捧魂契約のリセットスイッチ

白城海

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第一章 運命炸動のファーストリープ

12・見出される才能

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 馬鹿馬鹿しい。
 これが正直な感想だ。

 二十一世紀になって悪魔など、どうかしている。
 下らない妄想と笑い飛ばそうと口を開こうとする。

 だが、出来なかった。
 馬鹿にしてやろうとする僕の意志に反し、体はぴくりとも動いてくれなかった。
 頭では信じられなくても、心が信じていたのだ。

 男の言葉が《真実》であると。
 今まで目にした《現実》が《真実》だと物語っていると。

 この世のどんな科学者も、僕の身に起きた事は説明できない。
 誰に説明しようとも、頭がおかしくなったとしか思われないだろう。
 人の常識からかけ離れた出来事、悪魔の力や超能力とでも思う方がまだ理解できる。

「な、何が目的なんだ。た、魂でも取るつもり……!?」
 ただ、理解できても、納得できるかと聞かれれば否だ。
 僕の頭は、納得する事を拒否しようとし、訳の分からない感情や思いがぐるぐるとループするだけだった。

『そう怯えるなよ。オレはお前の味方さ。まずは落ち着け。落ち着くんだ。そうだ。そうやって大きく息を吸い込んで、全部吐きだすんだ』

 思考が麻痺したまま、彼の言う通りに深呼吸をし、黙って続きの言葉を待つ。
 逆に、自称悪魔の方はどんどん饒舌になっていった。

『良い子だ。そのまま大人しく話を聞いていてくれよ。大声を出されると面倒になるからなあ。
 オレみたいな存在が人に知られるとロクな事にならないんだ。で、どこまで話したっけかな?
 そうだ、オレが何を求めているかだったな。オレがどうしてお前に《体験版》を配布したかって事だよな』

「……体験、版?」

 どうやら、この自称悪魔は相当にお喋り好きのようだった。
 一言二言で済む事を、無駄に大仰に修飾して発言する。
 待たされる僕にとっては溜まったものではない。
 まるで、話は全く進まないくせに期待と演出だけは派手なマンガを読まされている気分だった。

『オレが欲しいのはお前との《契約》だよ。たったそれだけだ。それだけでいい。その為にオレは体験版を配布したんだぜ』
「……悪いけど、意味が分からない」
『《体験版》を送ったのは《リセットスイッチ》の素晴らしさを知ってもらうためさ。
 契約をしていないから二回しかリセットできないし、セーブも出来なければ、残り人数も増やせない』
「だから、何を言ってるんだ!」

 体験版、リセットスイッチ。
 何かとてつもなく重要な意味を持っている気がした。
 そして、僕はそれらを知っている予感もした。
 だが、どうしても僕の頭は言葉の意味を深く探る事を拒否しようとしてしまう。

『だから待てって。大声を出すなと言ってるだろう、少年。頭の悪い人間は嫌いだぜ?』
  悪魔に説教された所で、どんなに深呼吸した所で、冷静になれるはずがなかった。

 リセットスイッチとは、体験版とは、セーブとは一体何だというのだ。

『ふむ、お前はゲームをやらないのか? 一般的な高校生には非常に馴染み深い単語を使ったつもりなのだがな』
「今は、持っていない」
  正確には、《奴ら》に奪われてしまっただけだが。
『なるほど、ならば仕方ないな。順に説明しようか。お前に送ったメールは《リセットスイッチ》と呼ぶものだ。効果は、もう分かっているだろう?』

「……メールの指示通りに死ねば、時間が、巻き戻る」

『エクセレント。二度も使っているのだから知っていて当然だな。それが《体験版》だ。オレと契約する事で得られる力の断片。悪魔が与える《神にもなれる力》さ』

 神にも、なれる力?

「ま、待ってくれ。そもそも僕には悪魔っていうのが信じられない。だってそうだろ、悪魔ってのは普通は古びた本とか、何も無い空中からボンッって出てくるんじゃないのか?」
 少なくとも、メールと電話で連絡してくる悪魔なんて僕は聞いた事が無い。
 僕の疑問に対して彼は再び喉を鳴らして笑った。

『くくっ。随分レトロで偏った知識しか持っていないようだな。無知は罪と言うが、悪魔は寛大だ。喜んでお前の疑問に答えてやるよ。グレムリンという悪魔を知っているか?』
 悪魔グリードの質問に、僕は無言で首を振る。

『あいつらは機械に潜み、故障させる。人間にとっては全くの原因不明の故障だ。
 第一次世界大戦中は多くの飛行機乗りが彼らの行為により命を落とした。嘘みたいだが、これは軍の報告書にもしっかりと明記されているんだぜ。
 つまり、悪魔は、時代と共に生まれ、変化するということだ。二十世紀前半の時点で機械に潜む悪魔がいたんだ。情報が全てのこの時代、電子の海から生まれた悪魔がいたっておかしくないだろう?』
「それが、あんた……グリード、さん?」

『さん、なんてつけないでくれ。こう見えて、見えて? いや、見えないだろうがオレはお前より年下なんだ。痒くなるぜ。それで、オレが悪魔って事は信じて貰えたか?』

 信じたくなくても、信じるしか無い。
 今、僕の情報源は電話の向こうの彼しかいないのだから。

「一応、信じる。けど、どうして僕にメールを送ったんだ」
『さっきも言っただろう。契約。そう、契約だ。
 オレはお前に契約を結んでもらう為に《体験版》をプレゼントしたのさ。
 悪魔は強い欲望に、深い絶望に引き寄せられる。お前は、幸運にも選ばれた。この、悪魔グリードの本能に。
 そして、お前はオレの期待に応え、《体験版》の限度を使い切った。もはやそれは才能と言っても良い』

 才能。僕と言う人間から何よりもかけ離れた単語を聞き取り、耳を疑う。

『才能。そう、才能だ! お前にはオレと契約する資格があるっ。生にしがみ付かないと言うお前だけの才能があるんだよ!』

 詠うように、そして心底楽しそうに悪魔が朗々とした声を上げる。
 彼の言葉には力があった。
 聞く者に染みいる思いの強さがあった。

 恐らく、彼の言葉に嘘は無い。
 嘘が、これほどまでに僕の心を強く打つ事は無い。

 僕は生れて初めて他人の本心を、心の底からの思いを正面から受け取めていた。

 皮肉にも、悪魔からの言葉によって。

「契約すれば、どうなるんだ」
 彼は先程、僕が今までに使っていた能力を《力の断片》と言った。
 ならば、本当の力とはどういうものだろう。

『興味を持ったようだな。そうだ、それでいい。
 いいか。大人しく聞けよ。分かりやすく、親切丁寧に教えてやるさ。この悪魔グリードがな』

 くつくつと笑いながら喋る悪魔の声は、やはりどこか楽しそうだった。

 その後、僕は戦慄することになる。
 彼の話す《リセットスイッチの本当の力》を聞くことによって。

 僕の長い一日は、まだ終わりそうになかった。
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