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第58話
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「俺が謝るのもおかしな話だけど、ごめんな」
「え?」
と、ティートさんは歩き出してしばらくしてから不意にそう言った。
緩やかにほんの隣を歩くティートさんを見上げると、こちらを視線だけで見下ろしていた彼はぱっと眉を下げて笑って、
「リュシアン王子のこと。一方的に責められて気分が悪かっただろ?」
「あー……気にしてないって言ったら嘘になりますけど、仕方ないかなって思ってますね」
リュシアン王子と顔を合わせるのはこれで二回目だ。
それも、一回目はとくに言葉を交わしもせず、リフを求めるアナスタシア王女を阻んだ姿を見たに過ぎない。
あれを見てもなお疑問を抱かない、って事には思うことがあるにはあるけど、それでもリュシアン王子と私の間にはたったそれだけしかない。
「リュシアン王子からすれば、好意を抱く女性の願いを徹底的に拒む、顔もろくにわからない外套を着込んだ女ですから。不審を抱くのも無理がないというか……」
「だがそれでも、リュシアン王子は王家に名を連ねるお方なんだ。本来は外見だけで他者を推し量るべきじゃないんだよ。それに……ああして頑なになっているのは一種のテオドール王子への反発だしな」
ゆるゆると首を横に振ってティートさんは小さく嘆息する。
それを見上げていると、ティートさんは困ったような微笑を浮かべて言葉を続けた。
「リュシアン王子……リュシーはさ、テオのことが大好きなんだよ」
リリィには想像しづらいかもしれないけど、と付け足される。
確かにティートさんの言う通り想像はしづらいし、そもそも当たり前ながら見たこともないわけだけれど、でもラスカとリディアーヌ王女からの話を思い返せばわからないこともない。
「……リディアーヌ王女から少しだけお話を伺いました。以前のリュシアン王子は、ジェラルド王子とテオの背を追いかけていたのだと」
本当に仲が良かったんだろう。ともすればほんの少しの出来事で真反対の感情になってしまうくらいには、尊敬していたし憧れていたんだろう。
本当に、姉さんがリュシアン王子に与えた影響は、決して小さくはない。ただリュシアン王子の行動や言動はまだ、看過できる程度になんとかおさまっているというだけで。
でもこのままだとそれじゃ済まなくなるだろう。
そしてそうなった時でも、きっかけを与えた筈のアナスタシア王女はリュシアン王子の立場を気にかける事はないだろう。
例えリュシアン王子がアナスタシア王女を求めても、彼女はリュシアン王子を求めているわけではないのだから。
「うん、そう。あの三人はずっとそうして、努力を重ねてきてたんだよ」
目を細めて少しだけ懐かしむようにティートさんは言う。
まるで、もう取り戻せないかもしれない、と諦めているかのような優しい表情だった。
「え?」
と、ティートさんは歩き出してしばらくしてから不意にそう言った。
緩やかにほんの隣を歩くティートさんを見上げると、こちらを視線だけで見下ろしていた彼はぱっと眉を下げて笑って、
「リュシアン王子のこと。一方的に責められて気分が悪かっただろ?」
「あー……気にしてないって言ったら嘘になりますけど、仕方ないかなって思ってますね」
リュシアン王子と顔を合わせるのはこれで二回目だ。
それも、一回目はとくに言葉を交わしもせず、リフを求めるアナスタシア王女を阻んだ姿を見たに過ぎない。
あれを見てもなお疑問を抱かない、って事には思うことがあるにはあるけど、それでもリュシアン王子と私の間にはたったそれだけしかない。
「リュシアン王子からすれば、好意を抱く女性の願いを徹底的に拒む、顔もろくにわからない外套を着込んだ女ですから。不審を抱くのも無理がないというか……」
「だがそれでも、リュシアン王子は王家に名を連ねるお方なんだ。本来は外見だけで他者を推し量るべきじゃないんだよ。それに……ああして頑なになっているのは一種のテオドール王子への反発だしな」
ゆるゆると首を横に振ってティートさんは小さく嘆息する。
それを見上げていると、ティートさんは困ったような微笑を浮かべて言葉を続けた。
「リュシアン王子……リュシーはさ、テオのことが大好きなんだよ」
リリィには想像しづらいかもしれないけど、と付け足される。
確かにティートさんの言う通り想像はしづらいし、そもそも当たり前ながら見たこともないわけだけれど、でもラスカとリディアーヌ王女からの話を思い返せばわからないこともない。
「……リディアーヌ王女から少しだけお話を伺いました。以前のリュシアン王子は、ジェラルド王子とテオの背を追いかけていたのだと」
本当に仲が良かったんだろう。ともすればほんの少しの出来事で真反対の感情になってしまうくらいには、尊敬していたし憧れていたんだろう。
本当に、姉さんがリュシアン王子に与えた影響は、決して小さくはない。ただリュシアン王子の行動や言動はまだ、看過できる程度になんとかおさまっているというだけで。
でもこのままだとそれじゃ済まなくなるだろう。
そしてそうなった時でも、きっかけを与えた筈のアナスタシア王女はリュシアン王子の立場を気にかける事はないだろう。
例えリュシアン王子がアナスタシア王女を求めても、彼女はリュシアン王子を求めているわけではないのだから。
「うん、そう。あの三人はずっとそうして、努力を重ねてきてたんだよ」
目を細めて少しだけ懐かしむようにティートさんは言う。
まるで、もう取り戻せないかもしれない、と諦めているかのような優しい表情だった。
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