捧魂契約のリセットスイッチ

白城海

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第一章 運命炸動のファーストリープ

13・納めるべき供物

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『悪魔との契約により、お前は《リセットスイッチ》の全ての機能を使用する事が出来る』
「リセット……スイッチ?」
『そう! メールの指示通りに死ぬことによりオレと共に時間を遡る事が出来るお前だけのチカラ! 契約する事により、お前はその全ての機能を使用する事が出来るのだッ!』
 訝しむ僕に向かい、グリードは恍惚とした声で説明を続ける。

『まずは残り人数! 体験版では二回のリセットしか出来なかったが、契約する事によりカウントは《五》に増加するッ!』
「五回……」
 多いのか、それとも少ないのか。
 一度のやり直しすら許されない人生において、五度もリセットできるのはとてつもない魅力ではある。
 だが、《神にもなれる力》の割にはどこか物足りなくも感じてしまう。

『おぉっと、勘違いするなよ。リセットできる回数は一生のうちで五回じゃあない。契約をする事により、お前にはチャンスが与えられるんだ。《残り人数の増加》と言う、な。
 コインを百枚集めて《1UPワンアツプ》するように、得点を稼いで《1UPエクステンド》するように!』
 僕の心を読んだかのように悪魔が補足した。 
 彼の言葉に思わず口元が緩む。どこかアンバランスに感じたのだ。契約を迫る悪魔がゲームを例えに出してきたことに。
 僕の表情の変化には気付かず、グリードはさらに調子に乗って言葉を紡いでいく。

『お前が人生において大きな壁を乗り越えた時、契約は《残り人数の増加エクステンド》を認めるッ!』
「大きな壁? どう言う事さ」
 はっきり言って見当もつかなかった。
 僕にとって、今までの人生で乗り越える壁などと言う物は見た事がない。

 あるのは、後悔と言う巨大な大穴だけだ。

『それはオレにも分からない。だが、お前に届くメールが伝えてくれる。お前自身の深層心理から、乗り越えるべき壁を引き出してくれるからな』
「じゃあもし、エクステンドとやらの条件が達成不可能だったら?」
 乗り越えるべき壁なんて想像もつかない僕にとって、余りにも理不尽な物が出てくる可能性は捨てきれなかった。
『安心しろ。お前の心から引き出されるのは《乗り越えるべき壁》。達成不可能な事が表示される事は無い。
 納得したなら続きを喋らせてもらうぜ。オレはな、自分が気持よく喋っているのを邪魔されるのが何よりも嫌いなんだ。今までは我慢していたが、次に邪魔したらオレはお前を絶対に許さない』

 喋り好きなのは知っている、と口に出しそうになって、慌てて飲みこむ。
 昔からなのだが、どうも僕は口にする言葉が一言多いらしい。僕の数ある欠点の一つだった。

『もう一つ、契約が与える力、それは《セーブ機能》。これにより、お前はオレがいる場所に限り、自由に《記録セーブ》する事が出来る。
 知っているだろう? セーブだ。行動の記録だ。冒険の書だ! 《リセットスイッチ》を使って戻るための、記録した場所セーブポイントだ!
《セーブ》回数に制限は無い。

――ただしッ!

 《セーブ》は常に上書きされるッ!
 《リセットスイッチ》で戻れるのは《最後にセーブした時間》だけだ。

 ここまでは分かったか?』

 一気にまくしたて、頭の情報処理能力がパンクしそうになる。
 それでも、どうにか脳味噌をフル回転させ、理解に努める。

「えっと、メールの指示に従って死ぬことにより過去に戻れる。戻れるのは直前にセーブした時点。
 セーブはいつでもできるけれど、常に上書きされるので《戻れる》のは最後にセーブした時点だけ。これでいい?」
『ああ。それで間違いない。だがたった一つ警告しておきたいのは《死ぬ度にリセット条件は変化する事》だ。同じ条件は二度と現れない。どうしてなのかはオレだって知らない。そう言うルールだからだ!
 つまり、お前はリセットする度に携帯電話に届くメールをチェックしなければならない。
 何故なら、もしメール以外の方法でお前が死亡した場合、《リセットスイッチ》は発動しないからだ!
 もし、そうなったらどうなると思う?』

 電話の主が、にやりと笑ったのが雰囲気で感じ取れた。
 僕の頬を、汗が伝う。

「僕は、死ぬ。過去に戻ることなく」
『そうだッ! 先に待つのは完全なる死! この素晴らしい能力はお前の命と共に永久に失われる!』

《時間を巻き戻す度にリセット条件は変化する》。
 すでに僕自身が体験した事だった。

 最初は飛び降り、二回目は心臓へのダメージ。

 たった一つ、僕が気を付ければければならないのは、《リセットスイッチ》を使用したらすぐにメールチェックを行わなければならない事。
 そして、メール以外の方法で死んではならない事。

「……って、二つじゃん」
 グリードは一つと言ったのに、実際に僕が注意しなければならないのは二つ。
 お喋りなのは気にならないが、命に関わる事なの引っかかってしまう。
 小さな不満を抱く僕。

 しかし、本当に不満を感じたのは、僕の方では無かった。

『邪魔するなと……』
「えっ?」

『オレが話すのを邪魔するなと言っただろうがァァァァッ!』
 突然、絶叫が僕の鼓膜を揺さぶった。
 左耳が強く痛み、電話を取り落としそうになる。

『話を聞いていなかったのかァ? お前の耳には牛のクソでも詰まってんのか? 言ったよなぁ、オレは間違いなくお前に言ったよな。オレの話を邪魔するなってよォ!』
 胸倉を掴まれるような圧迫感。
 耳元で怒鳴りつけられる緊張感。
 生温かい息遣い。

 まるで、悪魔グリードが僕のすぐそばにいるようだった。
 勿論、気のせいだ。僕の目の前には何も無いし、体は宙を浮いてなどいない。
 彼は自分で電子の悪魔と名乗ったのだ。肉体などないはずだ。もし彼に体があるのならば、電話やメールなどの回りくどい手段は取っていないはずだから。

 全ては僕の恐怖から生み出された幻。
 だが、まるで目の前に存在を感じてしまうほどに彼は怒り狂っていた。

『もう一度言う。オレが気持ちよく喋ってる邪魔をするなッ! 分かったか? 分かったら返事をしろ!』
「わ、分かった、悪かったよ。もう、邪魔しない」
『そうだ。それでいい。誰だって許せないことってあるよな。怒鳴って悪いとは思っているんだ。だが、どうしても抑えられない。これは本能だ。仕方のない業なんだ』
  僕が謝罪すると同時に、再び朗々とした口調へと戻るグリード。
 改めて僕は彼が悪魔である事を認識させられた。このアップダウンの激しさ。理解できない逆鱗。あまりにも精神構造が違いすぎる。

『ファック。どこまで喋ったか忘れてしまったぞ。お前からオレに対して聞きたい事はあるか?』
  グリードの説明でルールに関しては理解できた。

 だが、彼の口からはまだ《最も重要な事》の説明が抜け落ちている。

「契約の代償は、何なの?」
 悪魔との契約。魂を奪われたり、生贄を捧げたり。創作物の世界では何物にも代えがたいモノを悪魔は奪っていく。いくら無知な僕でもそれ位は知っていた。

『そうだった。何よりも大事な事を忘れていたぜ。契約によってオレはお前に《リセットスイッチ》を与える。その代わり、一つだけ……たった一つだけお前にも条件があるんだ』

 想像通りだった。
 世の中、美味しい話なんてあるわけがない。グリードは受け入れがたい条件を出してくるはずだ。
 例えば、助かったはずの妹の命。例えば、僕自身の魂や身体の一部。

 恐ろしい想像が頭の隅々を満たしていく。
 とてもじゃないが、どれも飲むつもりはなかった。
 僕は人間だ。クギョウアカリを助けたように、誰かを犠牲にして幸福を掴もうなどと思う事はできない。

『条件は、たった一つ。これ以上ないほどにシンプルなモノだ』

 だが、グリードの出す条件は僕の想像の全てから逸脱していたのだ。

 どうしようもなく意外で、
 予想外で、
 意味不明としか思えない条件。

 その条件とは――

『オレと、一生を共にすること。それが条件だ』

 心の奥底から、理解不能な物だった。
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