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27 ギルドの仕事
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翌朝八時にフィンが迎えに来て仕事場に行くと、珍しくオーナーがいた。
セレスティアさんとライナスが席に着いて話を聞く姿勢だったから、私とフィンも急いで座る。
オーナーは爽やかな朝に似つかわしくない、重苦しい空気を纏っていた。
大きく息を吐き出して口を開く。
「ステラかライナスにハイグリードにゲートを繋いで欲しい」
ハイグリード? 聞いたことのない場所だ。
壁に貼ってある地図を眺める。
海に囲われた大きな島だった。
「無理だよ。私とライナスが行ける場所で一番近いのが港町のラグアリア。長い時間海を越えなきゃいけないもん」
いつもゲートを繋いでいない場所には、近くまで行ってセレスティアさんが風を操って、空を飛んで目的地に連れて行ってくれる。
セレスティアさんは長い時間魔法が使えないから、ハイグリードまで辿り着けない。
「これはギルドマスターからの依頼だ。ラグアリアまで行けば、ギルドの魔法使いがハイグリードまで連れて行ってくれる」
ギルドか。
アビラドンナ栽培に関わっていたギルド員に、人質としてナイフを突きつけられたことを思い出す。
小さく震え、隠すように自分の体を抱いた。
「レオンはいるの?」
私がギルドの中で信頼できるのはレオンだけだ。
「いないだろうな。今回の目的は各地のギルドマスターの会合。ギルドマスターと魔法使い以外では、ギルドの幹部が向かう。事件のせいで予定を忘れ、会議当日の今日思い出したらしい」
オーナーが苦笑いを浮かべる。
「今日ですか? 開店時間にご旅行のお客様が来ますが、ライナスしか行けない場所なので、ギルドはステラに任せることになります」
セレスティアさんが私の顔を心配そうに見つめる。
「ステラ、無理なら断っていいからな。業務提携を結んだといっても、俺が一番大事なのはお前たちだから」
オーナーが子供に聞かせるように話す。
でもそうしたら会議に出られなくて、ギルドとの関係にヒビが入るんじゃないだろうか。
視線を彷徨わせていると、神妙な面持ちのフィンと視線が絡んだ。
奥歯を噛み締めて頷く。
「オーナー、フィンを連れて行ってもいい? レオンがいないんでしょ? ギルドの中に私一人だと不安だから」
「俺が付き添うつもりだったんだが、フィンはどうだ?」
「行きます。もうステラさんに怖い思いを絶対にさせません」
フィンは姿勢を正して声を張る。
「わかった。ステラのことを頼む。ギルド本部に行くぞ」
オーナーの後を追って店を出る。
フィンが家に剣を取りに行き、素早く戻ってきた。
道すがらオーナーに話しかける。
「ゲートを繋いだら帰ってこればいいの?」
「美味いもん食って戻って来い。明日の朝帰ると言っていたから、会議の後酒を飲んで騒ぐんだろう」
「じゃあ明日迎えに行くんだね」
「ああ、頼む。年に何度か行く場所らしいんだが、空を飛んでいくには時間がかかるから、転移魔法が使えると助かるとギルドマスターが言っていた」
転移魔法は一度行って、ゲートさえ繋げれば一瞬だからね。
「王都のギルドは大きいし人も多いのに、転移魔法を使える人はいないんですか?」
フィンが不思議そうに目を瞬かせる。
「だって転移魔法って人気ないから」
私が肩をすくめると、フィンは目を丸くした。
「そもそも魔法を使える人が少ないでしょ。さらに属性魔法が使える人は無属性魔法は使えない」
ライナスみたいに努力と才能で使えるようになりはするけれど、異例なことだ。
「無属性魔法しか使えない中で転移魔法を選ぶ? フィンだって治癒魔法を覚えたんでしょ」
治癒魔法は無属性魔法の中では需要が高くて人気だ。
「俺は姉がよく転んでいたので、治癒魔法を覚えました」
無属性魔法を複数覚えられる人もいるらしいけれど、ほとんどの人が一つだけ。
特に転移魔法は魔力消費が激しいし、ゲートを繋がない限り行ける場所はない。
わざわざ転移魔法を選ぶ人は少ない。
私はいろんな街の美味しいものを食べるために覚え、どうやってゲートをたくさん繋ごうか考えていた時に、ミスティック・ツアーズの求人を見て閃いた。旅行会社なら、いろんな場所に行けるんじゃないかと。
行ける場所は増えたし、美味しいものもいっぱい食べられて、天職だと喜んだ。
話しているうちにギルド本部に着き、口を閉じる。
エントランスにギルドマスターと、強そうな人が五人出迎えてくれた。
「よろしくお願いします」
ギルドマスターが頭を下げると、全員がそれに倣う。
「こちらこそお願いします。ラグアリアまで行けるので、そこからはお任せします」
オーナーが説明すると、会議に間に合うと喜んでくれた。
ラグアリアは列車だと一日かかる距離だ。飛ぶ方が早く移動できるが、長距離は魔法使いの負担も大きい。
「さっそく転移しようと思いますので、魔法陣の中に集まってください」
私は胸の前で手を合わせて集中する。
魔法陣が浮かび上がり、全員が範囲内にいるのを確認してラグアリアに転移する。
眩しい光に包まれて、目を閉じた。ギルド本部の喧騒が消え、潮の匂いが漂ってくる。
瞼を開くと活気ある港町ラグアリア。市場での呼び込みの声が響いている。
「それではハイグリードに飛びます」
三十代くらいの魔法使いが手を上げると、体がスッと浮き上がる。
咄嗟にフィンの袖を掴むと、フィンは顔を綻ばせた。
バツが悪くて離すと、フィンに手を掴まれて袖に手を引かれた。
「持っていていいですよ」
少し安心して、それを誤魔化すように皺になるほどキツく掴んだ。
朝日を浴びて煌めく海の上をものすごいスピードで移動する。
ギルドの幹部たちはカップに紅茶を注ぎ、マドレーヌを私とフィンにもくれた。
カップもマドレーヌも同じ速さで移動しているから、みんなの前で宙に浮いている。
ギルド本部で見た時は怖そうに見えたけれど、和気あいあいとしていて緊張が少しだけ解けた。
「いただきます」
マドレーヌにかぶりつく。卵とバターのコクが口いっぱいに広がり、後から爽やかなレモンの香りが追いかけてくる。
「美味しいです。ありがとうございます」
口の中が幸せいっぱいでお礼を言えば、「もっと食べなさい」と差し出されてもう一ついただく。
「すごく美味しそうに食べるね」
「まだまだあるからね」
幹部の人たちが目元を和ませる。
「美味しそうに食べるのはステラさんの魅力だけど、あまり知られないで欲しかったです」
フィンがボソリと呟く。
「何言ってんの?」
「だってみんなステラさんのことを好きになっちゃいますよ」
口を尖らすフィンに、みんなは声をあげて笑い、ピーッと口笛まで吹く始末。
私は大きく息を吐きだした。
私の親、もしくはそれ以上の年齢の人ばかりだ。子供や孫を可愛がるように食べさせたいだけだろう。
私とフィンの関係を根掘り葉掘り聞かれ、笑いの絶えない空の旅だった。
セレスティアさんとライナスが席に着いて話を聞く姿勢だったから、私とフィンも急いで座る。
オーナーは爽やかな朝に似つかわしくない、重苦しい空気を纏っていた。
大きく息を吐き出して口を開く。
「ステラかライナスにハイグリードにゲートを繋いで欲しい」
ハイグリード? 聞いたことのない場所だ。
壁に貼ってある地図を眺める。
海に囲われた大きな島だった。
「無理だよ。私とライナスが行ける場所で一番近いのが港町のラグアリア。長い時間海を越えなきゃいけないもん」
いつもゲートを繋いでいない場所には、近くまで行ってセレスティアさんが風を操って、空を飛んで目的地に連れて行ってくれる。
セレスティアさんは長い時間魔法が使えないから、ハイグリードまで辿り着けない。
「これはギルドマスターからの依頼だ。ラグアリアまで行けば、ギルドの魔法使いがハイグリードまで連れて行ってくれる」
ギルドか。
アビラドンナ栽培に関わっていたギルド員に、人質としてナイフを突きつけられたことを思い出す。
小さく震え、隠すように自分の体を抱いた。
「レオンはいるの?」
私がギルドの中で信頼できるのはレオンだけだ。
「いないだろうな。今回の目的は各地のギルドマスターの会合。ギルドマスターと魔法使い以外では、ギルドの幹部が向かう。事件のせいで予定を忘れ、会議当日の今日思い出したらしい」
オーナーが苦笑いを浮かべる。
「今日ですか? 開店時間にご旅行のお客様が来ますが、ライナスしか行けない場所なので、ギルドはステラに任せることになります」
セレスティアさんが私の顔を心配そうに見つめる。
「ステラ、無理なら断っていいからな。業務提携を結んだといっても、俺が一番大事なのはお前たちだから」
オーナーが子供に聞かせるように話す。
でもそうしたら会議に出られなくて、ギルドとの関係にヒビが入るんじゃないだろうか。
視線を彷徨わせていると、神妙な面持ちのフィンと視線が絡んだ。
奥歯を噛み締めて頷く。
「オーナー、フィンを連れて行ってもいい? レオンがいないんでしょ? ギルドの中に私一人だと不安だから」
「俺が付き添うつもりだったんだが、フィンはどうだ?」
「行きます。もうステラさんに怖い思いを絶対にさせません」
フィンは姿勢を正して声を張る。
「わかった。ステラのことを頼む。ギルド本部に行くぞ」
オーナーの後を追って店を出る。
フィンが家に剣を取りに行き、素早く戻ってきた。
道すがらオーナーに話しかける。
「ゲートを繋いだら帰ってこればいいの?」
「美味いもん食って戻って来い。明日の朝帰ると言っていたから、会議の後酒を飲んで騒ぐんだろう」
「じゃあ明日迎えに行くんだね」
「ああ、頼む。年に何度か行く場所らしいんだが、空を飛んでいくには時間がかかるから、転移魔法が使えると助かるとギルドマスターが言っていた」
転移魔法は一度行って、ゲートさえ繋げれば一瞬だからね。
「王都のギルドは大きいし人も多いのに、転移魔法を使える人はいないんですか?」
フィンが不思議そうに目を瞬かせる。
「だって転移魔法って人気ないから」
私が肩をすくめると、フィンは目を丸くした。
「そもそも魔法を使える人が少ないでしょ。さらに属性魔法が使える人は無属性魔法は使えない」
ライナスみたいに努力と才能で使えるようになりはするけれど、異例なことだ。
「無属性魔法しか使えない中で転移魔法を選ぶ? フィンだって治癒魔法を覚えたんでしょ」
治癒魔法は無属性魔法の中では需要が高くて人気だ。
「俺は姉がよく転んでいたので、治癒魔法を覚えました」
無属性魔法を複数覚えられる人もいるらしいけれど、ほとんどの人が一つだけ。
特に転移魔法は魔力消費が激しいし、ゲートを繋がない限り行ける場所はない。
わざわざ転移魔法を選ぶ人は少ない。
私はいろんな街の美味しいものを食べるために覚え、どうやってゲートをたくさん繋ごうか考えていた時に、ミスティック・ツアーズの求人を見て閃いた。旅行会社なら、いろんな場所に行けるんじゃないかと。
行ける場所は増えたし、美味しいものもいっぱい食べられて、天職だと喜んだ。
話しているうちにギルド本部に着き、口を閉じる。
エントランスにギルドマスターと、強そうな人が五人出迎えてくれた。
「よろしくお願いします」
ギルドマスターが頭を下げると、全員がそれに倣う。
「こちらこそお願いします。ラグアリアまで行けるので、そこからはお任せします」
オーナーが説明すると、会議に間に合うと喜んでくれた。
ラグアリアは列車だと一日かかる距離だ。飛ぶ方が早く移動できるが、長距離は魔法使いの負担も大きい。
「さっそく転移しようと思いますので、魔法陣の中に集まってください」
私は胸の前で手を合わせて集中する。
魔法陣が浮かび上がり、全員が範囲内にいるのを確認してラグアリアに転移する。
眩しい光に包まれて、目を閉じた。ギルド本部の喧騒が消え、潮の匂いが漂ってくる。
瞼を開くと活気ある港町ラグアリア。市場での呼び込みの声が響いている。
「それではハイグリードに飛びます」
三十代くらいの魔法使いが手を上げると、体がスッと浮き上がる。
咄嗟にフィンの袖を掴むと、フィンは顔を綻ばせた。
バツが悪くて離すと、フィンに手を掴まれて袖に手を引かれた。
「持っていていいですよ」
少し安心して、それを誤魔化すように皺になるほどキツく掴んだ。
朝日を浴びて煌めく海の上をものすごいスピードで移動する。
ギルドの幹部たちはカップに紅茶を注ぎ、マドレーヌを私とフィンにもくれた。
カップもマドレーヌも同じ速さで移動しているから、みんなの前で宙に浮いている。
ギルド本部で見た時は怖そうに見えたけれど、和気あいあいとしていて緊張が少しだけ解けた。
「いただきます」
マドレーヌにかぶりつく。卵とバターのコクが口いっぱいに広がり、後から爽やかなレモンの香りが追いかけてくる。
「美味しいです。ありがとうございます」
口の中が幸せいっぱいでお礼を言えば、「もっと食べなさい」と差し出されてもう一ついただく。
「すごく美味しそうに食べるね」
「まだまだあるからね」
幹部の人たちが目元を和ませる。
「美味しそうに食べるのはステラさんの魅力だけど、あまり知られないで欲しかったです」
フィンがボソリと呟く。
「何言ってんの?」
「だってみんなステラさんのことを好きになっちゃいますよ」
口を尖らすフィンに、みんなは声をあげて笑い、ピーッと口笛まで吹く始末。
私は大きく息を吐きだした。
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