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2.疑われちゃいましたっ!
しおりを挟む体育館裏への呼び出し!? それって大丈夫なの!? って私は他人事ながら身構えてしまった。
いじめとかカツアゲ、リンチの大定番スポットですけど!?
内心ハラハラする私を気にすることもなく、悠斗くんは事もなげに言い放つ。
「イヤです。それじゃあ……」
『待って待って! マジで困ってるんだって。ほぅらみんなを体育館に召集したでしょ? オレが行かないとみんな何があったんだろうって心配するから』
「それでは僕の方から今日は解散と伝えておきますので」
このままじゃ本気で通話を切りかねない。そう思って私はつい口出ししてしまった。
「あの困ってるみたいだし、助けてあげたら?」
『えっ? 悠斗くん、そこに誰かいるの? 女の子の声だったよね? やだぁ悠斗くん、お兄ちゃんに内緒で何勝手に彼女作ってるのさ、このいけない子め~』
なんか勘違いされたっぽいんですけど。でもまぁ、伊吹様のことだから冗談だろうけどさ。
「…………」
余計な口を挟んだせいで面倒なことになったどうしてくれる、と言わんばかりの冷たい視線が私に向けられた。いや、ごめんなさい。まさかこんな展開予想してなくて。
「で、でもだって……ま、万が一ですよ、小鳥遊先輩が本当にどうしようもなく困ってたら」
「この人が本気で困ることなんてそうないから」
『うわぁオレって信用されてる、嬉しいな。けど今はその信用いらない』
「ほら、こう言ってますし行ってみた方が良いですよ」
スマホ越しの伊吹様の声を聞いて思い出した。
伊吹様は確かに頭も運動神経も良くて大体の問題は一人で解決できてしまう。けど、人並み外れた好奇心とチャレンジ精神を兼ね備えてもいる伊吹様は、予想外のことをして自分でピンチを作り出してしまう人でもあった。
そう確かゲーム内でも――
「パラシュートで飛びながら上手いこと二階の窓くぐって体育館に入ろうとして、引っかかってたり」
「なんだと?」
「いえ、そんなこともあるかなー、って」
「そんな馬鹿な事いくら小鳥遊先輩でもあるわけないだろう」
『…………』
ため息交じりに悠斗くんは言ったけどね。それがあるんだよ。恐ろしいことに。
『……悠斗くんさぁ、もう一つお願い。そこにいる女の子も一緒に連れてきて』
「はぁ? そもそも行くなんて……」
『じゃあ、待ってるから』
「おい! ……切られた」
大丈夫ですか、スマホがミチミチ言ってますけど、そんなに握りつぶして大丈夫ですか? 悠斗くん自分の握力考えてね。
……なーんてスマホの心配してたら、悠斗くんが歩き出した。
「来い、えーっと……お前、名前は?」
「私ですか?」
「ほかに誰がいるっていうんだ。お前には僕が見えないものが見えているのか?」
「いえいえ、私霊感とか持ってないんで! 私は海江田杏。今日から二年二組に転入することになってるの」
「転校生!? 道理で見覚えのない生徒だと思ったんだ」
それから悠斗くんについて、私は伊吹様の言っていた体育館へと向かう。私は場所が分からないから後をついて行くことにした。
「小鳥遊先輩の用事って何だろうね」
「考えるだけ無駄だ。あいつの行動は常人の思考から外れている」
「それはそうだけど……」
やっぱり考えちゃうよね。あの伊吹様が人に助けを求めるなんてよほどのことだからさ。
「……」
「……うわっ。ど、どうしたの二宮くん、急に止まったりして」
悠斗くんがいきなり立ち止まったせいで、私は悠斗くんの背中に顔から突っ込んだ。
くるりと振り返った悠斗くん。
「海江田さん。転校生だって言ったな」
「う、うん……」
なんかじりじりとにじり寄られてるんですけど。……何故?
近づき方が怖くて、私は一歩また一歩と後ずさる。そしたら、行きついたのは壁だった。
「うそっ!」
後がない!
「僕と出会ったのは今日が初めて。だというのに、どうして僕の名前を知っている?」
「あ!」
しまった。確かにそうだ。
ゲームで知ってたからつい口から出ちゃったんだよ。
不気味、だよね。そりゃあ。
転校生で知らないことがはっきりしてる相手に、名前を呼ばれたらどうしてって思うし。
でもどうしよう。貴方はゲームの登場人物で私はそれを前世でプレイしてたので知ってます、なんて言えないよ! それだいぶ頭ヤバイ人じゃん!
仮に信じてもらえたとしても、それはそれで気味悪いだろうし……。
「黙るということは、何か後ろ暗い事情があると受け取られても文句は言えないぞ」
「……っ!」
私が迷ってるうちにも、悠斗くんは確実に距離を詰めてくる。
気が付けば壁と悠斗くんでサンドされていた。
こ、これが壁ドン!? 転生してすぐにこれとか乙女ゲーム半端じゃない。
……あれ? でも悠斗くんって壁ドンするキャラだっけ?
真面目で、女の子にみだりに触れたりする人じゃなかった気がするんだけどな……。
「考え事か? 今にそんな余裕なくさせてやる」
「……ヒッ!」
膝を割られて股ドンまでされたんですけどっ!
ってかホント、この状況マズイよね!?
なんか脚に悠斗くんのズボンが擦れててムズムズするし。悠斗くんの顔が近くにあってドキドキするし……って、え!?
「二宮くん!?」
元から近くにあった悠斗くんの顔が、より近づいて来て、気付いたら鼻が触れてしまいそうなほどの超至近距離にあった。
こ、これはもしかしてちゅーされちゃう感じですかっ!?
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