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第一章
創造主が受肉する世界線
しおりを挟むアルバート・シッカートの妻、ヘレンの書いた小説の概要は以下の通りである。
”その世界”には、世界の秩序を保つために己の祈りを捧げる『柱』と言う存在がいた。その『柱』を人々は『創造主』と呼び、崇め讃えていた。
勇者に選ばれた少年、『カース』は、世界を滅さんとしている『闇の民を統べる者』を倒してくれと『創造主』に頼まれて、仲間とともに旅に出る。
カースらは様々な困難を協力して乗り越え悪に立ち向かうが、決戦直前に、カースの親友である『水の賢者』を殺されてしまってから、話の矛先が怪しくなってゆく。
勇者は親友を死を乗り越えられず、『闇の民を統べる者』に激しい憎しみを抱いたまま、最終決戦を迎えてしまうのだ。
勇者カースと闇を統べる者の戦いは日に日に激しさを増して行き、周囲の被害を省みぬ少年の戦い方は、まるで彼こそが真の『魔王』に見えるほどだった。
闇を統べる者は、勇者のなりふり構わぬ戦い方に己が勝機を見出せず、戦いの隙をついて、自らの魂を二つに分割したという。
その一つを、世界の片隅に放り投げた。勇者がそちらに気を取られているうちに、もう一つの魂が、闇を統べる者の死と引き換えに、カースを混沌へ引き摺りこむ。
勇者カースは、混沌の渦に引き裂かれ、死んだ。
しかし、話はそこで終わらない。
混沌に飲み込まれた二つの魂は、『創造主』の御手に掬い上げられ、彼らが生きた世界とは別の世界で、生まれ変わる事になる。
そんな危なっかしい魂など混沌に放り込み、粉々になったところで転生を待てば良いものを、何故そんな真似をしたかというと、理由は二つあった。
一つは、膨大な魔力を持つ二つの魂そのものが、非常に貴重な存在であったため、混沌の中で傷つくのを避けるため。
そしてもう一つの理由は、魂それぞれに使命を与えたためだ。
勇者カースの魂には、『柱』の創る世界を洗い流し、世界の根源を構築する”魔術の種”を、保存する器となる使命を。
闇を統べる者の魂には、『柱』が世界を洗い流すと決めるその時まで、勇者カースの生まれ変わりを守る使命を。
そう、『創造主』は『闇の民を統べる者』が世界を滅ぼすその前から、”その世界”を捨てるつもりだったのだ。
ならばなぜ、『勇者カース』に世界を救えと命じたか。
答えは明快であった。どのような運命を巡ろうとも、『闇を統べる者』は『勇者』には勝てない。そのような理を、『柱』自身が創りあげてしまったために、『勇者』が存在する限りは世界を滅せなくなってしまったのだ。
ならば『創造主』が世界を閉じてしまえばいいと、ユリスなら思うのだが、『柱』はあくまで、”世界を秩序だった平和に保つために祈る存在”としてしか”その世界”に生きることを許されていない。反旗を翻すような真似をすればたちまち、『柱』は折れるのだという。
すなわち、”その世界”の住民自らの手で、世界を滅ぼす必要があるのだった。
だからこそ『柱』は、『勇者カース』が己の残虐性に目覚めるよう、『闇を統べる者』が『水の賢者』に手をかけるよう、裏で糸を引いていたのだ。
そして、その真の目的を誰にも悟られぬよう、邪魔されぬよう、有望な二つの魂を異世界にて転生させ、保護しようとする。
一方、そんな思惑など知らぬ勇者カースの仲間達は、勇者カースの仲間達は、例え勇者が不在でも、自分たちの手で闇を統べる者が残したもう一つの魂を探し出し、世界の平和のために封印しようとしていた。
しかし、捜索は難航を極める。
そこで、異世界で魔法とは無縁の生活をしている”元勇者”を召喚し、助けを求めた――そこで、話は終わっていた。
編集後記によれば、次回作の予定があったにもかかわらず、作者のヘレンは命を経ってしまい、話は尻切れ蜻蛉で終わらざるをえなかったらしい。
このような状態で出版するとは、アルバートの活躍にあやかって販売部数を伸ばす作戦でも立てていたのだろうか。
ユリスは本を閉じて、両手で目を覆った。考えることが山ほどあって、どこから手をつけていいのかわからなかった。
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