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第八章 運命叛逆のファイナルリープ
3・虚飾の楽園/5:52
しおりを挟む契約してから最初のリセットの事だ。
ロト6の番号を必死に暗記した後、電車に飛び込んだ僕に彼はこう言った。
『戻って来れたようだな』
「お陰さまでね」
「今日は、八日?」
『あぁ、その通りだ。セーブポイントだからな。それで、首尾はどうなんだ?』
「どうも何も、さっき言ったみたいに電車に飛び込んだだけだよ。後は抽選を待つだけ」
『番号はちゃんと覚えているのか? 言っちゃあなんだが、お前はどこか抜けている部分があるからな』
注意深く観察すれば、彼の言葉がおかしいことが分かったはずなんだ。
彼は『首尾はどうなんだ』と僕に質問してきた。
だが、彼は僕が完璧に暗記する様子も、死に方も、全て知っていたのだ。
彼の記憶が継続していれば、『首尾はどうなんだ?』なんて質問をするはずが無い。
思い返してみれば、リセット直後の彼との会話で噛み合っている部分なんてほとんど無かった。
死のショックに精神を支配された僕は、そんな違和感にさえ気付く事は出来なかったのだ。
■
九行さんが死んでから、二度目のリセット。警察署で首吊り自殺をして戻ってきた僕へと、ようやくグリードが声をかけて来た時のことだ。
「何で、何でずっと無視してたんだよ。グリードが手伝ってくれてたら九行さんを助けれたかもしれないのに」
『必要だったからだ。お前が自分の五感で経験する事がな』
「必要って、何がだよっ」
『失敗する事をだ』
そうさ。失敗する必要があっただろう。
グリードに依存させるために。彼の甘い誘惑になびきやすくするために。
僕が、《夜澤ミライと言う男がどうしようもなくダメな奴だと思い込ませる》ために
『林田章吾は九行あかりに殺された。しかし、彼女が殺さない世界でも交通事故により命を落とした。九行あかりにも同じ事が起きたのだろう?』
「あぁ、そうさ! 彼女は僕を庇って死んだ! 戻せよ、戻してくれよ! 土曜日に、出来るんだろ? なあっ!」
この時の彼は、記憶が継続している訳では無かった。
直前に僕が放った独り言と、二回も減ったリセット回数から推理しただけだ。
『落ち着けよ。お前は混乱している。言っている事が支離滅裂だぞ。いいから落ち着け。落ち着いて頭を整理するんだ』
「頭を整理しろって、どうするんだよっ! 九行さんが死んだんだ。それ以外に何を整理しろって言うんだよっ! それに、お前だって僕と一緒に《戻って》きたんだ。説明しなくても分かってるだろっ」
『悪魔の忠告は素直に聞くべきだぜ。落ち着いて、口に出して、順序立てて何が起きたのかを整理するんだ。オレは意味の無い事は言わない。意味があるからこそ、こうやってお前に言っているんだ』
まるで、僕の為を思ってのアドバイス。
だが実の所、この《儀式》はグリード自身の情報収集の為でしかなかった。
■
全て、彼の策略だった。僕はグリードの掌でずっと踊らされていたのだ。
被害妄想でも何でもない。他にも、何度も同じような事はあった。
全てを知ってしまえば、目を背けることができない巨大な違和感。
彼の嘘。噛み合わない会話。優先して聞いてくる《取り消した世界》での出来事。
「どんなにグリードが頼りになるアドバイスをしても、同じ時間を生きない限りただのアドバイザーでしかない。心からの友には、絶対になりえない」
『面白い推理だ。一体、この数回のリセットで何があったのかと思う程にな。まるで別人の様だぞ、ミライ』
怒りの中にも、どこか嬉しそうに唇を吊り上げて悪魔が拍手をする。
『だが、お前の推理には穴がある。穴だらけと言っていいかもしれない。何故なら、お前の想像には《互いに嘘が吐けない契約》の事がすっぽりと抜け落ちているからだ』
確かに、彼の言う通りだった。
記憶が継続していない事も、遮られれば激昂する事も、全て仮定の話。
だが、僕にはその仮定を裏付けるだけの、確かな根拠があった。
「気付いたんだよ。悪魔にとって契約は絶対。だけど、僕は君の用意した契約書をロクに読んじゃいない」
『言っておくが、契約書に嘘を書いたなんて事はないぜ。契約は絶対だ。契約書には嘘も間違いもなく《お前がリセットスイッチの能力を得る》事と《互いに嘘が言えない》契約が書かれている。だったらオレはどうやってお前にそんな嘘を吐いたって言うんだ?』
この期に及んで《実は契約書が嘘だった》などと言うことはあり得ない。
勝ち誇ったようにグリードが胸を張るのが、どうしようもなくおかしかった。
今から考えれば勢いのまま契約するなど、あまりにも愚かな行為だったと思う。
悪魔と契約すると言うのに、まともに内容も見ずに僕はサインをしたのだから。
だが、その愚行こそも彼が僕を操って行わせた事だったとしたら……?
「《言葉を遮られると本能でブチ切れる》。これがカギだよ」
『……っ』
図星を突かれ、悪魔が歯噛みする。
「あの時の僕は、異常事態に巻き込まれてパニックだった。そんな時に怒鳴り散らされ、威圧されれば何も言える訳が無い」
僕が黙れば、一方的に好きな事を喋り倒す事ができる。
「そうやって、勢いのまま、僕から正常な判断力を奪ったまま契約させた。君にとってはゴミ箱のファイルを空っぽにするより簡単な事だったろうさ」
最初に恐怖と威圧感を植え付けておけば、以降も僕がグリードに口を挟む事は無い。
疑問や質問を投げかける隙間も与えず、勢いのまま彼の理屈を押し通す事が出来る。
ずっと、そうやって騙されていた。裏切られていた。
そして今。彼と契約した事で僕は殺されようとしている。
「ぜんぶ、計算通りなんだろ」
電子の悪魔、グリード。
普段の憎まれ口も、時折見せる優しさも、全て《僕と言う人間を操る為の計算だった》。
「契約書に嘘は無い。そして、契約してからもきっと嘘は言っていないんだろうね」
完璧な策略。人の弱さに付け込み、魅了する超一級のテクニック。
「だって、お前が吐いた二つの嘘は――」
数多くの真実の中の、たった二つの嘘。
「――《契約の前に口にしていた事》なんだから」
《一緒に時間を移動する》。
《言葉を遮られると怒り狂う》。
真実の中の嘘。嘘の中の真実。
ウィスパーの言葉だ。
奇しくも、ウィスパーは数多くの嘘の中に真実を織り交ぜ、グリードは真実の中に二つだけの嘘を混ぜていた。
『これは純粋な興味で聞くんだが、一体《取り消した世界》で何があったって言うんだ? オレからしてみれば、人を殺して罪悪感で沈んでいるお前が、いきなりラスボスになって立ち塞がってきたようなモンなんだからな』
「お前の想像を絶する事だよ」
『はんっ、違いない。最高だ』
最高の契約者。
《取り消した世界》でグリードが言った言葉。
一体、どう言う意味だったのかもう僕に知る事は出来ない。
「認めるんだね。僕に嘘を吐いていた事を」
何故なら。
『あぁ。認める。オレは契約前にお前に嘘を吐いていた。友人であろうとするため、お前と同じ時間を生きるフリをしてきた。ずっとお前を騙してきていた。悪いとは思っているんだぜ』
悪魔グリードは。
「だったらもう、終わりだ」
これから、死ぬのだから。
「僕たちの間に交わされた、《嘘を吐かない契約》が、お前を殺すんだ」
過去にグリードは言った。
嘘を吐いた場合、過去から未来に渡り存在が消え去ってしまうと。
僕のトリガーを解除する方法は一つしかなかった。彼の嘘を暴きたて、存在を消滅させる。
契約した事も、何もかもを《無かった事にする》しか残っていなかった。
だからこそ僕は、自分の魂を削る思いをしてまで彼を糾弾し続けた。
最高の友達だと思っていたのに、裏切りを受け入れられないままに追求し続けてきたのだ。
「さよならだ、グリード。僕に嘘が露見した以上、契約に従って君には消滅してもらう。過去から未来に渡って、契約ごと永遠に」
一言紡ぐ度に、胸へと、喉へと、頭へと痛みが走る。
手足は痺れっぱなしで、今にも崩れ落ちそうだった。
それでも、僕は悪魔から目を背けない。じっと見つけたまま、彼の消滅する瞬間を待ち続ける。
五秒、十秒。時間がただ流れていく。
だが――
『しかし、何も起こらなかった』
唇を歪めた悪魔の囁きだけが、部屋へと響き渡った。
************************************************
お願い:ここに来て全ての黒幕が明らかになりましたが、どうか感想欄に書くときは少々ボカした表現でお願いしたいです。
いわゆる推理小説の犯人。全ての黒幕のトリックが暴かれるシーンなので、ご協力をよろしくお願いします(土下座)
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