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そこは、まるで式場のようだった。
ようだ、というよりもそうなのかもしれない。
事実としてあたしの背後には神父のような出で立ちの初老の男の人が立っているし、あたしはあたしで花嫁よろしく純白のドレスを身に付けてる。
ひらひらよ、ふりふりのひらひら。ヴェールまでつけてほんとに花嫁衣装よね。笑えないわ。
参列者がいなくて空席のまま並ぶ長椅子は中央の通路を空けて等間隔。真っ白なピアノ。それから神父の背後には十字架が掲げるように飾られていた。
ただひとつ式場らしくないと感じさせるのは、十字架が掲げられた更に奥は野外で、綺麗な花畑が広がるそこには一本の大樹が悠々と茂っているということ。
不意にぎい、と豪奢な扉が開かれる。
逆光で見辛いけれど、現れたのはあたしにとって馴染みのある男だった。
「…………」
無言のまま佇む、まるで花婿かのような白の装いの彼は腰には剣を携え、その眼はどこかぼんやりと虚空を見詰めていた。
だけど残念ながら今日がこの男とあたしの結婚式だとなそんなオチはない。仮にそうだったとしてもせめて家族や友達にはちゃんと祝福されたいわ。なのに閑散としてるとかなんなの、寂しすぎるでしょ。
などと思っている間に彼はゆるやかに近付いてくる。
静かな空間に響く足音。それがあたしの目の前で止まった。
「…………」
お互いになにも言わない。縫い止められたように動けず、声も発することもできないあたしは彼を見上げただけ。
彼もまたぼんやりとした双眸であたしを見下ろしていて。
「さあ、儀式を。世界樹へと、誓いの証を捧げるのです」
あたしの背後に立つ神父のような初老の男が柔らかな声音で告げる。すると目の前の男は応えるように手を動かして、すらりと腰に携えた剣を鞘から抜き出した。
その刀身は鏡のように美しく、周囲を忠実に映している。一見して手入れの行き届いているとわかるそれが緩く構えられた。
切っ先が向けられるのはあたしだ。そしてそれをあたしは避けられない。動けないんだから当然よね。
「…………」
そんなあたし目掛けて、彼は躊躇いなく剣を動かす。鋭利な刃が突き立てられる場所はあたしの心臓。
そう――あたしはいま此処で、コイツに殺されるのだ。
ようだ、というよりもそうなのかもしれない。
事実としてあたしの背後には神父のような出で立ちの初老の男の人が立っているし、あたしはあたしで花嫁よろしく純白のドレスを身に付けてる。
ひらひらよ、ふりふりのひらひら。ヴェールまでつけてほんとに花嫁衣装よね。笑えないわ。
参列者がいなくて空席のまま並ぶ長椅子は中央の通路を空けて等間隔。真っ白なピアノ。それから神父の背後には十字架が掲げるように飾られていた。
ただひとつ式場らしくないと感じさせるのは、十字架が掲げられた更に奥は野外で、綺麗な花畑が広がるそこには一本の大樹が悠々と茂っているということ。
不意にぎい、と豪奢な扉が開かれる。
逆光で見辛いけれど、現れたのはあたしにとって馴染みのある男だった。
「…………」
無言のまま佇む、まるで花婿かのような白の装いの彼は腰には剣を携え、その眼はどこかぼんやりと虚空を見詰めていた。
だけど残念ながら今日がこの男とあたしの結婚式だとなそんなオチはない。仮にそうだったとしてもせめて家族や友達にはちゃんと祝福されたいわ。なのに閑散としてるとかなんなの、寂しすぎるでしょ。
などと思っている間に彼はゆるやかに近付いてくる。
静かな空間に響く足音。それがあたしの目の前で止まった。
「…………」
お互いになにも言わない。縫い止められたように動けず、声も発することもできないあたしは彼を見上げただけ。
彼もまたぼんやりとした双眸であたしを見下ろしていて。
「さあ、儀式を。世界樹へと、誓いの証を捧げるのです」
あたしの背後に立つ神父のような初老の男が柔らかな声音で告げる。すると目の前の男は応えるように手を動かして、すらりと腰に携えた剣を鞘から抜き出した。
その刀身は鏡のように美しく、周囲を忠実に映している。一見して手入れの行き届いているとわかるそれが緩く構えられた。
切っ先が向けられるのはあたしだ。そしてそれをあたしは避けられない。動けないんだから当然よね。
「…………」
そんなあたし目掛けて、彼は躊躇いなく剣を動かす。鋭利な刃が突き立てられる場所はあたしの心臓。
そう――あたしはいま此処で、コイツに殺されるのだ。
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