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3.気づいちゃいましたっ!
しおりを挟む悠斗くんの顔が目の前にあって、私ったらプチパニック状態。
乙女ゲーム転生喜んだけど。悠斗くん推しだけど。
だけど。
だけど。
だけど……私の好きだった悠斗くんはこんなことする人じゃない!
そう思ったら、キスなんてされてやるもんかって気分になってきた。
「なんだその顔は」
態勢的には不利だし、現状打開の方法なんて分かんないけど、それでも悠斗くんの思い通りになりたくない。
「なんで知ってるのか言う気になったか?」
「どうしてそんなことを二宮くんに教える必要があるの?」
「質問に質問で返すな」
「じゃあ良いよ。……言・わ・な・い」
プン、と横を向いてやった。
「その不遜な態度……いつまで持つか」
顎に手をかけられ、無理やり悠斗くんの方を向かされてしまう。
ちょ……悠斗くんの力、尋常じゃなく強いんですけどっ。
やだやだ、悠斗くんの顔が近づいてくる。だというのに、がっちり捕まえられてるから、私は思うように顔を動かせない。
――ピピピ。
悠斗くんの動きが止まる。
スマホを取り出すと、軽く画面を見てすぐに電話に出た。
「もしもし。今向かってるから待っててください」
どうやら相手は伊吹様らしい。
そうだ、伊吹様に助けを求めれば良いんだ!
ピンチ真っ只中にいるっぽい伊吹様が助けに来れるわけはないけど、後々悠斗くんが追求されるくらいの影響はあるよね。
「い…………んぐっ!」
伊吹様の『い』の字を発しただけで、口を塞がれた。 途轍もない速さで塞がれた!
速い、速すぎるよ悠斗くん!
とりあえず電話してる間は口塞がれてても、キスの危険はないわけだから、その間になんとかこの状況を打開する方法を考えなくちゃ。
あぁ、もう。なんで推しキャラからキスなんておいしいシチュのはずなのに、こんなに嬉しくないわけっ!?
『あのねぇ、悠斗くん。君どこにいるか分かってる? こっちからばっちり見えてるからね。向かってないの丸わかり』
「……っ!」
伊吹様の声が聞こえたかと思うと、悠斗くんは凄まじい勢いで飛びすさった。
勢いのままきょろきょろと周囲を見回しているのは、きっと伊吹様を探してるからなんだろうな。
自由になった私はすぐに壁から離れた。
『ははは。そうそう女の子の唇を無理やり奪うような真似は慎みなさい』
どうやらはったりではなく、本当に見えているらしい。流石だよ伊吹様。
伊吹様が作ってくれた隙を無駄にしないためにも、私は早々に立ち去ることにした。これ以上悠斗くんと一緒にいたら、また同じ目に合いかねない。
せっかく乙女ゲームの推しキャラに会えたっていうのに残念だけど、やっぱり憧れは憧れのままで良い。これからは遠くから目の保養をさせてもらうことにしよう。
『あ、そっちの女の子も逃げちゃダメ。悠斗くんと一緒にオレのとこまで来てね』
逃げようとしていたのがバレているみたい。どういうわけか向こうからこっちが見えてるみたいだから当然と言えば当然なんだけど。
けど行くなって言われたって、はい分かりました、なんて素直に聞く気はない。よく考えたら、私がついて行く理由とか聞いてないし。
「ごめんなさい」
大きめの声でスマホの向こうにいる伊吹様に拒否の意志を伝える。
これでこの一件はおしまい。悠斗くんと話したことが思い出になるくらい、攻略キャラたちとは無関係で平和な学園生活を送りました。
……ってなったら良かったんだけど。
『ダメに決まってんじゃん。来ることは決定事項。君に拒否権はないから★』
お星様までつけて、伊吹様は私の意思を無視しました。
脳裏に浮かぶのは、無邪気でわがままな笑顔を浮かべた伊吹様。
うん、彼はそういう人なんだよね。大きな子供というか。あぁ……夢小説でも連発されてたなぁ「君に拒否権はないから」って。懐かしい。
……ちょっと待てよ。
私は考える。よく思い出す。
確かに「君に拒否権はないから」って台詞はよく見た覚えあるけど……あれ、ゲームの台詞だったっけ?
……違う。この台詞はゲームじゃなくて――。
「早く来い」
「うわぁ……!」
考えようとしていたのに、悠斗くんによって中断されてしまった。
しかも手までつながれて。
「さっきの話はあとで聞く。今は先にあのバカを片付けてからだ」
「……」
悠斗くんにも感じた違和感。
別のタイミングで伊吹様にも感じた、同種の違和感。
同じ顔、同じ名前の同じ人。だけど、私が知っている彼らとは微妙にズレが生じる。
だって悠斗くんは、厳しいところもあって初対面なら怖く感じるだろうし、私が知るはずない名前を呼んだのにも気づくと思う……けど、いきなりキスしようとしたりはしない。
それが、私の知ってる原作の悠斗くん。
そして、今手をつないでる悠斗くんも、私は知ってる。
この世界は『はぴ☆はぴ学園物語』にそっくり。
通う学校も。出会った人も。
でも、違う。
私は乙女ゲームに転生したんじゃない。
私が転生したのは――夢小説、だったんだ!
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