ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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23 ハニーシュガー島へ

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 お客様の旅行の送迎や、旅行のご相談を受けたりと、毎日楽しく働いた。

 孤児院の子供達とハニーシュガー島へ行く日になり、ポシェットにチケットと財布が入っていることを確認して家を出る。
 ちょうどフィンも隣の部屋から出てきた。

「ステラさんは今日、家族旅行なんですよね? いってらっしゃい」
「うん、行ってくる」

 一緒に階段を降りて、アパートの前で別れた。
 空は快晴。足取り軽く、孤児院に向かう。

 私が孤児院に着くとすぐに中庭に集まってきて、みんな準備万端。目をキラキラと輝かせて、楽しみにしてくれているのがわかって嬉しい。

 でも十五歳で最年長のティナだけが、申し訳なさそうに私に耳打ちをする。

「ステラちゃんが払ってくれるんだよね? ごめんね。働いたら返すね」

 お金の心配をされてしまった。
 休みの日に個人的に転移魔法を使うから、交通費はタダだし、テーマパークのチケットしか買っていないから、ずいぶん安く遊びに行ける。

「そんな心配しなくていいの。返したいと思うなら、私じゃなくて下の子達に何かしてあげて。私もそうしてもらったから」
「……わかった、ありがとう」

 ティナはいつも通り、とびっきりの笑顔を見せてくれた。

「今日はお菓子のテーマパークに行くけど、絶対にはぐれないでね」
「大丈夫だよ。手を繋いで行こうってみんなで決めたから」

 大きい子たちが小さな子の手を握る。一人ずつ面倒を見てくれるなら大丈夫そうか。

 私の手を握ったのは、一番小さな三歳のノエル。私は小さな手をそっと握り返した。

「じゃあ出発するから、私の周りに集まって」

 ぎゅうぎゅうに密着された。
 ここまで引っ付かなくても大丈夫なんだけど、と思うが、みんなが可愛くて黙っておく。

「みんな、ステラの言うことをきちんと聞くんだぞ」
「楽しんできてね」

 パパとママが手を振る。みんなは声を揃えて「はーい」と元気に返事をした。
 集中して魔力を練る。白い魔法陣が浮かび上がった。

「全員、魔法陣の中に入ってる?」
「大丈夫だよ」
「出ちゃうと行けないからね。お留守番になるのが嫌なら、絶対に出ちゃダメだよ」

 みんな更に中心に集まって、私は全方向から潰される。苦しいけど可愛いから許す。

「じゃあ行くよ。ハニーシュガー島へ」

 目を開けていられないほどの光に包まれて、一瞬の浮遊感の後に目を開ける。
 すぐに人数を数えて、全員いることを確認した。

 甘い香りが風に乗って漂ってくる。
 目の前にはお菓子のテーマパーク、リトルパフベール。
 大きなチュロスのアーチに、子供たちは興奮を隠せない様子だ。

「受付を済ませるから、ちょっと待ってて」

 受付の人に人数を確認してもらう。一人ずつ個包装されたお菓子をもらった。私はマカロン。

「ぼくはクッキーをもらったよ」

 ノエルが星型のクッキーを見せてくれた。

「割れちゃうといけないから、私が持っていようか?」
「ステラちゃんありがとう」

 ノエルからクッキーを受け取って、マカロンと一緒にポシェットにしまう。

「お菓子の家の材料だから無くさないでよ」

 全員が「はーい」と返事をして、チュロスのアーチをくぐる。
 パーク内は夢のようなお菓子の世界が広がっていた。

 まず出迎えてくれるのは、大きなシュガークラフトの家。陽の光でキラキラと輝いている。
 みんな口を半開きにして、釘付けになっている。

「全部本物のお菓子でできてるの?」
「そうだよ。でも美味しそうだからって、食べちゃダメだからね」

 触らないでください、と書いてあるのに手を伸ばしている男の子の頭をポンと叩いた。

「綺麗だし甘い匂いがするけど、腐ったりしないの?」
「お菓子に時間停止の魔法をかけているから、腐らないよ」

 みんなは「すごーい」と大はしゃぎ。連れてきてよかった。
 シュガークラフトのエリアを抜けると、大きなプリンの山が見えた。
 みんな山の麓のプルプルとしたプリンに今にもかぶりつきそうなほど夢中だ。

「ここからだとプリンのてっぺんが見えないね」

 クリームやフルーツで綺麗に飾り付けられているみたいだから、見てみたかった。

「ステラちゃん、お空を飛んで見られるみたいだよ」

 子供が指を差す方向に目を向けると、大きな箱に人を乗せて上昇させている魔法使いがいた。

「せっかくだし見たいよね。並ぼうか」

 順番待ちでも、大勢で話しながらだとあっという間に時間が過ぎる。
 私たちの番になり、みんなで箱に乗り込んだ。

「身を乗り出しちゃダメだからね」

 元気の良い「はーい」という返事が揃った。
 ゆっくり浮上し、プリンのてっぺんより高い位置で停止する。

 クリームでリトルパフベールと大きく書かれていて、それを彩るようにイチゴやメロンやオレンジなど、カラフルなフルーツが配置されていた。

「きれー」
「美味しそう!」
「遠くの方まで見えるね」

 子供たちから感嘆の声が上がる。
 プリンの山がすぐ近くにあるからそこに目がいきがちだが、パーク全体を一望でき、これから見て回るエリアに期待が高まる。
 箱がゆっくりと降りていき、次のエリアに向かった。

 次に見えたのはチョコレートの滝。ビターとホワイトとイチゴの三色の滝がある。滝つぼは同じだから、中心にいくにつれてチョコレートが混ざり合って、複雑な色になっていた。

「ステラちゃん、飛び込んでもいいい?」
「気持ちはわかるけど、絶対にやめて!」

 泳ぎながら食べるなんて夢のようだけれど、それをやったら確実に出禁になる。
 私も我慢するから、みんなも我慢して。

「あれやりたい!」

 袖を引かれてそちらを見ると、滝つぼの中にある台座に後ろ向きでチョコレートのかけらを投げ入れるというものだった。
 台座に乗ると願いが叶って、滝つぼに落ちても、滝の材料になるから楽しめる。

「みんなでやろうか」

 お金を払って一人一個チョコレートをもらう。
 順番に後ろ向きで投げ入れるけれど、みんな入らなかった。

 私は願い事を何にしよう?
 やっぱり美味しいものをたくさん食べたい? でもそれはいつものことだし。

 しばらく考えて、『フィンの作る美味しい料理が食べたい』に決める。
 最近は少しだけ静かになったけれど、全然料理を持ってくる気配がない。

 後ろを向いてチョコレートを放る。振り返って放物線を描くチョコレートを目で追うが、滝つぼの中に落ちてしまった。

「残念。難しいね」
「台座に乗ってるチョコレート、少ないもんね」
「台座に乗らなかったけど、みんなと楽しい思い出ができたから、私の願い事は叶ったよ」

 ティナの言葉に「僕も」「私も」と次々に声が上がる。

「私もすっごく楽しい。またみんなで遊びに来ようね」

 私が言えば、みんなのはしゃぐ声が響き渡った。
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