ロンリー・グレープフルーツ

れつだん先生

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第10話 同棲

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 それからのことはいちいち述べる必要も無いだろう。僕の中にあった彼女に対する不安も全て消え去り、これまでの関係以上に深い関係となった。
「会いに行ったら屈強な男とかがいて、金銭でもせびられるのかと思った」
「私だってこんなことしたこと無かったし、会いに行ったら男が何人もいて、なんてことも考えたんだからね」
 実は彼女のほうも緊張していたというのがわかり、なぜだかわからないけれどそれに対して少し安心した。会えたという喜びと同時に、こうしてネットで会って現実でも会うのが当たり前になっている人ではないのか、という疑惑もあったからだ。僕が初めてで良かった。
 バイトが休みの日は、ほぼ全て一緒にいた。車を三時間走らせ、外でデートし、ラブホテルで休憩し、僕は車で寝て彼女は家へと帰る。どういう言い訳をしているのかはわからないけれど、この出会いが問題になったことなんてなかった。それは夫婦間が冷め切っているせいなのかもしれないし、上手い言い訳をしているのかも知れないけれど、僕にはわからない。
 何度もやりとりをしている内に、彼女の旦那に対する愚痴の量が多くなっていった。過去、外で他の女とセックスをして子供を作ったりしたこともあったという。僕はもう心の底から「別れなよ」と何度も言った。彼女はそれには明確な答えを出さず、日々が過ぎていく。同時に僕の彼女へ対する思いも深くなっていった。彼女を僕のものにしたいという欲求が深まっていく。同時に旦那に対する苛々も深まっていく。なぜこんな美人と結婚して、他に浮気をするんだ? 考えられない。僕ならありえない。僕は絶対浮気なんてしない。だって何もいいことなんて無いじゃないか。僕は過去一度だけ女性と付き合ったことがあるけれど、他に好きな人ができた時点で別れを告げた。そんな当たり前のことができない男が、彼女と一緒にいるなんていうことが考えられない。

 落ち着いて。
 彼女についての話をしよう。彼女は十九歳の時に十七歳の旦那との間に女の子供を身篭り、式も挙げずに結婚をした。それから二年後に男の子供を身篭り、二十六歳の時に僕と出会った。つまり七歳の娘と五歳の息子と二十四歳の旦那と自身の両親と共に過ごし、僕はその中に無理矢理入り込んだ形になる。僕は簡単にセックスをしてしまったけれど、嬉しさだけがあったわけではない。愚痴はありつつも一応夫婦として成り立っている女性とセックスをしたわけだから、責任が伴ってくる。これが相手の旦那にばれてしまったら、という不安と、今まで以上に深い関係になることができたという嬉しさが混ざり合う。アルバイトの夕勤の女の子に相談したって、そんな経験が無いからそれに対して応えられるわけが無い。友人にしたってそうだ。一体誰が僕の悩みを解決してくれるんだ? それは他でもない、僕だけだ。僕がこれからどうやって生きていくかは僕にしかわからない。

 そんな僕が親と喧嘩をして家を飛び出したのは、彼女が遂に決心し離婚届を役所に提出した日と同じ日だった。アルバイトを辞め、ずっと部屋で彼女とチャットやオンラインゲームをして日々を過ごしていた僕に「出て行け」と怒鳴り、僕はノートパソコンと携帯と現金数千円だけを握り締めて家を出て、隠れ家に住むことになった。といっても隠れ家はもともと友人たちと集まるために掃除し作り上げた部屋なので、テーブルやテレビなどはあるのだけれど、単なる離れなので台所といったようなものはない。当然シャワールームなどもない。なるほど僕は勢いのまま家を出たけれど、ここに住まなきゃならないのか、と半ば諦めの心境で横になっていると、車の音が聞こえた。友人であるMがやってきた。
「うぉ、なんでここにいるの」
「家から出てきてさぁ、ここに当分住もうかと思って」
「別に俺はいいけど、食べるものとかないよ」
 それから暫くMと喋り、ここに住まわせてもらいます、とMの親父さんに挨拶をして、こたつにパソコンを置いき、ハードディスクに入っていた音楽を聞いてその一日は終わった。Mの親父さんがいい人で、僕に晩御飯をくれた。どこぞの総菜屋の天ぷらとご飯と鮭フレークだった。そしてシャワーは親父さんの家のシャワーを使わせてもらえるようになった。しかしそんな優雅な日々が続くわけもなく、金もなくなった僕は、シケモクを吸いながら食事はココアの粉だけという生活を何週間か続け、限界が来て彼女の元へと車を走らせた。夜中だったので下道で三時間でたどりついた。

 同棲生活、といっては聞こえはいいかもしれないけれど、そんな生半可なものではなかった。僕が寝る場所は彼女が元旦那と購入した新車のノア――しかも彼女は喫煙者だというのに禁煙車だ――で、食事は適当にそのあたりで買ってきたもの。当然我慢の限界が来て、僕は「両親に挨拶をして家に住まわせてもらおう」と提案した。それから僕は「お邪魔します」を言わなくなった。我ながらずうずうしいと思う。
 彼女の二人の子供はすごく可愛かった。といっても変な意味ではなく、純粋に可愛いと思った。七歳の娘と五歳の息子は僕に慕ってくれ下の名前で呼んでくれて、おんぶをせがんでくるし、もう、何ていうか、たぶん子供を持つ人ならわかるだろうけれど、目に入れても痛くない、この二人のためなら死んでも構わない、そう思えるほどに可愛かった。就職活動をしながら彼女についてまわり、幼稚園に迎えに行って「お兄さんが迎えにきたよぉ」なんて言われるたびに「お兄さんじゃないんだけどなぁ」と思ったり、「兄弟仲がいいですねぇ」なんて散歩中におばあさんに言われても「だから兄弟じゃないんだけどなぁ」だなんて、十二歳しか違わない娘と十四歳しか違わない息子を見ながら思ったものだ。

 派遣だけれど何とか仕事にありつき、彼女の母のつてで家賃二万五千円、駐車場五千円という格安の空き家を住処とし、それから彼女とその二人の子供と僕の奇妙な同棲生活が始まった。その空き家は築何十年も経っているような木造の一軒家で、部屋の数は四つあった。風呂はようやく二人が入れるほどの小ささだけれど、綺麗に掃除されてあった。そんな小ささなので、僕が何度一緒に風呂に入ろうと彼女に誘っても、彼女は首を縦に振ることはなかった。
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