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第一章 運命炸動のファーストリープ
二章 ダイジェスト
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ここから先は書籍化に伴いダイジェストとなっています。
ご了承ください。
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力を得ても、僕の日々は変わらない。
目的がないのだから当然だ。高校生にはギャンブルもできないし、宝くじを狙ったところで、高額当選してしまえば親にバレることは避けられない。
大層な力を得ても、僕自身は何も変わる事はない。
そう、思っていた。
きっかけは、僕が助けた少女――九行あかりからの電話だった。
「お礼をしたいから、一度会いたい」
電話を受けて二日後。僕は彼女に《リセットスイッチ》と悪魔グリードについて、全てを話す羽目になっていた。
九行さんは、僕なんかとは比べ物にならないほど頭の回転が速く、舌も回る。そんな彼女に、失態だらけの僕が隠し事を通せるわけがなかったのだ。
グリードは何も言わない。ただ、楽しそうに笑っているだけだ。
全てを聞いた九行さんは、僕にある提案をした。
「ロト6を狙おう」と。
高校生の受け取りでは親に連絡が行くと言うのなら、受け取りの代行を頼めばいいと九行さんは言った。
幸い、彼女の兄は大学生。口止め料込のバイト代を支払えば全てうまくいく。
狙うは、四億。キャリーオーバーの限界値。
人生を変える、大金。
そのまま計画を詰め、帰宅後。
僕は、初めてのセーブをした。
《最初の世界》で死ななかった林田省吾を見捨てたのだ。
■
翌日、十月九日。
祝日明けの学校は、非常に騒がしかった。
クラスメイトの林田章吾が死亡した知らせ。そして、取り巻き二人が学校に来ていない事。
緊急の全校集会が開かれ、校長が気の遠くなるような長い演説をしていたようだが、よく覚えていない。
僕の心は、どこか遠くに行っていた。
実は、一睡も出来ていない。
「夜澤、クン? もうすぐ授業始まるわよ」
教室のざわめきが嫌になり廊下に立ち尽くしていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返った僕の目に映ったのは若い女教師の姿。愛沢珠希、僕のクラスの副担任であり数学の担当教諭だ。
二十代後半の若い教師で、明るい性格は生徒からの人気が高い。
彼女は、何故か僕に心配するような視線を向けていた。
「顔色、悪いわね。熱でもあるの?」
愛沢先生が顔を近づけ、僕の額に手を当てる。甘い香りが鼻を通り抜け、心音が跳ね上がった。
「だ、大丈夫です」
飛び退くように後ずさり、腕を振り回して平気であることをアピールする。
「そう。友達が死んでショックなのは分かるけど、保健室行っても良いのよ」
さも辛そう、と言った表情で目を伏せる愛沢。
「でもね、人が死んでも取り返しって利くものよ。意外と、ね」
慰めの言葉だろうか。だとしたら、最高の冗談だ。
思わず笑いが漏れる。
冷たい、笑いが。
「トモダチ。先生にもそう見えたんですね」
少なくとも、彼女は僕が暴行を受けるシーンを何度か目撃していた。
《奴ら》が笑いながら僕を階段から突き落とした時も、廊下の非常ベルを無理やり押させた時も、愛沢珠希は目の前にいた。
「いや、それは。えっと」
「チャイム、鳴ってますよ」
しどろもどろになった愛沢に感情を込めず言い放ち、教室へと戻る。
やはり、殺して正解だったのだ。
殺さなければ、いつか《奴ら》に僕が殺されていたのだから。
《取り消した過去》の時のように。
授業が始まると、すぐにテストが配られた。
「授業が終わったら回収します。集めておいてくださいね」
そのままそそくさと愛沢は教室から出て言ってしまう。
テストと言うより、ただの自習だ。どうやら、緊急の職員会議らしい。
僕は何かを書きこむ事も無く、白紙の回答用紙を指で叩いていた。
もともと内容が理解できないこともある上に、何より頭がぐちゃぐちゃで考える余裕がない。
そもそも、僕にはもう高校の授業なんて必要ないのではないだろうか。
どんな試験だって《スイッチ》を使えば満点が取れるのだ。
もっとも、たかだか定期テストや小テストごときで《スイッチ》を使うことはあり得ないが。
――ロト6のことで《スイッチ》を使うんだから、このテストは満点が取れるのかな。
昨夜の抽選結果は、《一等無し》だった。つまり、キャリーオーバーが発生し、賞金は最高額の四億円へと届いたのだ。
後は木曜日の抽選結果を待ち、リセットするだけだ。
もう、後戻りは出来ない。僕は、僕自身の幸せの為に林田を見捨てた。奴は死んで当然の男だったかもしれないが、見捨てるのを決めたのは僕自身なのだ。
気持ちを落ち着かせる為に深く息を吸うと、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
考えごとをしている内に、時間が来てしまったらしい。
僕のテスト用紙は、相変わらずの白紙だった。
■
そして数日の時間が流れた。
僕がやることは一つ。
ロト6の抽選番号を頭に叩き込み、死ぬ。それだけだ。
メモを過去には持ち込めない。過去に戻るのは、僕の精神だけだからだ。
六つの番号を覚えた後、僕が取ったのは《電車への飛び込み》。
簡単に死ぬ事が出来た。飛び込んだ次の瞬間には自室に戻っていた。残機数は、四。
何もかも、予定通りだった。
――だが。
僕は戦慄する。次の《リセット条件》を確認した瞬間に。
そこには、あまりにも残酷な《リセット条件》――焼身自殺の四文字が書かれていたのだ。
だが、考えていても仕方ない。次にリセットするのはいつかも分からないし、僕が今考えねばならないのはロト6のことだからだ。
結論から言えば、拍子抜けするほどあっさりロト6は当選した。
勿論、一等の四億円だ。
世界が変わった瞬間だった。だが、それは試練の始まりで仕方なかったのだ。
■
金曜日。学校をさぼって僕と九行さん、そして彼女の兄である夏秋と銀行へ当選金受け取り手続きを行った。
「バイト代、五万じゃなくて五百万じゃダメか?」
「……無理、ですよ」
「いいだろ。四億なんだ。五百万くらい」
二人きりになった瞬間、夏秋が僕に向かって寒気のする声音で要求する。
幸い、九行さんが戻ってきて彼は何も言わなくなったが、僕の心には恐怖が植えつけられていた。
その恐怖に呼応するように、事態は動き出した。
当選金受け取り手続きを行った翌日、土曜日。
早朝のニュースで――
九行あかり、死亡の知らせが流れたのだ。
ご了承ください。
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力を得ても、僕の日々は変わらない。
目的がないのだから当然だ。高校生にはギャンブルもできないし、宝くじを狙ったところで、高額当選してしまえば親にバレることは避けられない。
大層な力を得ても、僕自身は何も変わる事はない。
そう、思っていた。
きっかけは、僕が助けた少女――九行あかりからの電話だった。
「お礼をしたいから、一度会いたい」
電話を受けて二日後。僕は彼女に《リセットスイッチ》と悪魔グリードについて、全てを話す羽目になっていた。
九行さんは、僕なんかとは比べ物にならないほど頭の回転が速く、舌も回る。そんな彼女に、失態だらけの僕が隠し事を通せるわけがなかったのだ。
グリードは何も言わない。ただ、楽しそうに笑っているだけだ。
全てを聞いた九行さんは、僕にある提案をした。
「ロト6を狙おう」と。
高校生の受け取りでは親に連絡が行くと言うのなら、受け取りの代行を頼めばいいと九行さんは言った。
幸い、彼女の兄は大学生。口止め料込のバイト代を支払えば全てうまくいく。
狙うは、四億。キャリーオーバーの限界値。
人生を変える、大金。
そのまま計画を詰め、帰宅後。
僕は、初めてのセーブをした。
《最初の世界》で死ななかった林田省吾を見捨てたのだ。
■
翌日、十月九日。
祝日明けの学校は、非常に騒がしかった。
クラスメイトの林田章吾が死亡した知らせ。そして、取り巻き二人が学校に来ていない事。
緊急の全校集会が開かれ、校長が気の遠くなるような長い演説をしていたようだが、よく覚えていない。
僕の心は、どこか遠くに行っていた。
実は、一睡も出来ていない。
「夜澤、クン? もうすぐ授業始まるわよ」
教室のざわめきが嫌になり廊下に立ち尽くしていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返った僕の目に映ったのは若い女教師の姿。愛沢珠希、僕のクラスの副担任であり数学の担当教諭だ。
二十代後半の若い教師で、明るい性格は生徒からの人気が高い。
彼女は、何故か僕に心配するような視線を向けていた。
「顔色、悪いわね。熱でもあるの?」
愛沢先生が顔を近づけ、僕の額に手を当てる。甘い香りが鼻を通り抜け、心音が跳ね上がった。
「だ、大丈夫です」
飛び退くように後ずさり、腕を振り回して平気であることをアピールする。
「そう。友達が死んでショックなのは分かるけど、保健室行っても良いのよ」
さも辛そう、と言った表情で目を伏せる愛沢。
「でもね、人が死んでも取り返しって利くものよ。意外と、ね」
慰めの言葉だろうか。だとしたら、最高の冗談だ。
思わず笑いが漏れる。
冷たい、笑いが。
「トモダチ。先生にもそう見えたんですね」
少なくとも、彼女は僕が暴行を受けるシーンを何度か目撃していた。
《奴ら》が笑いながら僕を階段から突き落とした時も、廊下の非常ベルを無理やり押させた時も、愛沢珠希は目の前にいた。
「いや、それは。えっと」
「チャイム、鳴ってますよ」
しどろもどろになった愛沢に感情を込めず言い放ち、教室へと戻る。
やはり、殺して正解だったのだ。
殺さなければ、いつか《奴ら》に僕が殺されていたのだから。
《取り消した過去》の時のように。
授業が始まると、すぐにテストが配られた。
「授業が終わったら回収します。集めておいてくださいね」
そのままそそくさと愛沢は教室から出て言ってしまう。
テストと言うより、ただの自習だ。どうやら、緊急の職員会議らしい。
僕は何かを書きこむ事も無く、白紙の回答用紙を指で叩いていた。
もともと内容が理解できないこともある上に、何より頭がぐちゃぐちゃで考える余裕がない。
そもそも、僕にはもう高校の授業なんて必要ないのではないだろうか。
どんな試験だって《スイッチ》を使えば満点が取れるのだ。
もっとも、たかだか定期テストや小テストごときで《スイッチ》を使うことはあり得ないが。
――ロト6のことで《スイッチ》を使うんだから、このテストは満点が取れるのかな。
昨夜の抽選結果は、《一等無し》だった。つまり、キャリーオーバーが発生し、賞金は最高額の四億円へと届いたのだ。
後は木曜日の抽選結果を待ち、リセットするだけだ。
もう、後戻りは出来ない。僕は、僕自身の幸せの為に林田を見捨てた。奴は死んで当然の男だったかもしれないが、見捨てるのを決めたのは僕自身なのだ。
気持ちを落ち着かせる為に深く息を吸うと、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
考えごとをしている内に、時間が来てしまったらしい。
僕のテスト用紙は、相変わらずの白紙だった。
■
そして数日の時間が流れた。
僕がやることは一つ。
ロト6の抽選番号を頭に叩き込み、死ぬ。それだけだ。
メモを過去には持ち込めない。過去に戻るのは、僕の精神だけだからだ。
六つの番号を覚えた後、僕が取ったのは《電車への飛び込み》。
簡単に死ぬ事が出来た。飛び込んだ次の瞬間には自室に戻っていた。残機数は、四。
何もかも、予定通りだった。
――だが。
僕は戦慄する。次の《リセット条件》を確認した瞬間に。
そこには、あまりにも残酷な《リセット条件》――焼身自殺の四文字が書かれていたのだ。
だが、考えていても仕方ない。次にリセットするのはいつかも分からないし、僕が今考えねばならないのはロト6のことだからだ。
結論から言えば、拍子抜けするほどあっさりロト6は当選した。
勿論、一等の四億円だ。
世界が変わった瞬間だった。だが、それは試練の始まりで仕方なかったのだ。
■
金曜日。学校をさぼって僕と九行さん、そして彼女の兄である夏秋と銀行へ当選金受け取り手続きを行った。
「バイト代、五万じゃなくて五百万じゃダメか?」
「……無理、ですよ」
「いいだろ。四億なんだ。五百万くらい」
二人きりになった瞬間、夏秋が僕に向かって寒気のする声音で要求する。
幸い、九行さんが戻ってきて彼は何も言わなくなったが、僕の心には恐怖が植えつけられていた。
その恐怖に呼応するように、事態は動き出した。
当選金受け取り手続きを行った翌日、土曜日。
早朝のニュースで――
九行あかり、死亡の知らせが流れたのだ。
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