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じっさい
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「ねえ、じゃあ君に置き換えてたとえ話をしてみようか」
「はあ」
「君はある日、自分の内履きに画鋲が入れられてるのに気づく。君は画鋲を取り除いた後──きっと誰にも言わないまま、何事もなかったかのように過ごすよね?信頼できる友達には打ち明けるかもしれないけど、特別騒ぎ立てたりはしない」
「まあ、そうすると思います」
「それが何日、何週間も続いてとして、君は少し憂鬱になるくらいで、不登校になったりはしない。あの画鋲を入れてるのは誰だろう?あの子か、それともあの子か……みたいに疑いを持ちはするけどね」
「そうでしょうね」
「でも、それがさ、君がいる教室のど真ん中で『今度は誰が巣守の靴に画鋲入れるんだよ』って、堂々と話してるグループが突然現れたら、どう?」
「……それは、少し」
「傷つくよね~~~~」
妙に楽しげな口調で、先輩は断言した。
「結局、いやがらせで一番人を追い詰めるのはさ、その被害の大小よりも『こいつをいじめてもいい』っていう共通認識が出来上がってるかどうかだよね。コソコソやってたらまだマシで、座ってる子の背中に消しゴムを投げつけるのも、悪口を書いた紙を授業中にみんなで回すのも。そういう種類のものでしょ。いじめてるのを他のクラスメイトに見られても構わないって扱いにまでなってる。嫌がらせ自体は軽いものでもさ、お前に味方は居ないって思い知らされるのはきついものがあると思うよ」
先輩がよどみなく話す。実体験ですか?と茶化す隙さえ与えないくらいに。
「で、話を戻すけどさ、朝教室について、黒板に悪意のありそうな落書きが、名指しで書かれてたとする。それを見つけてさ、見てみぬふりするのって普通はしないよね。だって名指しされた子がいずれはやって来て、それを見るわけだ。いたたまれないし、可哀想って思わない? ふつうは」
「その子と特別仲が良いとか、好きとか嫌いとか関係なくさ、同じクラスなわけなんだから。自分への悪意を知った子が傷ついてさ、その子と一緒に自分も一日同じ教室で過ごさなきゃならないわけだ。その空気を考えるとさあ、何度も言うけど、友達じゃなかったとしても消してあげようって、ふつうは思うよね? もし自分が知らされてないドッキリの可能性を考えても、今はスマホがあるんだから、クラスの誰かにでも確認を取ればいい」
先輩は話し続ける。その場に書かれている文を読み上げるみたいに。見てきたかのように。その顔は変に楽しげで、皮一枚の下には若干の興奮さえあるように思えた。自分とは無関係な、対岸の火事を指さすような、そういうエンターテイメントのように、悪意の輪郭をはっきりさせていく。
「でも、そうはしなかった。最初に教室に着いた一人はね。で、二人目、三人目と登校してきて、その人たちも悪意のある文章を消さずにいた。ねえ、そんなことってありえるかな?俺みたいな嫌われ者が相手ならまだしも。そんで四人目五人目。最終的には、二十人前後。クラスの過半数が揃っても誰もその子のために動いてくれなかったんだね。そのうえ、面白がってスマホで撮る子までいた」
先輩が愉快そうに手の中で投げては受け止めた。
ここまで丁寧に説明されると、彼が言おうとしてることが、私にも推測できる。
あの子が自殺をするまでに追い詰められた原因は、黒板に書かれた嫌がらせそのものや、先輩にふられたことではなく──
「自分がクラス中から嫌われてることに、ショックを受けたんだろうねえ」
「それで、徹底的に落ちてしまった自分のカーストを引き上げる、というか周りに認めてもらうために最後の手段が、俺と付き合うことだったんじゃないの?」
「はあ」
「君はある日、自分の内履きに画鋲が入れられてるのに気づく。君は画鋲を取り除いた後──きっと誰にも言わないまま、何事もなかったかのように過ごすよね?信頼できる友達には打ち明けるかもしれないけど、特別騒ぎ立てたりはしない」
「まあ、そうすると思います」
「それが何日、何週間も続いてとして、君は少し憂鬱になるくらいで、不登校になったりはしない。あの画鋲を入れてるのは誰だろう?あの子か、それともあの子か……みたいに疑いを持ちはするけどね」
「そうでしょうね」
「でも、それがさ、君がいる教室のど真ん中で『今度は誰が巣守の靴に画鋲入れるんだよ』って、堂々と話してるグループが突然現れたら、どう?」
「……それは、少し」
「傷つくよね~~~~」
妙に楽しげな口調で、先輩は断言した。
「結局、いやがらせで一番人を追い詰めるのはさ、その被害の大小よりも『こいつをいじめてもいい』っていう共通認識が出来上がってるかどうかだよね。コソコソやってたらまだマシで、座ってる子の背中に消しゴムを投げつけるのも、悪口を書いた紙を授業中にみんなで回すのも。そういう種類のものでしょ。いじめてるのを他のクラスメイトに見られても構わないって扱いにまでなってる。嫌がらせ自体は軽いものでもさ、お前に味方は居ないって思い知らされるのはきついものがあると思うよ」
先輩がよどみなく話す。実体験ですか?と茶化す隙さえ与えないくらいに。
「で、話を戻すけどさ、朝教室について、黒板に悪意のありそうな落書きが、名指しで書かれてたとする。それを見つけてさ、見てみぬふりするのって普通はしないよね。だって名指しされた子がいずれはやって来て、それを見るわけだ。いたたまれないし、可哀想って思わない? ふつうは」
「その子と特別仲が良いとか、好きとか嫌いとか関係なくさ、同じクラスなわけなんだから。自分への悪意を知った子が傷ついてさ、その子と一緒に自分も一日同じ教室で過ごさなきゃならないわけだ。その空気を考えるとさあ、何度も言うけど、友達じゃなかったとしても消してあげようって、ふつうは思うよね? もし自分が知らされてないドッキリの可能性を考えても、今はスマホがあるんだから、クラスの誰かにでも確認を取ればいい」
先輩は話し続ける。その場に書かれている文を読み上げるみたいに。見てきたかのように。その顔は変に楽しげで、皮一枚の下には若干の興奮さえあるように思えた。自分とは無関係な、対岸の火事を指さすような、そういうエンターテイメントのように、悪意の輪郭をはっきりさせていく。
「でも、そうはしなかった。最初に教室に着いた一人はね。で、二人目、三人目と登校してきて、その人たちも悪意のある文章を消さずにいた。ねえ、そんなことってありえるかな?俺みたいな嫌われ者が相手ならまだしも。そんで四人目五人目。最終的には、二十人前後。クラスの過半数が揃っても誰もその子のために動いてくれなかったんだね。そのうえ、面白がってスマホで撮る子までいた」
先輩が愉快そうに手の中で投げては受け止めた。
ここまで丁寧に説明されると、彼が言おうとしてることが、私にも推測できる。
あの子が自殺をするまでに追い詰められた原因は、黒板に書かれた嫌がらせそのものや、先輩にふられたことではなく──
「自分がクラス中から嫌われてることに、ショックを受けたんだろうねえ」
「それで、徹底的に落ちてしまった自分のカーストを引き上げる、というか周りに認めてもらうために最後の手段が、俺と付き合うことだったんじゃないの?」
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