傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

文字の大きさ
45 / 45
エピローグ

45 叶うに決まっている

しおりを挟む
 結衣は自分が祈る以外にできることをひたすら考えていた。
 善を回復させるためにできること、自分がやりたいこと。

 夏休みの最終日、夕食の後の全員がリビングに集まっているタイミングできりだす。

「あのね、みんなに聞いて欲しいんだけど、行きたい大学が見つかったんだ。高校を卒業したら、大学の間だけ家を出たい」

 結衣は今まで自分の進路を真剣に考えたことなんてなかった。近場の大学に通って、近隣で就職するのだろうな、と漠然と思うだけだった。

 結衣は初めて高校卒業後の話をする。千代と宗一郎は心配そうに眉を下げ、善は僅かに目を見開く。

「結衣の行きたいところに行かせてあげたいが、ここから通うことはできないのか?」

 宗一郎は結衣を案じるような声だった。
 結衣ははっきりと頷いた。

「私ね、神職資格が取りたいんだ。だから東京か三重の大学に行きたいの」
「結衣が無理に継がなくていいのよ」

 千代は結衣の手を包み込む。

「無理なんてしてないよ。私がそうしたいの」

 結衣は善を助け、守りたいと心の底から思っている。ずっと一緒にいるために、神社を継ぐ決心をした。

 結衣はなにかが引っかかって首を傾ける。口に手を添えて、頭の中で何度も気持ちを反芻した。

 一部分が霞がかかっているように朧げだったが、徐々に晴れていって結衣は「あっ!」と大声を上げた。
 全員がその声量に肩を跳ねさせる。

「結衣、どうしたの?」

 千代に顔を覗き込まれ、結衣は真っ赤な顔で首を振った。
 思い出した。善とずっと一緒にいたいと祈ったことを。それを叶えてやるとも言われ、結衣は善と視線が交わるとさらに顔が熱くなった。
 善は眉を顰める。

 結衣は「なんでもない」と首を振った。そのことは二人っきりになってから聞こうと決める。
 口元に拳を当てて咳払いをし、結衣は進路の話を続けた。

「私が神社を継いで、その後は近くの神社に兼務してもらうことも考えるよ」

 結衣は善と一緒にいたいと願い、結婚することはないと思っている。

「わかった。結衣の気持ちを尊重する。頑張りなさい」

 宗一郎の励ましに、結衣は「ありがとう」と飛びついた。宗一郎は照れくさそうに結衣を受け止める。

「あっ、それとね、善の回復のためにオンライン祈祷をやってみない?」

 結衣はタブレットを操作して、オンライン祈祷を行っている神社のホームページを見せた。

「これで信仰心が得られるのか?」

 善は訝しげに顔を歪めた。

「やってみたらわかるんじゃない? 神社に来られない人もいるじゃん。海外に住んでいたり、入院していたりしてさ。その人たちも祈ったりしてくれたら、善の回復に役立つんじゃないかって思うんだ」
「でも難しい機械は操作できないわよ」

 千代が不安げに眉を寄せる。

「ホームページやSNSで私が宣伝するし、撮影はスマホでもできるから大丈夫だよ」

 結衣は動画サイトにアップされている、オンライン祈祷の動画を再生した。
 善、千代、宗一郎が真剣に画面を見つめる。

「気楽に考えてよ。初めのうちは私が全部やるし、教えるからさ。善への信仰心が増えて、神社の収益も増える。いいことしかないじゃん」

 結衣は躊躇いながら言葉を続ける。

「キャッシュレス決済できるようにもしたいから、それは私もよくわからないから、手伝って欲しいけど」
「わかった。結衣がそこまで神社のことを考えてくれたんだ。やってみよう」

 宗一郎は穏やかな顔で頷いた。
 話がまとまり、結衣はホッと息を吐く。頑張るぞ、と拳を握った。




 ゆっくりとお風呂に入り、髪を乾かし終えると善の部屋の前に立つ。
 拳を握って扉を叩こうとしては、手を下ろすことを繰り返す。緊張でなかなかノックができない。
 迷っていると内側から扉が開き、結衣は驚きすぎて飛び上がる。

「俺になにか用か?」

 善が眉を顰めた。

「あっ、……うん。お部屋に入ってもいい?」
「好きにしろ」

 善はベッドに腰掛け、結衣は善の目の前に腰を下ろす。
 叶えてやる、と言われた祈りのことを聞きたいけれど、なかなか言葉が出てこない。
 まずは別の要件を済ませよう。

「あのさ、善は動画サイトで人生相談とかしたらどうかなって」
「は?」

 善は綺麗な顔を歪めて、踏ん反り返る。

「なんで俺がそんなことを?」
「人生相談するかわりに祈れって言われたら祈ってくれると思うんだ。でも殺傷事件は怖いから、白水神社とは関係なくやろうね」

 傲慢だけど神様だし、そんなにおかしな答えを返すとは思えない。イケメンに相談に乗ってもらえるなんて、人気が出ると確信している。
 善は不満そうな表情だが、結衣は機嫌を取るようにへらりと笑った。

「じゃあまずは相談に乗ってみて、できそうならやろうよ。今から相談したいことがあるか、友達に聞いてみるから」

 結衣はメッセージアプリのグループに『なにか相談して。沙苗にお守りを渡した男の人に答えさせるから』と送った。

 すぐに美咲から『夏休みの宿題が終わらない。どうしたらいい?』とメッセージがきた。

 明日から二学期が始まる。結衣は乾いた笑みを浮かべながら、善に画面を見せた。

「こんな相談をする暇があるなら、宿題をしろ」
「いや、もっともな意見なんだけど、他にいいアドバイスとかない?」
「終わるまで寝るな」

 結衣は文字を打とうとしてやめた。美咲とビデオ通話を繋げた。
 美咲は『結衣ー』と笑顔で手を振っている。

「直接言わせるから、そのまま見てて」

 結衣は善に画面を向ける。
 映っているのは仏頂面の善だけど、美咲は黄色い声を上げた。

「善、さっきのこと言ってみて」
「こんなことしてる暇があったら宿題をやれ」

 結衣は画面を自分に戻す。

「どう?」
『イケメンに応援されたから頑張れる! 宿題やるからきるね』
「うん、また明日」

 手を振って通話を終えた。
 結衣はニンマリと口角を上げる。

「あんな答えでも、ポジティブに捉えられるんだよ」

 善はそっぽを向く。
 通知を知らせる音が鳴り、結衣は画面に目を向けた。

『こんな時間に部屋で二人っきり? 付き合ってるの?』

 美咲からのメッセージを見て、顔が真っ赤に染まる。

『え? 詳しく!』
『明日囲んで問い詰めよう』

 莉子と沙苗からも届き、結衣はスマホをポケットにしまった。

「終わったなら、俺は寝る」
「えっと、他にも言いたいことあるんだ」

 結衣は善をジッと見つめる。言葉がなかなか出てこない。

「なんだ? 早く言え」
「あのさ、思い出したんだ」
「なにを?」

 結衣の唇が震える。
 結衣は声が出ない代わりに、両手を合わせて瞼を下ろした。

(善とずっと一緒にいたい)

 恐る恐る目を開けると、善が口元を緩めていた。

「本当に叶えてくれるの?」
「俺は神だぞ。叶えると言ったのだから、叶うに決まっているだろう」

 結衣は幸せに満ちた顔で笑った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...