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29 社員旅行
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小さなバッグに着替えを入れた。
八時にフィンが迎えにきて家を出る。
今日は社員旅行。王都は少し雲行きが怪しいけれど、エーテルナの天気はどうだろうか?
晴れた日は街中の水が太陽に照らされて煌めき、一番綺麗な水の都を堪能できる。
「社員旅行楽しみですね。俺は楽しみすぎて昨日はなかなか眠れませんでした」
フィンの目は少し赤い。
「ちゃんと寝ないと、旅行を楽しめないよ。オーナーが全部出してくれるんだから、美味しいものをいっぱい食べなきゃ!」
お昼ご飯を楽しみにして、朝ごはんは抜いた。
パイシチュー楽しみだな。お腹パンパンになるまで食べようと心が躍る。
店に入るとセレスティアさんとライナスが話し合っていた。
「おはようございます」
「何をしているんですか?」
フィンが挨拶をして、私は二人の手元を覗き込んだ。
「今から学校の団体旅行をご案内するでしょ? 五十人だとステラとライナスが一回ずつじゃ無理なのか話していたの」
「ちょっと厳しいと思うので、僕が二回転移魔法を使います」
ライナスは往復で四回転移魔法を使うことになる。
「大丈夫なの? そんなにすぐに転移魔法を使って」
「少し疲れると思うから、社員旅行はステラに任せる」
「わかった」
十分ほど過ぎ、扉が開かれた。
オーナーが「おはよう」と大きな声を出し、家族と入ってくる。
「フィンは初めてだな。妻のフィオナと娘のルミナとエレナだ」
フィオナさんが「よろしくお願いします」と頭を下げると、フィンも慌てて倣った。
「ルミナです。よろしくね」
「エレナです。旅行楽しみだね」
ピンクのリボンをつけたルミナちゃんと、オレンジのリボンをつけたエレナちゃんがフィンに挨拶をする。
動くたびに、細いツインテールがふわりと揺れるのが可愛らしい。
フィンは二人と目線を合わせるようにしゃがむ。
「フィンです。仲良くしてね」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて二人は喜びをあらわにする。
「もうすぐお客様が来るから、静かにしていろよ」
オーナーに言われて、二人は「はーい」と声を揃える。
「中に入っておいで。オレンジジュースがあるわよ」
セレスティアさんに招かれ、二人は私とライナスの席に座った。両手でグラスを持ち、オレンジジュースを飲み干している。
扉がノックされ、オーナーが開きに行く。
教師と学生、合わせて五十人が店の前に並んでいた。
「ご利用ありがとうございます。三回に分けて転移魔法を使ってご案内いたします」
ライナスが教師に説明すると、最初に十六人が店に入ってきた。
ライナスが転移魔法を使うと、すぐに次の十七人が入ってくる。
学生たちは足元に浮かぶ魔法陣に興味津々のようだ。
「魔法陣の外には出ないでください」
私が転移魔法を発動させると、視界が真っ白な光で染まり、すぐに目的地に到着する。
ライナスが戻るために魔法陣を展開したまま学生たちが離れていくのを待っていた。
「ステラ、僕の魔法陣に入れ」
帰るところが一緒だから、私を温存させてくれようとしているのだろう。
「ありがとう」
ライナスの魔法陣に乗ると、すぐに光に包まれた。
ミスティックツアーズに到着して、私はすぐに離れる。
ライナスはまたすぐに転移魔法で待機していた十七人の学生を連れて行った。
お客様がいなくなると、全員がカウンターから出てくる。
ライナスの荷物をフィンが持ち、ライナスが帰ってきたらすぐに向かえるように魔法陣を展開した。
ルミナちゃんとエレナちゃんは目を輝かせる。
「私たち、大きくなったら転移魔法を覚えるんだ」
「大人になったらここで働くのが夢なの」
顔を見合わせて「ねー」と首を傾ける。
オーナーは泣きそうなのか、目頭を押さえていた。フィオナさんがオーナーの背をさする。
「一緒に働けるの楽しみにしているね」
私が声をかけると同時に、ライナスが戻ってきた。
ライナスはフィンから荷物を受け取る。
「じゃあエーテルナに向かうよ」
全員を魔法陣の光で包み込み、光が晴れるとエーテルナに到着していた。
エーテルナは水の都と呼ばれるだけあって、王都に次ぐ大きな街だ。
運河が街の中を巡っていて、色とりどりの船がひしめき合っている。船頭たちが陽気な歌を響かせていた。
天気も良く、運河に陽の光が反射して眩しいほど輝いている。
「あっ! お姫様!」
エレナちゃんの視線の先には、民族衣装を着た屋台の店員がいた。
「まずはレンタル衣装のお店に行きますか?」
フィンがオーナーに声をかけると、オーナーは頷いた。
「そうだな。お姫様の服を着るか?」
オーナーが左手でルミナちゃん、右手でエレナちゃんを抱えると「着る!」と叫んで二人は両側からオーナーの首に抱きついた。
可愛い娘にオーナーはデレデレ。
「オーナーの意外な一面を見ました」
フィンは初めてだから、目を丸くしていた。
「娘だけじゃなくて、フィオナさんにもあんな感じだから」
こっそり教えると、さらに目を瞬かせる。
街の入り口から真っ直ぐ進むと、レンタル衣装の店があった。
ショーウインドーにはカラフルな民族衣装を身につけたマネキンが飾られている。
オーナーが二人を下ろすと、キラキラと瞳を輝かせてガラスに張り付くように見入っていた。
「何色の服にするの?」
「ピンク」
「オレンジ」
二人は自分の付けているリボンの色と揃える。
「ステラちゃんとセレスティアちゃんも着ようよ」
肌の出る面積が多くて少し迷ったけれど、こういう時じゃないと着る機会もないだろうと頷く。
「いいよ。私も着ようかな」
セレスティアさんに視線を送ると、胸元で服をギュッと掴み、不安そうに瞳を揺らしていた。
「私はやめとく」
ルミナちゃんとエレナちゃんに誘われたのに、セレスティアさんが断るのに驚いた。
「どうしてですか? 絶対似合うのに」
手足が長くて凹凸のある体型のセレスティアさんなら、街中の視線を釘付けにできるだろうに。
セレスティアさんは微かに俯いて視線を彷徨わせる。
少しの間迷っていたが、ボソリと呟いた。
「傷が目立つから」
セレスティアさんは大怪我をして、ギルドを辞めた。傷跡が残っているなんて知らなくて、無神経に聞いてしまったことに落ち込む。
「すみません」
「ステラが謝ることじゃないわ。三人の可愛い姿、楽しみにしているわ」
セレスティアさんはいつものように穏やかに笑う。
でも無理をしているんじゃないかと気になった。
ライナスがセレスティアさんの前に立ち、真剣な瞳でセレスティアさんを見つめる。
緊張をしているのか、口は引き結ばれていた。深呼吸をして、小さく頷く。
「セレスティアさんはお綺麗ですが、それだけでなく内面もとても魅力的です。僕は学生の頃にミスティック・ツアーズを利用して、旅行の素晴らしさを知りました。それを教えてくれたのは、セレスティアさんです。僕はセレスティアさんの美しさが傷で陰ることはないと思います。セレスティアさんが着たくないのならいいのですが、好きな格好をして欲しいと思いました」
ライナスは頭を下げると離れていく。髪から覗く耳が赤かった。
こちらに背を向けて、オーナーとフィオナさんと話し始めた。
セレスティアさんに視線を送ると、ライナスに負けず劣らず真っ赤だった。心なしか瞳が潤んでいる。
「どうしましたか?」
セレスティアさんは「え? あっ、ふぇ?」と戸惑って意味のなさない言葉を発した。
両頬を押さえて、大きく息を吸い込むと少し落ち着いたようだ。
「えっと、ライナスって私のことが好きだったの?」
「あんなにわかりやすいのに、気付いていなかったんですか?」
その事実に口をあんぐりと開ける。
ライナスはセレスティアさんにだけ、明らかに態度が違うのに。
少しライナスが不憫に思えた。
セレスティアさんは湯気でも出るんじゃないかというほど、更に真っ赤になる。
八時にフィンが迎えにきて家を出る。
今日は社員旅行。王都は少し雲行きが怪しいけれど、エーテルナの天気はどうだろうか?
晴れた日は街中の水が太陽に照らされて煌めき、一番綺麗な水の都を堪能できる。
「社員旅行楽しみですね。俺は楽しみすぎて昨日はなかなか眠れませんでした」
フィンの目は少し赤い。
「ちゃんと寝ないと、旅行を楽しめないよ。オーナーが全部出してくれるんだから、美味しいものをいっぱい食べなきゃ!」
お昼ご飯を楽しみにして、朝ごはんは抜いた。
パイシチュー楽しみだな。お腹パンパンになるまで食べようと心が躍る。
店に入るとセレスティアさんとライナスが話し合っていた。
「おはようございます」
「何をしているんですか?」
フィンが挨拶をして、私は二人の手元を覗き込んだ。
「今から学校の団体旅行をご案内するでしょ? 五十人だとステラとライナスが一回ずつじゃ無理なのか話していたの」
「ちょっと厳しいと思うので、僕が二回転移魔法を使います」
ライナスは往復で四回転移魔法を使うことになる。
「大丈夫なの? そんなにすぐに転移魔法を使って」
「少し疲れると思うから、社員旅行はステラに任せる」
「わかった」
十分ほど過ぎ、扉が開かれた。
オーナーが「おはよう」と大きな声を出し、家族と入ってくる。
「フィンは初めてだな。妻のフィオナと娘のルミナとエレナだ」
フィオナさんが「よろしくお願いします」と頭を下げると、フィンも慌てて倣った。
「ルミナです。よろしくね」
「エレナです。旅行楽しみだね」
ピンクのリボンをつけたルミナちゃんと、オレンジのリボンをつけたエレナちゃんがフィンに挨拶をする。
動くたびに、細いツインテールがふわりと揺れるのが可愛らしい。
フィンは二人と目線を合わせるようにしゃがむ。
「フィンです。仲良くしてね」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて二人は喜びをあらわにする。
「もうすぐお客様が来るから、静かにしていろよ」
オーナーに言われて、二人は「はーい」と声を揃える。
「中に入っておいで。オレンジジュースがあるわよ」
セレスティアさんに招かれ、二人は私とライナスの席に座った。両手でグラスを持ち、オレンジジュースを飲み干している。
扉がノックされ、オーナーが開きに行く。
教師と学生、合わせて五十人が店の前に並んでいた。
「ご利用ありがとうございます。三回に分けて転移魔法を使ってご案内いたします」
ライナスが教師に説明すると、最初に十六人が店に入ってきた。
ライナスが転移魔法を使うと、すぐに次の十七人が入ってくる。
学生たちは足元に浮かぶ魔法陣に興味津々のようだ。
「魔法陣の外には出ないでください」
私が転移魔法を発動させると、視界が真っ白な光で染まり、すぐに目的地に到着する。
ライナスが戻るために魔法陣を展開したまま学生たちが離れていくのを待っていた。
「ステラ、僕の魔法陣に入れ」
帰るところが一緒だから、私を温存させてくれようとしているのだろう。
「ありがとう」
ライナスの魔法陣に乗ると、すぐに光に包まれた。
ミスティックツアーズに到着して、私はすぐに離れる。
ライナスはまたすぐに転移魔法で待機していた十七人の学生を連れて行った。
お客様がいなくなると、全員がカウンターから出てくる。
ライナスの荷物をフィンが持ち、ライナスが帰ってきたらすぐに向かえるように魔法陣を展開した。
ルミナちゃんとエレナちゃんは目を輝かせる。
「私たち、大きくなったら転移魔法を覚えるんだ」
「大人になったらここで働くのが夢なの」
顔を見合わせて「ねー」と首を傾ける。
オーナーは泣きそうなのか、目頭を押さえていた。フィオナさんがオーナーの背をさする。
「一緒に働けるの楽しみにしているね」
私が声をかけると同時に、ライナスが戻ってきた。
ライナスはフィンから荷物を受け取る。
「じゃあエーテルナに向かうよ」
全員を魔法陣の光で包み込み、光が晴れるとエーテルナに到着していた。
エーテルナは水の都と呼ばれるだけあって、王都に次ぐ大きな街だ。
運河が街の中を巡っていて、色とりどりの船がひしめき合っている。船頭たちが陽気な歌を響かせていた。
天気も良く、運河に陽の光が反射して眩しいほど輝いている。
「あっ! お姫様!」
エレナちゃんの視線の先には、民族衣装を着た屋台の店員がいた。
「まずはレンタル衣装のお店に行きますか?」
フィンがオーナーに声をかけると、オーナーは頷いた。
「そうだな。お姫様の服を着るか?」
オーナーが左手でルミナちゃん、右手でエレナちゃんを抱えると「着る!」と叫んで二人は両側からオーナーの首に抱きついた。
可愛い娘にオーナーはデレデレ。
「オーナーの意外な一面を見ました」
フィンは初めてだから、目を丸くしていた。
「娘だけじゃなくて、フィオナさんにもあんな感じだから」
こっそり教えると、さらに目を瞬かせる。
街の入り口から真っ直ぐ進むと、レンタル衣装の店があった。
ショーウインドーにはカラフルな民族衣装を身につけたマネキンが飾られている。
オーナーが二人を下ろすと、キラキラと瞳を輝かせてガラスに張り付くように見入っていた。
「何色の服にするの?」
「ピンク」
「オレンジ」
二人は自分の付けているリボンの色と揃える。
「ステラちゃんとセレスティアちゃんも着ようよ」
肌の出る面積が多くて少し迷ったけれど、こういう時じゃないと着る機会もないだろうと頷く。
「いいよ。私も着ようかな」
セレスティアさんに視線を送ると、胸元で服をギュッと掴み、不安そうに瞳を揺らしていた。
「私はやめとく」
ルミナちゃんとエレナちゃんに誘われたのに、セレスティアさんが断るのに驚いた。
「どうしてですか? 絶対似合うのに」
手足が長くて凹凸のある体型のセレスティアさんなら、街中の視線を釘付けにできるだろうに。
セレスティアさんは微かに俯いて視線を彷徨わせる。
少しの間迷っていたが、ボソリと呟いた。
「傷が目立つから」
セレスティアさんは大怪我をして、ギルドを辞めた。傷跡が残っているなんて知らなくて、無神経に聞いてしまったことに落ち込む。
「すみません」
「ステラが謝ることじゃないわ。三人の可愛い姿、楽しみにしているわ」
セレスティアさんはいつものように穏やかに笑う。
でも無理をしているんじゃないかと気になった。
ライナスがセレスティアさんの前に立ち、真剣な瞳でセレスティアさんを見つめる。
緊張をしているのか、口は引き結ばれていた。深呼吸をして、小さく頷く。
「セレスティアさんはお綺麗ですが、それだけでなく内面もとても魅力的です。僕は学生の頃にミスティック・ツアーズを利用して、旅行の素晴らしさを知りました。それを教えてくれたのは、セレスティアさんです。僕はセレスティアさんの美しさが傷で陰ることはないと思います。セレスティアさんが着たくないのならいいのですが、好きな格好をして欲しいと思いました」
ライナスは頭を下げると離れていく。髪から覗く耳が赤かった。
こちらに背を向けて、オーナーとフィオナさんと話し始めた。
セレスティアさんに視線を送ると、ライナスに負けず劣らず真っ赤だった。心なしか瞳が潤んでいる。
「どうしましたか?」
セレスティアさんは「え? あっ、ふぇ?」と戸惑って意味のなさない言葉を発した。
両頬を押さえて、大きく息を吸い込むと少し落ち着いたようだ。
「えっと、ライナスって私のことが好きだったの?」
「あんなにわかりやすいのに、気付いていなかったんですか?」
その事実に口をあんぐりと開ける。
ライナスはセレスティアさんにだけ、明らかに態度が違うのに。
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