私も気になる。いいことをしたんだから、お店の宣伝にもなりそうなのに。

「犯人たちは捕まっていない。栽培していたものが全部なくなっていたら、どんな行動を起こすかわからないだろ? 報復される可能性だってある。それでギルドとうちみたいな小さな会社が共同でやったと知られてみろ。狙われるのはうちだ」
「私たちの中で戦えるのはフィンだけ。ギルドマスターが私たちを守ために、そう提案してくれたの」

 セレスティアさんは夜までオーナーの家にいたから、先にオーナーに話を聞いていたそうだ。

「あとは転移魔法を使えるやつが犯人の中にいるはずだ」
「どういうこと?」
「僕は隠し扉の中にゲートを繋いでいたから、そこに転移した。ゴーレムは出てこなかったんだ。ギルドの人に隠し扉を開くとゴーレムに攻撃される仕掛けだと教えてもらった。毎回ゴーレムを倒して栽培場所にはいかないだろう」

 遺跡から一番近い街でも、歩いて一時間ほどだ。行くだけでも時間がかかる。
 転移魔法が悪用されていることに、胸の奥がキシリと痛んだ。

「ギルドに頼まれれば協力するが、うちの会社が関わっていることは絶対に口外するな」

 全員が「わかりました」と口を揃える。
 オーナーが体の力を抜いて、背もたれに体を預けた。

「報告は以上。お前たちはいつも通り働いていればいい」

 私はオーナーにプリンを渡す。
 オーナーは大きな口でプリンを頬張った。
 プリンを食べ終わると、オーナーは「ギルド本部に行ってくる」とお店を出て行く。

 お店を開けて仕事をしていると、ドアベルが鳴って扉が開いた。
 一昨日、新婚旅行の相談にいらしたお客様だ。
 全員で立ち上がって「いらっしゃいませ」と腰を折る。

 お客様が座って、私たちも腰を下ろした。
 お客様の幸せいっぱいといった表情が眩しい。

「新婚旅行先をシーリナ・ベイに決めました」
「ハニーシュガー島は子供が生まれたら、コメットロップは歳を取ってからでも楽しめると思ったので」
「皆さんがそれぞれのいいところを教えてくれたおかげで、新婚旅行以外でも旅行が楽しみです」

 お客様は満面の笑みで顔を見合わせた。

「ありがとうございます。お客様のお手伝いができて、私たちも嬉しく思います。日時やご予算はお決まりでしょうか?」

 セレスティアさんはお客様の話を元に、宿泊先や観光スポットをすすめている。
 フィンがセレスティアさんの接客を一言も漏らさないように、と真剣な瞳で聞き入っていた。

 お客様はセレスティアさんのすすめたプランを気に入ってくれたようで、すぐに予定が決まる。

 同意書を書いてもらい、セレスティアさんは目を通すとフィンに渡した。フィンは隅々まで確認するとファイルにしまう。
 私が昨日教えたことを、きちんと実践していた。

「ありがとうございます」
「当日もよろしくお願いします」

 お客様は来店された時も幸せそうだったけれど、帰る今はもっと輝いて見えた。

「ありがとうございました」

 私たちは一礼してお客様を見送った。

「喜んでくれて良かったわね」

 セレスティアさんがフィンに柔らかい笑みを向ける。

「セレスティアさんはどういう基準で、お客様にすすめたんですか? お客様はすすめたもの、全部喜んでいらしたので気になります」
「そうね……、新婚旅行だから予算の中で少し特別な演出のあるホテルを選んだの。お花を浮かべたお風呂や夜景の綺麗なお部屋ね。観光スポットは小さな子がいたり、歳を取ると難しくなるアクティビティなものを選んだわ。海底探検や魚介獲り体験なんかがそうね」

 フィンは口を半開きにして、感心したように頷くだけ。

「フィンだってできたでしょ。私にお店をすすめてくれたじゃん」

 昨日のことを話せば、セレスティアさんは口元で手を合わせて目を輝かせた。

「二日目でお客様のことを考えてご提案できるなんてすごいじゃない。お客様のことを第一に考えることができるなら、あとは慣れるだけよ」

 セレスティアさんに褒められて、フィンは照れくさそうにはにかむ。
 嫉妬でライナスがフィンにすごく不機嫌な顔を向けているけれど、ライナスもフィンが頑張っていることがわかるから黙っていた。
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