捧魂契約のリセットスイッチ

白城海

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第一章 運命炸動のファーストリープ

1.暗闇に沈む未来

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 鈍く重い音が響くと同時に、僕の額に痛みが走った。
 頭が割れるようなと言う比喩があるが、僕の額は実際に割れていた。
 何故か、答えは簡単。

 僕が、自分の意志でコンクリの壁に頭を叩きつけているからだ。

 痛みが、欲しかったから。自分の行いに対する罰が欲しかったから。
 だけど、足りない。
 全然、足りない。
 痛みが、衝撃が、苦痛が。

 僕はもっと痛みを受けなければならない。罰を与えられなければならない。それだけの事を行ってしまったのだから。

 十月の生温い風が吹く古びた雑居ビルの屋上で、僕は一心不乱に拳を、頭を壁へと叩きこみ続ける。
 血と、涙と、鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。耳に届くのは、自分の嗚咽。感じるものは、痛みだけ。
 どれだけの時間そうしているのか分からない。
 橙色に街を照らしていた太陽はとっくに西に沈み、能天気でぼんやりとした夜の明かりだけが僕の視界を照らす全てだった。
 とうとう、腕が上がらなくなりコンクリの地面へとへたり込む。

 ふと右手を見ると皮が擦り向け、拳が砕け、不気味な色をした骨が露出していた。
 痛みは、ある。だけど、見た目ほど酷いものではない。
 僕の痛覚は、心と一緒に完全に閉じてしまっていた。

 何も、考えられなかった。
《奴らの蛮行》に巻き込まれたせいで。
 平穏も、日常も、家族も、感情も、何もかもを奪われてしまったのだ。
 憎しみは感じない。痛みと一緒に心のどこかに閉じ込めてしまった。もし噴出したら、僕は正気ではいられないだろうから。

 悪いのは僕だ。休みだからと言って油断していた僕だ。
 学校が無ければあの三人組に会う事は無いと思い込んでいた軽率な僕だ。

《奴ら》は同じ学校の生徒。表向き、僕の友人と言うことになっている。
 だが、誰だって知っているんだ。僕の友人では無い事なんて。ただ、面倒事に関わりたくないから黙っているだけだ。

 焦点の定まらない目で、地面にへたり込んだまま屋上の柵の向こうを見下ろす。

――ここから飛び下りれば、何かが変わるのかな。

 袖で涙を拭い、正面を見据える。
 一メートルほどの手摺柵の先。
 昼間のように明るい《下の世界》には数えきれないほどの人々が歩いていた。
 目の前に死体が降ってきたら彼らはどう思うだろう。驚くだろうか、それとも興味を抱くだろうか。どうして、この高校生は死を選んだのだろうか、と。

 とても、魅力的なプランに思えた。

 僕が死ぬ事で、今まで受けていた行為が明るみに出る。
 もう、失う物は何もない。全て、全てを失った。残っているのは、この命だけなのだ。

――だけどこんな命も、もう必要ない。

 思ったが早いか、僕は震える足で立ちあがっていた。
 そのまま吸い込まれるように柵へと向かっていく。

――もう、楽になりたいよ。

《奴ら》の顔が、妹の泣き叫ぶ声が、克明に蘇る。
 もう、取れる手段は一つしか無かった。

 一歩、また一歩とおぼつかない足取りで柵へと近づいていく。

 五メートル、

 三メートル、

 一メートル。

 あとは柵を乗り越えるだけ。
 手摺程度の役にしか立たないここを乗り越えるのは簡単な事だろう。拳の砕けた手を伸ばし、手摺を掴む。

 その時だった。無機質な音声が無人の屋上に響きたったのは。

『メールを受信しました』

 音の正体は、僕の携帯電話。メールの受信音だ。
 もしかして、誰かが僕を見ているのだろうか。死のうとしている僕を止めようとしてくれているのだろうか。
 思わずポケットに手を突っ込み携帯電話スマートフォンを取り出す。
 十月六日午後五時三十二分とだけ表示されているトップ画面を飛ばし、メール画面へ。

「何だよ、これ」
 メールの内容は、予想だにしない物だった。
 両親からでもない。
 ネットの知人たちからでもでない。

 受信したメールの宛先、それは――

《差出人:夜澤ミライ》
《送信日時:2012年 10月6日 17時32分》
《件名:無題》
《本文:リセット条件→飛び降り自殺 残り人数:2》


 僕自身からの、メールだったのだ。
************************************************
コンセプトは「バッドエンドをぶっ壊せ!」
鬱ストーリーと思われがちですが、どん底から這い上がり、真っ直ぐに突き進む正統派ジュブナイルとなっていますのでどうぞよろしくお願いします。
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