普通に生きられなかった私への鎮魂歌

植田伊織

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人が怖い。ADHDとASDを併発していると知った日の事

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 日差しがぬくい。真冬用のインナーとコートを着てきた事を後悔する。外を歩くのならまだしも、地下鉄は随分暖かかった。暑くて気分が悪くなりそうだ。

 今日は、カウンセリングと精神科受診の日。精神科では、発達の診断に拘わる検査結果を聞きに行く。
 手帳を取るかどうかまだ迷っているが、この検査を申し込んだ頃には取るつもりでいた。実は病院の手違いで1年前にも同じテストは受けていて、不注意優勢型のADHDだという事は確定していた。1年越しに受けたことで何か変わったことがあるかもしれないと思い、結果を聞きに行った。

 すると、なんとASD(自閉症スペクトラム)も併発しているというじゃないか。集団生活での違和感、人と距離感を縮めることへの恐怖感と困難さ、いつでも他人行儀でしか接せられない己の特性を、自閉症の特徴だと思わなかったわけではない。何せ、父がバリバリのASDなのだから。だからさほどショックではなかったけれど、こうしてその経験を文章に起こしたいと思うという事は、それなりに悲しいのだろうなと思う。

 結局の所、手帳を取るのか年金を申請するのかどうかは保留にして、カウンセリングの順番を待った。

 私は人と信頼関係を築くのが苦手だ。
 一見人当たりが良いように見えるそうで、接客業が天職かのように言われるが、それは違う。(同業の方にもよく言われるのが一番辛い。人の皮をかぶった宇宙人のような気分になる)
 初対面の方と接するのはまだ問題ないのだけれど、どういう話をすれば仲が深まるのかが判らない。
 勿論、気の合うお客様相手や友人、似たタイプの方相手だと臆すことなくコミュニケーションが取れるのだが、いわゆる世間話をしながら距離を縮める作業というのが死ぬほど苦手である。――というより、どうすれば良いのか本当に判らなくて、不安と恐怖でいっぱいになってしまう。

 今は幸い、軽い世間話をしてくださる方に恵まれているが、プライベートで付き合うようなママ友は居ない。高校時代の友人グループだけがホームグラウンドだ。SNSですら、複数人の人たちが話している場に入ってゆけない。
 そういう自分を、改めたいと思っている。けれども、怖い。どうしようもなく、過去の失敗体験により「人によってこれ以上傷つきたくない」と思ってしまう。自身は失言だってするし、人を傷つけることもある程未熟だというのに。

 不注意というADHDの悪い所だけを受け継ぎ、人とのコミュニケーションに秀でているという良い点をさっぱり受け継がなかった。そして、ある程度空気は読めるけれど、結局人とうまく接せられないという、ADHDとASDの悪い所取りをしたような性格が、私である。困ったものだ。

 カウンセラーの先生によれば、「人が怖い」という心の本音を大切にしてもかまわないのではないかとの事だった。確かにそこを否定してしまうとまた、自己否定のスパイラルにハマってしまうだろう。
 
 私は比較的、擬態は上手な方だと思う。もちろん、本物にはなれない程度の精度だけれど。常に先回りして母の顔色を窺っていた幼少期からの習慣が、ある意味役に立っているのかも知れない。
 検査結果を見ても、障害者手帳は取れるものの、年金は難しいという程度の発達特性だそうだ。今まで何人もの専門家の方にも、ぱっと話しただけではわからないと言われた。

 しかし私には、先まで記述したコミュニケーション障害のほかにも、『机上の空論』が出来ないという特徴がある。これは仕事をしてゆくのに致命的な特徴なのだ。「シュミレーションが出来ない。やってみなければ疑問点がわかないので、物事に対して予測をし、対策を立てて不安を解消するという手段が取れないのだ。そうして、不安が不安を呼び、極限まで行くと解離性健忘を起こしてしまう。

 母の事ばかり精神病のように書いたが、身内にはほかにも精神病の方が居る。祖父も強迫観念の強い人だったし(社会的には大成功したので、そういった要因も悪い事ばかりではないのだ。年の為)私も、精神病の気質は大いに受けついている。
 というか、13歳の頃に解離性健忘と鬱病を経験して不登校になり、学歴と青春を溝に捨てていたのだった。既に立派なメンヘラである。

「生きるのに向いていない」と言うのは簡単だけれども、母親になった時点で「死んでいる場合ではない」のだ。
 死んだように生きるか、楽しく生きるかは、本当に自分で決められる事なのだろうか?

 手相占いをしてもらうと、占い師の方は不思議と皆、13歳の頃に私の転機があったという。それも、良い方ではなく、悪い方だ。
 「この時精神が壊れるはずだったんだけど、よく帰ってきたね」と言われた事もある。「死んでたはずだったんだよ」と言われたことも。
 環境に恵まれなかったのも事実だけれども、やはり私自身、精神は脆弱であった。思春期は特に。

 解離しやすいのは幼少期からもあって、自分を遠いところから見下ろしている経験がある。大人になった今でも、トラウマを刺激されると「自分が半歩上にズレる」。
 文章だけで読むと、「なんだ、このサイコなババア」と思われるかもしれない。こんなサイコなババアだが、平常時は一般人として振舞っている。何せ、擬態だけは得意なのでね。

 自分の弱さをどのように飼いならして行けばいいのか、未だ判らないでいる。
 弱さを活かす環境に、恵まれたことは無い。私は何故か、いつも逆境の中に放り込まれてしまうのだ。


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