ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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28 食べ歩き

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 二時間ほど飛ぶと、大きな島が見えてきた。
 鉄柵で囲われているエリアがあり、その入り口で降りる。

 遠くからでも目立つ、空に届きそうなほど高い塔が印象的だった。
 入る前にゲートを繋ぐ。

「この後時間はありますか?」

 ギルドマスターが優しく目尻を下げる。

「はい」
「あそこで会議をするのですが、みちすがらに美味しい物があるので一緒に行きましょう」

 ギルドマスターが塔を指す。
 美味しいものを教えてもらえるのは嬉しい。

「ぜひ、お願いします」

 街に入ると、大きな石畳の道が塔まで続いていると教えてくれた。
 両脇にはずらりと店が並び、焼きたてのパンの香りや、肉を焼いた香ばしい匂いが漂っている。

「美味しそう」

 大きな塊肉が串に刺されていて、思わず声が漏れた。

「よし、買ってこよう」

 幹部の一人が私とフィンにも買ってくれて、みんなで塊肉を頬張った。外はこんがり焼けていて、中はしっとりしている。肉汁が口の中で溢れた。

 他にも島で採れる木の実をふんだんに使ったパンとマフィン、野菜と魚をじっくり煮込んだスープを食べて満腹になった。

 私が美味しそうに食べるから、と両手いっぱいにお土産を持たせてくれた。
 優しいおじさんとおじいさんばかりだ。最初と印象がガラリと変わった。

「この先はお店がありません。一緒に来られて楽しかったです。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございました。お迎えは明日の九時に街の入り口でよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」

 ギルドマスターは丁寧な口調で頭を下げる。
 塔に向かうみんなを見送った。
 私はフィンに目を向ける。フィンは私よりたくさんお土産を持ってくれている。

「どうする? 何か食べる?」
「これ以上は無理です」
「私もお腹いっぱい。美味しいものも食べたし戻ろうか」

 ハイグリードは食べ歩きがしやすい料理が多かった。
 全部美味しかったけれど、塊肉は見た目のインパクトも最高だった。またノートに書き留めておかなきゃ。
 大きな荷物を持っているから、ゆっくり入口に向かって歩き出す。

「ステラさんはなんでも美味しそうに食べますが、一番好きな食べ物はなんですか?」
「孤児院のママが作った煮込みハンバーグ」

 毎月一日はその月の誕生日の子達のお祝いをしていた。
 その時の料理が煮込みハンバーグ。小さな頃からずっと特別な料理だったから、思い入れもあるし好物になった。

「お母さんの味と同じは無理でも、俺もステラさんに気に入ってもらえる煮込みハンバーグを練習します」
「楽しみにしてる」

 フィンは「頑張ります!」と嬉しそうに顔を綻ばせる。

「練習するのはいいけど、毎日煮込みハンバーグはやめときなよ」
「なぜですか? 早く上手く作れるようになりたいのに」

 毎日煮込みハンバーグを練習しそうだな、と思ったから注意しといとよかった。

「バランスよく食べないと、体に悪いでしょ」

 半分ほど道を戻ると「その男を捕まえて!」と叫び声が聞こえた。
 女性向けの可愛らしいバッグを持って走ってくる男にフィンが足を引っ掛ける。

 男は躓いて地面を転がるが、すぐにフィンに殴りかかった。
 フィンは避けるが、荷物を抱えて不自然に体を捻り、肩から倒れ込んだ。
 追撃されそうになるけれど、周りの人たちが男を取り押さえてくれる。

「フィン、大丈夫」
「はい! ステラさんの食べ物は無事です」

 フィンはお土産を抱えて屈託なく笑う。
 体を起こすときに顰めたから、怪我をしたのかもしれない。

「私は食べ物じゃなくて、フィンが大丈夫か聞いたんだけど! 早く怪我を治して」

 フィンは申し訳無さそうにシュンとして、自分の肩に手をかざす。淡い光が肩に吸い込まれていった。

 取り押さえられていた男は守衛に連れて行れて、女の人はバッグが戻って感謝していた。
 座り込んでいるフィンの腕を掴んで立たせる。

「避けられたのに転んだのって、食べ物を守るためでしょ?」
「はい」
「私は美味しい物が大好き。でもそれでフィンに傷ついてもらいたくない。だから食べ物も自分も守れるようになりなさいよ」

 フィンは瞠目した後、おかしそうに笑った。

「そうですね。ステラさんの言うとおりです」

 私はフンと鼻を鳴らす。

「わかればいいのよ。それじゃあ帰るよ」

 街の入り口に着くと、転移魔法でミスティック・ツアーズに戻った。

「ステラ、フィン、おかえりなさい」

 セレスティアさんが穏やかに微笑む。

「お土産をいっぱい買ってもらいました」

 ライナスがコーヒーを淹れてくれた。

「気に入られたな」

 オーナーが私の頭をガシガシと撫で回す。ボサボサになった髪を手櫛で整えた。

 私は自分の席に座るとノートを出して『食べ歩きに最適な塊肉の串焼きは、噛めば噛むほど肉汁が溢れて食べ応えがあった。見た目のインパクトも抜群』と書き加える。

 その後はいつも通り仕事をして、閉店するとみんなでお土産を食べた。




 翌朝八時にフィンと出勤をする。

「今日もフィンを連れて行くか?」
「ううん、今日は一人で大丈夫。優しい人たちだってわかったし」

 フィンは行くつもりだったようだけれど、オーナーに聞かれて断った。
 八時四十分にハイグリードに転移する。
 まだギルドマスターたちはいない。

「あれ?」

 昨日は大きな塔があったはずだ。そこで会議をすると言っていたし。
 でも今日は見えない。大きな塔が一日で消えることなんてあるの?
 不思議に思っていると、ギルドマスターたちがやってきた。

「おかえりなさいませ」

 丁寧にお辞儀をすると「よろしくお願いします」と会釈をされた。

「あの、会議をしていらした塔はどこにいってしまわれたのですか?」

 みんなが後ろを振り返って笑う。

「会議が白熱しすぎて、乱闘が起きてね。ギルドのトップたちが暴れて壊れちゃったんだよね」
「でもよくあることだし、次に来るときには元に戻っているから大丈夫だよ」

 塔がなくなるのがよくあること?
 やっぱり怖い人たちなのかな、と体を縮める。

「昨日気に入ってくれた塊肉の串焼きを買ってきたから、また帰ったら食べて」

 今日もお土産を頂いた。箱の中からお肉の香ばしい匂いが漏れてお腹が鳴るし涎が溢れる。
 やっぱり優しい人たちかも。

「それでは帰りますので、魔法陣の中から出ないでください」

 光を放つ魔法陣の中に全員がいることを確認して、転移魔法を発動させる。

「王都のギルド本部へ」

 まばゆい光に包まれて、一瞬の浮遊感の後に光が晴れる。
 ギルド本部に着くとお礼を言って建物から出た。

「お肉楽しみ。早く帰ってみんなで食べよう」

 足取り軽くミスティック・ツアーズに向かう。

「ただいまー」

 扉を開くとすぐに「見て見て!」とお肉をみんなに差し出す。
 全員が美味しいと言ってくれたから、ハイグリードに向かうお客様がいたらお勧めしようと思った。
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