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第52話
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「それで、実際のところ何が起きてたんだ?」
書庫から出た廊下で、テオは息を吐きながら困ったような笑みを浮かべて私に尋ねてきた。
その表情と聞き方をするってことは、それなりに会話を聞いてたんだろうなあ。
まあ、聞かれて困るような事は話してないから良いのだけれど。
「実際のところもなにも、嘘は言ってないよ? わざと怒るだろうなってことを言っただけ」
「わざと、って何でまたそんなことをカノンもラスカもいない時に……」
「いないからこそ、だよ。まあ、想定外ではあったんだけどね」
話す機会が欲しいとは思ってたとはいえ、まさか書庫にまで押しかけてくるとは思わなかったのは確かなのだ。
そうまでするほどの理由が、姉さんにはあったって事なんだろうけど……こっちだって何を言われたってリフを渡すつもりはないし、〈竜巫女〉とも認めることはない。
私は彼女を確かに姉と思っているけれど、私が彼女に出来る事は身内の過ちに見て見ぬふりをしない事だけなのだ。
とはいえ想定外だったからこそ、恐怖もあったけどね。
トラウマレベルのことをしてのけた張本人でもあるんだから、当たり前よね。
顔を覗かせたリフを撫でてやりながら告げる私に、テオはほんの少しだけ困ったように眉を下げた。
「想定外だったなら尚の事、逃げたほうが良かったんじゃないか? 俺が割って入らなきゃ叩かれていただろう?」
「ああ、あれねえ。叩かれていた、というか叩かれるつもりだったかな」
アクアリアの話を、あの日にアナスタシア王女がアクアリアを崖から突き落としたという話を出したとき、アナスタシア王女は狼狽したような反応を見せた。
それがどうしてかはわからない。わからないからこそ、感情的な行動を――私を叩くという行動取らせた時の反応を見たかった。
もちろんそうされることで誰かが目撃したりしたならば、私自身が有利になれば、という打算もあったけどね。
私、これでも前世の年齢といまの年齢を足すと結構生きてるんだから、ずる賢くもなるってものよね。
だがしかし、でもないけれどテオの表情は一向に晴れない。
そりゃそうだ、ってことを言ってるから仕方ないんだけどね。したたかな考え方をしてる自覚はあるし、それは必ずしも楽しいと感じさせるものではないってわかってるもの。
けれども少しだけ言葉に悩みながらもテオが口にしたのは、私にとっては想定外なものだった。
「どうしてそんな痛い思いをしようと……リリィは女の子だろう? そう必要以上に体を張る理由なんてないんだぞ?」
「…………」
と、テオは気遣わしげに言う。
それを理解するのに、要した時間は数秒。瞬間、カッと顔が熱を持ったのは、多分なんだか気恥かしさがあったからだ。
女の子、女の子。
確かにそうなんだよね、私実際のところリディアーヌ王女殿下と年齢は変わらないし。女の子って言われても間違いじゃないんだよね、うん。
ただ、前世の感覚とか人生経験っていうほど立派じゃないけど、今の自分の姿よりもずっと長く生きているかのような精神の感覚から、改めて指摘されるとちょっと恥ずかしいような気持ちになるだけで。
黙り込んでしまった私に気付いて不思議そうに首を傾げたテオに、ほんの少しだけ慌てて口を開いた。
「つ、次からは気をつけます……」
「ああ、そうしてくれ」
私の返答にひとまずは満足だ、と言わんばかりにテオは頷き小さく微笑む。
でも本当に気をつけられるかについてはわからない、なんてことは言わないでおこう。
書庫から出た廊下で、テオは息を吐きながら困ったような笑みを浮かべて私に尋ねてきた。
その表情と聞き方をするってことは、それなりに会話を聞いてたんだろうなあ。
まあ、聞かれて困るような事は話してないから良いのだけれど。
「実際のところもなにも、嘘は言ってないよ? わざと怒るだろうなってことを言っただけ」
「わざと、って何でまたそんなことをカノンもラスカもいない時に……」
「いないからこそ、だよ。まあ、想定外ではあったんだけどね」
話す機会が欲しいとは思ってたとはいえ、まさか書庫にまで押しかけてくるとは思わなかったのは確かなのだ。
そうまでするほどの理由が、姉さんにはあったって事なんだろうけど……こっちだって何を言われたってリフを渡すつもりはないし、〈竜巫女〉とも認めることはない。
私は彼女を確かに姉と思っているけれど、私が彼女に出来る事は身内の過ちに見て見ぬふりをしない事だけなのだ。
とはいえ想定外だったからこそ、恐怖もあったけどね。
トラウマレベルのことをしてのけた張本人でもあるんだから、当たり前よね。
顔を覗かせたリフを撫でてやりながら告げる私に、テオはほんの少しだけ困ったように眉を下げた。
「想定外だったなら尚の事、逃げたほうが良かったんじゃないか? 俺が割って入らなきゃ叩かれていただろう?」
「ああ、あれねえ。叩かれていた、というか叩かれるつもりだったかな」
アクアリアの話を、あの日にアナスタシア王女がアクアリアを崖から突き落としたという話を出したとき、アナスタシア王女は狼狽したような反応を見せた。
それがどうしてかはわからない。わからないからこそ、感情的な行動を――私を叩くという行動取らせた時の反応を見たかった。
もちろんそうされることで誰かが目撃したりしたならば、私自身が有利になれば、という打算もあったけどね。
私、これでも前世の年齢といまの年齢を足すと結構生きてるんだから、ずる賢くもなるってものよね。
だがしかし、でもないけれどテオの表情は一向に晴れない。
そりゃそうだ、ってことを言ってるから仕方ないんだけどね。したたかな考え方をしてる自覚はあるし、それは必ずしも楽しいと感じさせるものではないってわかってるもの。
けれども少しだけ言葉に悩みながらもテオが口にしたのは、私にとっては想定外なものだった。
「どうしてそんな痛い思いをしようと……リリィは女の子だろう? そう必要以上に体を張る理由なんてないんだぞ?」
「…………」
と、テオは気遣わしげに言う。
それを理解するのに、要した時間は数秒。瞬間、カッと顔が熱を持ったのは、多分なんだか気恥かしさがあったからだ。
女の子、女の子。
確かにそうなんだよね、私実際のところリディアーヌ王女殿下と年齢は変わらないし。女の子って言われても間違いじゃないんだよね、うん。
ただ、前世の感覚とか人生経験っていうほど立派じゃないけど、今の自分の姿よりもずっと長く生きているかのような精神の感覚から、改めて指摘されるとちょっと恥ずかしいような気持ちになるだけで。
黙り込んでしまった私に気付いて不思議そうに首を傾げたテオに、ほんの少しだけ慌てて口を開いた。
「つ、次からは気をつけます……」
「ああ、そうしてくれ」
私の返答にひとまずは満足だ、と言わんばかりにテオは頷き小さく微笑む。
でも本当に気をつけられるかについてはわからない、なんてことは言わないでおこう。
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