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21 落ちこぼれ
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入り口に向かおうとしたら、騎士に止められる。
ライナスが居心地悪そうに俯いた。
「ギルドに旅行会社が関わっていたことを黙っていた事情を聞いた。犯人捕縛に協力してくれたことを感謝する」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「だが、緊急事態とはいえ、家主に許可なくゲートを繋いだ。私有地では許可を得てからゲートを繋ぐことが法律で義務付けられている。よって、我々の立ち合いのもと、ゲートを閉じてもらいたい」
「わかりました。すぐに閉じます」
疲れてはいるけれど、違反をしたのは事実。ゲートを閉じればそのことに対しては不問にしてくれそうだから、すぐに隣の部屋に移動する。
ライナスはずっと浮かない顔で俯いていた。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、何もない」
ライナスは首を振り、無理に笑顔を作っているように見えた。
私とライナスは魔法陣を発動させ、魔法陣を消すために描くのと逆方向から光を動かしていく。
ライナスは私より先に消し終わり、少し遅れて私もゲートを閉じた。
二人とも消したことを確認され、帰ることを許可される。
「落ちこぼれのお前でも、役に立つことはあるんだな」
騎士から冷たい声を投げかけられる。
落ちこぼれ? 私のこと?
ムッとして騎士に視線を送ると、騎士はライナスを見ていた。ライナスは視線を避けるように、自分のつま先に目を向けている。
こいつ、なに言ってんの? ライナスが落ちこぼれなわけないじゃん。
「周りに迷惑をかけるなよ」
騎士がせせら笑い、ライナスは弱々しく「はい」と返事をした。
フィンがライナスを庇うように、騎士との間に立ってライナスを部屋から連れ出す。私もその後を追った。
建物を出るとライナスは緊張が解けたのか、大きく深呼吸をして、強張った体から力を抜く。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。恥ずかしいところを見せてすまない」
フィンが顔を覗き込むと、ライナスは空笑いを浮かべる。
騎士の顔も声も言葉も、思い出したらムカムカしてきた。私は頬を膨らませ、お店に向かいながら口を開く。
「何あれ。感じ悪い。ライナスが落ちこぼれなわけないでしょ。何で言い返さないの?」
「……さっきのは僕の兄なんだ。ヴァレリアン家は騎士の家系だけど、僕は騎士になれなかった。だから僕は家族の中で落ちこぼれなんだ」
ライナスは兄以外に祖父も父も、姉と弟も騎士だと教えてくれた。
「僕は子供の頃から体を動かすのは得意じゃなかった。でも勉強は好きだったから、本を読んで炎の魔法を使えるようになった。僕も家族も騎士団の魔法部隊に入るのが当然だと思っていた」
ライナスが転移魔法以外を使っているのを見たことがないから、炎の魔法が使えることに驚く。
「騎士学校の魔法学部に通って……」
「待って! 騎士学校? ってことはライナスは貴族?」
思わずライナスの言葉を遮って叫んでしまう。
道端なのを思い出して、慌てて口を押さえて肩をすくめた。
騎士学校に通えるのは、貴族の子供だけなはず。
孤児院出身で騎士になった兄たちもいるが、騎士学校には通えずに普通の学校を卒業してから、騎士の入団試験を受けていた。
「貴族と言っても爵位は男爵だし、あまり裕福ではなかったけど」
ライナスは愛想笑いを浮かべて話を続ける。
「僕は騎士学校に入学してから、魔法学部の中で成績は常にトップだった。でも卒業する年に、魔物討伐の実践訓練があった。僕はそこで騎士に向いていないとわかったんだ」
その時のことを思い出しているのか、ライナスは奥歯に力を込めて耐えるような表情を見せる。
私とフィンはライナスが話し始めるのを待った。
「僕は炎が扱えるし、討伐向きの攻撃型の能力だと自信を持っていた。でも、実際は戦うことができなかった。僕は命を奪う覚悟がなかった。魔物を前にすると体は震えて足がすくんでしまい、何もできなかった」
「そりゃそうでしょ。いきなり魔物を倒せだなんて、怖いに決まっている」
私の言葉を否定するように、ライナスは首を振った。
「同級生たちは魔物を倒していたよ。何匹倒せた、と自慢げに笑っていた。僕はその同級生たちのことも怖くなった。僕だって牛や豚を食べている。命を奪って生きているってわかっているけれど、畜産業の人たちとは違い、みんなは命を奪うことを楽しんでいるように見えた。それから僕は精神的な要因で、炎の魔法が使えなくなった」
かける言葉が見つからなくて、唾を飲み込む。
ライナスは魔物だとしても、攻撃することができなかったんだ。
「魔法が使えなくなり、トップだった成績は最下位になった。そんな時にミスティック・ツアーズを知ったんだ。僕はどこでもいいから、だれも僕を知らない場所に行きたかった。成績が下がったことで、家にも学校にも居場所がなくなったから」
自嘲するように話すライナスが悲しかった。
ライナスは私より転移魔法の扱いに長けているし、なんにも苦労なんてしていないんだと思っていた。
「入社したてのセレスティアさんが親身になって旅行先の提案をしてくれて、今は定年退職された社員が連れて行ってくれた。セレスティアさんは僕を気遣って、短い時間だったけど、空の旅をさせてくれた」
セレスティアさんのことを話すライナスの顔は晴れやかだった。
「セレスティアさんがいたから、ミスティック・ツアーズに就職したの?」
「いや、違う。その時はセレスティアさんではなく、旅行に興味を持った。僕の心を軽くしてくれたから。入社してから、セレスティアさんが怪我の後遺症で魔法を使える時間が限られていると知った時は驚いた。全くそんなことを感じさせなかったから。僕はそれを知ってから、お客様一人一人に対して真摯に向き合うセレスティアさんに惹かれたんだ」
「転移魔法は入社してから覚えたんですか?」
フィンが遠慮がちに聞く。
「学校を卒業する前だな。勉強だけは得意だったから、本を読んで独学で学んだ。属性のある魔法は生まれもった素質がいるだろ。でも転移魔法や治癒魔法みたいな属性のないものはだれでも使える。属性持ちの僕には使うことは難しかったが」
ライナスの言う通りだけれど、炎の属性を持っている人が、無属性の魔法を使えるようになるなんて聞いたことがなかった。
私が転移魔法を使えるのは、属性魔法の才能がないから。
ライナスは卒業する前に覚えたと言っていた。
一年もかからずに転移魔法を使えるようになるなんて、血の滲むような努力はもちろん、魔法の才能もあったんだ。
やっぱり落ちこぼれなんかじゃないじゃん。
「そんなわけで、僕はミスティック・ツアーズに入社した。騎士になれずに旅行会社に就職したことで勘当され、今は貴族ではない」
「……後悔していないの?」
「後悔? することなんてあるか? 僕は仕事に誇りを持っている。ステラだってそうだろ? 人を笑顔にできる、尊い仕事だ」
ライナスの心からの笑顔に頷いた。
もうすぐミスティック・ツアーズに着く。
「今の話はセレスティアさんにはするなよ」
「なんで?」
「僕が客として利用したことは覚えていないだろうし、弱っていた時の話だから恥ずかしいし」
徐々に語尾が小さくなっていく。
セレスティアさんには格好つけたいのだろう。
ライナスが居心地悪そうに俯いた。
「ギルドに旅行会社が関わっていたことを黙っていた事情を聞いた。犯人捕縛に協力してくれたことを感謝する」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「だが、緊急事態とはいえ、家主に許可なくゲートを繋いだ。私有地では許可を得てからゲートを繋ぐことが法律で義務付けられている。よって、我々の立ち合いのもと、ゲートを閉じてもらいたい」
「わかりました。すぐに閉じます」
疲れてはいるけれど、違反をしたのは事実。ゲートを閉じればそのことに対しては不問にしてくれそうだから、すぐに隣の部屋に移動する。
ライナスはずっと浮かない顔で俯いていた。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、何もない」
ライナスは首を振り、無理に笑顔を作っているように見えた。
私とライナスは魔法陣を発動させ、魔法陣を消すために描くのと逆方向から光を動かしていく。
ライナスは私より先に消し終わり、少し遅れて私もゲートを閉じた。
二人とも消したことを確認され、帰ることを許可される。
「落ちこぼれのお前でも、役に立つことはあるんだな」
騎士から冷たい声を投げかけられる。
落ちこぼれ? 私のこと?
ムッとして騎士に視線を送ると、騎士はライナスを見ていた。ライナスは視線を避けるように、自分のつま先に目を向けている。
こいつ、なに言ってんの? ライナスが落ちこぼれなわけないじゃん。
「周りに迷惑をかけるなよ」
騎士がせせら笑い、ライナスは弱々しく「はい」と返事をした。
フィンがライナスを庇うように、騎士との間に立ってライナスを部屋から連れ出す。私もその後を追った。
建物を出るとライナスは緊張が解けたのか、大きく深呼吸をして、強張った体から力を抜く。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。恥ずかしいところを見せてすまない」
フィンが顔を覗き込むと、ライナスは空笑いを浮かべる。
騎士の顔も声も言葉も、思い出したらムカムカしてきた。私は頬を膨らませ、お店に向かいながら口を開く。
「何あれ。感じ悪い。ライナスが落ちこぼれなわけないでしょ。何で言い返さないの?」
「……さっきのは僕の兄なんだ。ヴァレリアン家は騎士の家系だけど、僕は騎士になれなかった。だから僕は家族の中で落ちこぼれなんだ」
ライナスは兄以外に祖父も父も、姉と弟も騎士だと教えてくれた。
「僕は子供の頃から体を動かすのは得意じゃなかった。でも勉強は好きだったから、本を読んで炎の魔法を使えるようになった。僕も家族も騎士団の魔法部隊に入るのが当然だと思っていた」
ライナスが転移魔法以外を使っているのを見たことがないから、炎の魔法が使えることに驚く。
「騎士学校の魔法学部に通って……」
「待って! 騎士学校? ってことはライナスは貴族?」
思わずライナスの言葉を遮って叫んでしまう。
道端なのを思い出して、慌てて口を押さえて肩をすくめた。
騎士学校に通えるのは、貴族の子供だけなはず。
孤児院出身で騎士になった兄たちもいるが、騎士学校には通えずに普通の学校を卒業してから、騎士の入団試験を受けていた。
「貴族と言っても爵位は男爵だし、あまり裕福ではなかったけど」
ライナスは愛想笑いを浮かべて話を続ける。
「僕は騎士学校に入学してから、魔法学部の中で成績は常にトップだった。でも卒業する年に、魔物討伐の実践訓練があった。僕はそこで騎士に向いていないとわかったんだ」
その時のことを思い出しているのか、ライナスは奥歯に力を込めて耐えるような表情を見せる。
私とフィンはライナスが話し始めるのを待った。
「僕は炎が扱えるし、討伐向きの攻撃型の能力だと自信を持っていた。でも、実際は戦うことができなかった。僕は命を奪う覚悟がなかった。魔物を前にすると体は震えて足がすくんでしまい、何もできなかった」
「そりゃそうでしょ。いきなり魔物を倒せだなんて、怖いに決まっている」
私の言葉を否定するように、ライナスは首を振った。
「同級生たちは魔物を倒していたよ。何匹倒せた、と自慢げに笑っていた。僕はその同級生たちのことも怖くなった。僕だって牛や豚を食べている。命を奪って生きているってわかっているけれど、畜産業の人たちとは違い、みんなは命を奪うことを楽しんでいるように見えた。それから僕は精神的な要因で、炎の魔法が使えなくなった」
かける言葉が見つからなくて、唾を飲み込む。
ライナスは魔物だとしても、攻撃することができなかったんだ。
「魔法が使えなくなり、トップだった成績は最下位になった。そんな時にミスティック・ツアーズを知ったんだ。僕はどこでもいいから、だれも僕を知らない場所に行きたかった。成績が下がったことで、家にも学校にも居場所がなくなったから」
自嘲するように話すライナスが悲しかった。
ライナスは私より転移魔法の扱いに長けているし、なんにも苦労なんてしていないんだと思っていた。
「入社したてのセレスティアさんが親身になって旅行先の提案をしてくれて、今は定年退職された社員が連れて行ってくれた。セレスティアさんは僕を気遣って、短い時間だったけど、空の旅をさせてくれた」
セレスティアさんのことを話すライナスの顔は晴れやかだった。
「セレスティアさんがいたから、ミスティック・ツアーズに就職したの?」
「いや、違う。その時はセレスティアさんではなく、旅行に興味を持った。僕の心を軽くしてくれたから。入社してから、セレスティアさんが怪我の後遺症で魔法を使える時間が限られていると知った時は驚いた。全くそんなことを感じさせなかったから。僕はそれを知ってから、お客様一人一人に対して真摯に向き合うセレスティアさんに惹かれたんだ」
「転移魔法は入社してから覚えたんですか?」
フィンが遠慮がちに聞く。
「学校を卒業する前だな。勉強だけは得意だったから、本を読んで独学で学んだ。属性のある魔法は生まれもった素質がいるだろ。でも転移魔法や治癒魔法みたいな属性のないものはだれでも使える。属性持ちの僕には使うことは難しかったが」
ライナスの言う通りだけれど、炎の属性を持っている人が、無属性の魔法を使えるようになるなんて聞いたことがなかった。
私が転移魔法を使えるのは、属性魔法の才能がないから。
ライナスは卒業する前に覚えたと言っていた。
一年もかからずに転移魔法を使えるようになるなんて、血の滲むような努力はもちろん、魔法の才能もあったんだ。
やっぱり落ちこぼれなんかじゃないじゃん。
「そんなわけで、僕はミスティック・ツアーズに入社した。騎士になれずに旅行会社に就職したことで勘当され、今は貴族ではない」
「……後悔していないの?」
「後悔? することなんてあるか? 僕は仕事に誇りを持っている。ステラだってそうだろ? 人を笑顔にできる、尊い仕事だ」
ライナスの心からの笑顔に頷いた。
もうすぐミスティック・ツアーズに着く。
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