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味覚過敏だった頃の記憶
しおりを挟む息子の二度目の遠足の日の話だ。
今月は弁当をたくさん作っている気がする。我が家は給食なのでお弁当作りというと緊張してしまうけれど、毎日作って、仕事に行っているお母さんもいらっしゃると思うと、心の底から尊敬する。
今日作ったのも唐揚げ弁当だ。
息子は味覚過敏なので、食べられる食材が限られている。
味覚過敏は“好き嫌い”と違い、「それを食べるのなら餓死を選ぶ」というレベルで苦手な食材を口にしない。発達障害の症状の一つであって、決して我が儘や教育不足では無い。
したがって、食べきれる事が重要な遠足のお弁当には、彼の好物を入れるようにしている。ちなみに、好物は「唐揚げ弁当」か「卵弁当」、そして「いくら弁当」である。
卵は唐揚げ弁当の中に入れられるし、メインにするには弱いかと思っている。オムライス弁当では食べムラがある。だったらいくら弁当を作ればいいかと言えば、そんな高価な生もの弁当は作っていられない。したがって、だいたいいつも唐揚げ弁当になるのだが、まぁ、完食してくれるので良しとしよう。
幼い頃は、私も偏食だった。
夫も偏食だったというのだから、息子は偏食のサラブレットと言って良い。
今思えば夫婦ふたりの偏食は、ともに発達障害の傾向を表す特徴だったのだろうと思う。
私自身の経験から言うと、小学校で給食を食べるようになってから――通常の好き嫌いはあれど――過敏さからは逃れられるようになった為、息子の食の偏りに関してはあまり悲観的ではない。
(もしかしたら、本当はもう少し心配すべきなのかも知れないけれど)
口に苦手な物を入れた途端に迫り来る、嘔吐感をよく覚えている。
「ちゃんと食べなさい」
と言われるたびに、
「どうして大人達はこんなひどい味のする食材を口の中に入れたまま、平気でいられるんだろう」
と、思ったものだ。
とても、口に物を入れていられないのだ。咀嚼するなんてもっての外。まるで石鹸を口に含んだり、洗剤を舐めるかの感覚に似ているように思う。
私の母は料理が嫌いで、食育にはかなりいい加減だった。それがかえって私を追い詰めずに済んだのは幸いだったかも知れない。
そのかわり、思春期以降、食欲との付き合い方や、インスタントラーメンを調理せずに食べるという異食(?)に悩んだので、一概に放置がいいかどうかは判らない。
* 一点、ご留意いただきたいのは、私が「食べる」事で満たされない思いを解消するタイプの人間だったことだ。おおらかな食育を行なったからと言って、必ずしも皆私のようになるわけではないのは記しておきたい。
私自身の食育方針はどうだったかと言えば、自分で言うのもなんだが、とても熱心だった。
インスタで離乳食を公開したり、赤ちゃん用の和食レシピを公開したりしているうちに、某webサイトにそのレシピを納入するようになるくらい、こだわっていた。(といっても、私のレシピはインスタ映えするオシャレな物よりも、手軽かつ機能的に作れるレシピや和食の方が、レビュー数が多いので、そちらの方面で採用されたのだと思う)
息子は、一歳を過ぎるまでは私のキラキラ離乳食を食べてくれていたのだが、それ以降は残念な事に決まったメニュー以外受け付けなくなってしまった。
そのため、離乳食研究家としての好奇心は、幼児食には継承されず、今にいたる。
本来、私は膵臓に病を抱えたときから、自分を奮い立たせるためにデコ弁当をよく作っていた。
作るようになったきっかけは、最初私の病が「膵炎」だと診断されたからだ。(のちに、膵腫瘍に診断名が変わる)
膵炎の闘病では、油分の摂取を厳しく制限しなければならない。
若くして一生その管理食と付き合わねばあらないと思った私は、デコ弁当を作る事で自分の境遇を少しでも楽しいものに変えようと思ったのだ。
その経験があってか、息子のお弁当を作るのはとても楽しい。
「朝、起きられるか」という不安はあるし、完食を目標にするとどうしても同じメニューばかりになってしまうことに、罪悪感を抱く事も多いのだけれど。
私が昔使っていたお弁当箱はメルカリで売ってしまったが、今でもパンダやキティちゃんのおにぎりをつくる道具などがある。
こんど息子に作ったら、喜ぶだろうか?
おにぎりの上に、ドレッシングをかけてくれと言う息子の姿が、鮮明に浮かぶのだった。
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