7 / 36
2章 お父様とお母様
お世話係は規格外
しおりを挟む
瞼を閉じていても感じる眩しさに、まだ目覚め切らない頭で朝が来たのだと理解した。そこで小さな疑問が浮かぶ。
……はて、いくら疲れていたといっても、カーテンも閉めないで寝たんだっけ? それともカーテンが役に立たないくらいに太陽は威力を増しているんだっけ? (そんな馬鹿な)
身を起こすと、やっぱりカーテンは開いていた。とりあえず、太陽光増強説ではなかったみたいだ。
目の端でせわしなく動く何かを捉えた。
見てみると、昨日より低い位置で結んである髪を腰まで垂らし、テーブルに朝食を並べているシグルドの姿があった。
「……ッ!」
「あっ! おはようございます」
どうして部屋に居るのか、と呆気にとられていた私。そんな私に、シグルドは何もなかったかのように陽気に朝の挨拶をした。
「良い天気ですね」
「良い天気ですね、じゃない! なんでここに居るの?」
「朝食の準備をしていました」
悪びれる様子もなく、実に良い笑顔で言い切った彼。どうも、私が思っていたお姫様と世話係の関係からずれている気がする。
というか寝ている間に部屋に入ったのか……いいの? この国の警備はそれでいいの? あ、世話係だからいいのか。…………いいのか?
魔法使いさんはシグルドを信用しているみたいだったけど、私にはそうは思えない。
「ふぅん……まぁいいや」
「何がですか?」
「こっちのこと。……それより、今日の朝食は……ッ!」
私は用意された朝食に目を向けたまま、言葉を失った。
やはり、というかなんというか……朝食は実に豪華なものだった。数多くのお皿には大量のおかずが輝いている。輝いて見えるのは、窓から差し込む太陽の光のせい……のはず。でもそれすらも、計算されつくされていたように見える。
ふと疑問が浮かぶ。どうして自室で食べることになっているんだろう? 昨日のお父様の話だと、城の中には『会食堂』があるみたいなのに、そこを利用せずにそれぞれ部屋で食べるなんて変な感じ。
「シグルド、あのさ」
私は本当の『ヒメカ』でないことが悟られないよう細心の注意を払って、言葉を紡いだ。
「なんですか?」
「私って、いつから自室でご飯を食べるようになったんだっけ?」
シグルドはうーん、と唸って顎に手を当てた。
「……僕がここに来る前の話なので詳しくは知りませんが、お妃様がまだ元気だったころは三人そろって食事をされていたと聞いています」
私は、ふぅん、と気の抜けた返事をした。お妃様……か。
昨日王の間に行った時には王様しかいなかったから、もしかしたらとは思ってたけど、どうやら亡くなっているらしい。
そう考えて、『ヒメカ』が少し不憫になった。
あの頑固で全く融通のききそうもない人が父親で、母親は亡くなっている。さらには政略結婚……。がんじがらめで、何の楽しみも味わえなさそうな人生だ。
「ヒメカ様、たまにはお妃様のところに顔を出してあげて下さい。きっと……元気になるでしょうから」
「……は?」
それは、私にあの世に行って来い(遠まわしに死ね)、って意味……? 私、なにかシグルドの気に障るようなことしたっけ?
チラッとシグルドの顔色をうかがう。……いやいやいや、そんなわけない。シグルドはいたって真剣な表情だ。
まっすぐに私を見つめる様子は、冗談を言っているようには見えないし、何よりも、シグルドがそんな人を傷つける可能性のある言葉を言うはずもない。……となると、まさか――
「お……お母様は今、どこにいるの?」
「ご自分の部屋にいらっしゃると思いますよ」
やっぱり、生きてるのか! 驚きが口から漏れないように慌てて口を押さえた。
不謹慎かもしれないけど、生きていたことに心底驚いた。元気がないということは何か病を患っているのだろう。
「――私、行ってみようかな?」
お妃様には申し訳ないけど、心配よりも好奇心の方が強かった。この世界の『お母様』に会ってみたい。
そんな思いからシグルドに申し出ると、
「では後ほど、ご案内いたします」
微笑みながらそう言った。
……はて、いくら疲れていたといっても、カーテンも閉めないで寝たんだっけ? それともカーテンが役に立たないくらいに太陽は威力を増しているんだっけ? (そんな馬鹿な)
身を起こすと、やっぱりカーテンは開いていた。とりあえず、太陽光増強説ではなかったみたいだ。
目の端でせわしなく動く何かを捉えた。
見てみると、昨日より低い位置で結んである髪を腰まで垂らし、テーブルに朝食を並べているシグルドの姿があった。
「……ッ!」
「あっ! おはようございます」
どうして部屋に居るのか、と呆気にとられていた私。そんな私に、シグルドは何もなかったかのように陽気に朝の挨拶をした。
「良い天気ですね」
「良い天気ですね、じゃない! なんでここに居るの?」
「朝食の準備をしていました」
悪びれる様子もなく、実に良い笑顔で言い切った彼。どうも、私が思っていたお姫様と世話係の関係からずれている気がする。
というか寝ている間に部屋に入ったのか……いいの? この国の警備はそれでいいの? あ、世話係だからいいのか。…………いいのか?
魔法使いさんはシグルドを信用しているみたいだったけど、私にはそうは思えない。
「ふぅん……まぁいいや」
「何がですか?」
「こっちのこと。……それより、今日の朝食は……ッ!」
私は用意された朝食に目を向けたまま、言葉を失った。
やはり、というかなんというか……朝食は実に豪華なものだった。数多くのお皿には大量のおかずが輝いている。輝いて見えるのは、窓から差し込む太陽の光のせい……のはず。でもそれすらも、計算されつくされていたように見える。
ふと疑問が浮かぶ。どうして自室で食べることになっているんだろう? 昨日のお父様の話だと、城の中には『会食堂』があるみたいなのに、そこを利用せずにそれぞれ部屋で食べるなんて変な感じ。
「シグルド、あのさ」
私は本当の『ヒメカ』でないことが悟られないよう細心の注意を払って、言葉を紡いだ。
「なんですか?」
「私って、いつから自室でご飯を食べるようになったんだっけ?」
シグルドはうーん、と唸って顎に手を当てた。
「……僕がここに来る前の話なので詳しくは知りませんが、お妃様がまだ元気だったころは三人そろって食事をされていたと聞いています」
私は、ふぅん、と気の抜けた返事をした。お妃様……か。
昨日王の間に行った時には王様しかいなかったから、もしかしたらとは思ってたけど、どうやら亡くなっているらしい。
そう考えて、『ヒメカ』が少し不憫になった。
あの頑固で全く融通のききそうもない人が父親で、母親は亡くなっている。さらには政略結婚……。がんじがらめで、何の楽しみも味わえなさそうな人生だ。
「ヒメカ様、たまにはお妃様のところに顔を出してあげて下さい。きっと……元気になるでしょうから」
「……は?」
それは、私にあの世に行って来い(遠まわしに死ね)、って意味……? 私、なにかシグルドの気に障るようなことしたっけ?
チラッとシグルドの顔色をうかがう。……いやいやいや、そんなわけない。シグルドはいたって真剣な表情だ。
まっすぐに私を見つめる様子は、冗談を言っているようには見えないし、何よりも、シグルドがそんな人を傷つける可能性のある言葉を言うはずもない。……となると、まさか――
「お……お母様は今、どこにいるの?」
「ご自分の部屋にいらっしゃると思いますよ」
やっぱり、生きてるのか! 驚きが口から漏れないように慌てて口を押さえた。
不謹慎かもしれないけど、生きていたことに心底驚いた。元気がないということは何か病を患っているのだろう。
「――私、行ってみようかな?」
お妃様には申し訳ないけど、心配よりも好奇心の方が強かった。この世界の『お母様』に会ってみたい。
そんな思いからシグルドに申し出ると、
「では後ほど、ご案内いたします」
微笑みながらそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる