ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

文字の大きさ
30 / 36

30 美味しいパイシチュー

しおりを挟む
「ステラさん、ルミナちゃんとエレナちゃんが待っているので、着替えに行かれたらどうですか?」
「あっ、そうね。三人の可愛い格好を見られるの、楽しみだわ」

 フィンが私をずっと見つめていたルミナちゃんとエレナちゃんを気遣って、声をかけてくれた。セレスティアさんも同調する。

「待たせてごめんね。着替えに行こうか」

 顔をパッと輝かせた二人に手を引かれ「早く早く」と急かされる。
 首を後ろに向けると、フィンがセレスティアさんに声をかけていた。

 なにかフォローをしているのだと思うが、胸の奥で澱みのようなものを感じて首を捻る。

 少しの不快感があったけれど、私を引っ張る二人に「ステラちゃん遅いよ」と言われ、二人と店に入れば気にならなくなった。
 受付を済ませ、はたと気付く。

「ねえ、ママは誘わなくてよかったの?」
「ママはお腹に赤ちゃんがいるから着ないんだって」
「お腹を出すと、赤ちゃんが寒がるって言ってた」

 フィオナさんはお腹が出ていないし、オーナーからも聞いていなかったから驚いた。

「じゃあ二人はお姉ちゃんになるんだね」
「うん、赤ちゃん楽しみ」
「いっぱいヨシヨシしてあげるんだ」

 二人はピンクとオレンジの衣装を持って更衣室に入る。
 私は薄い紫を選んだ。

 着替えて全身を鏡に映すと上半身は肩もお腹も出ていて、隠れているのが胸だけなのは心許ない。ふわりとした透け感のあるパンツは軽くて着心地がいい。

 更衣室を出ると、ルミナちゃんとエレナちゃんが準備万端で待っていた。

「二人とも似合っているね。可愛いよ」

 二人は得意げな顔をして、えっへんと胸を張る。

「パパとママに見せに行こ」

 手を繋いで駆けていく二人を追いかける。
 店を出ると、二人はオーナーに飛びついた。オーナーは軽々と持ち上げて、大袈裟に目を見張る。

「どこのお姫様かと思ったら、ルミナとエレナだったのか」

 はしゃぐ二人は可愛らしい。

「ステラ、似合うじゃない」

 セレスティアさんが満面の笑みで褒めてくれる。
 その隣でフィンはボーッと立ち尽くしていた。

「フィンはどうしたんですか?」

 セレスティアさんに聞くと、フィンに目を向けて首を傾ける。

「さっきまでは普通に話してくれていたわよ」

 フィンがハッと我に返り「似合っています。綺麗です」と大声を上げて、私は戸惑いながら「ありがとう」と返す。
 フィンの声で周りの人に注目されて、居心地の悪さを感じる。

「ボーッとしていたのではなくて、見惚れていたのね」
「はい、その通りです」

 セレスティアさんにフィンは何度も頷いた。
 好意を向けられることに慣れていなくて、落ち着かない。

 オーナーたちの方に足を向ける。フィンとセレスティアさんもついてきた。

「オーナー、昼食は名物のパイシチューを食べるでしょ? 美味しそうなお店をピックアップしたんだけど、ここから少し距離があるんだ。だからゴンドラで移動しない?」
「ああ、いいな」
「お船に乗れるって」

 フィオナさんがルミナちゃんとエレナちゃんに言えば、二人は両手を上げて喜んだ。




 近くにあるゴンドラ乗り場に移動して並ぶ。
 ゴンドラが着くと、順番に乗り込んでいく。

 私の前にいるフィンがゴンドラに乗ると、振り返って手のひらを上に向けてこちらに差し出した。

「ステラさん、気をつけてください」
「あっ、ありがとう」

 そっと手を重ねると、ぎゅっと握られてゴンドラに乗るのを支えてくれる。
 ライナスもセレスティアさんに手を差し出した。セレスティアさんは頬を染めて、ソワソワした様子でライナスの手に乗せた。

 セレスティアさんがライナスを意識している。
 今までこんなセレスティアさんを見たことがなくて新鮮だ。
 この旅行でくっつきそうだな。

 横目で二人を眺めながらそんなことを思っていると、ゆっくりゴンドラが動き始めた。

 ゴンドラは水面を滑るように進んでいく。運河沿いの屋台の店員が、こちらに向かって手を振っていた。
 船頭が民謡を歌いながら漕ぎ、行き交うゴンドラを器用にかわしていく。

「風が気持ちいい」

 爽やかな風に目を細める。たゆたう髪を手で押さえた。

「水も綺麗ですね」

 フィンに言われて水面に目を向ける。運河沿いの建物が映り、陽の光を浴びて煌めいていた。
 ライナスとセレスティアさんは景色を楽しみながら話していていい雰囲気。

 オーナー家族もゴンドラを楽しんでいるようだった。
 私は船頭に話しかけて、今から行くお店について聞くと美味しいと太鼓判をもらって期待が高まる。




 ゴンドラがゆっくりと停止した。
 降りる時もフィンが手を引いてくれる。
 目の前がパイシチューのお店で、店内は観光客で賑わっていた。

 四人掛けの席を二つくっつけてもらい、みんなでメニューを眺める。
 いろんなシチューが選べて迷ってしまう。
 シーフードも気になるけれど、カボチャにも惹かれる。

「ステラは決まったのか?」
「待って、まだ迷ってる。どっちにしよう」
「食えるなら二つ頼んでもいいぞ」

 オーナーの提案は魅力的だけれど、食べられるかわからないし、この後も何か食べるかもしれないから散々悩んでカボチャに決めた。
 注文をして、今か今かと楽しみに待つ。

「ステラさんはこのお店に来たことがあるんですか?」
「ないよ。以前来た時に気になってチェックしていたから知っていただけ」

 当時は経費が1000ゼニーだったから、泣く泣く諦めたお店だ。食べたいお店リストに入れていた。

 今日はオーナーの奢りだから、このお店のパイシチューを絶対に食べると決めていた。

 しばらくして運ばれてきたパイシチューは思っていたよりも大きかった。

 さっそくスプーンでパイを割る。中にはゴロゴロとした大きなカボチャが見えた。
 スプーンですくって一口含むと、サクサクのパイ生地ととろりとしたカボチャのシチューが絡み合う。カボチャの優しい甘さとバターの芳醇な香りが口いっぱいに広がった。

「美味しい、幸せ!」

 食べる手が止まらない。

「ステラ、私のトマトのクリームシチューも食べてみる?」

 セレスティアさんに差し出されて、飛びついた。
 トマトの爽やかな酸味とパイの香ばしさが絶妙にマッチしていて、いくらでも食べられそうな味だ。

「美味しいです。ありがとうございます」

 私もセレスティアさんに自分のパイシチューを差し出した。
 食べるとセレスティアさんも「美味しい」と頬骨を上げる。
 フィンは切なげに私をジッと見つめていた。

 フィンは私と同じカボチャのパイシチューを選んでいた。
 もしかして、私のパイシチューが狙われている?

 弟妹もまだ食べたい時に、こんな目で私をジッと見ていた気がする。
 パイシチューをフィンから少し遠ざけてから頬張る。

「ステラさんと別の料理を注文すればよかった……」

 大きな息と共にフィンが呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ㊗️HOTランキング3位!(2/02) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...