ロンリー・グレープフルーツ

れつだん先生

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第9話 性交

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 電話、メール、ゲーム、睡眠とバイトの時間以外は全て彼女につぎ込み、そして彼女も僕につぎ込んだ。そんな日々が何日も過ぎて、いつの間にか夏は終わり、秋に入り、十一月になった。ある日の夜、突然「そっちに遊びに行こうかな」と彼女からメールが入った。僕たちは県は違えど隣通しなので、行こうと思えば数時間で行くことができる。しかし、僕はそのメールにどう応えていいかわからずにいた。実際に会って何をする? 告白でもするのか? 馬鹿馬鹿しい。そんなことしたって、叶うわけが無いし、彼女は僕を単なる友達としか思っていない。ただ僕の住むところを観光したいだけなんだ。僕は数時間考えた挙句、「バイトの休みの日ならいつでもいいよ」と返信した。
「じゃあ十一月の九日はどう?」
 シフト表を見て、その日はちょうど休みだと確認する。
「大丈夫」
 しかしどこで会えばいいのだろうか? 僕は実家住まいなので女性を気軽に連れてこれる状態ではない。かといってずっと車でドライヴというのも金がかかって仕方ないし、疲れてしまう。そこで僕は思い出した。古い付き合いであるの友人Mの親父さんの家を使えばいいのだ、と。
 それについては少し説明せねばならない。友人Mの親父さんの離れを僕たちは隠れ家と呼び夜な夜な集まってはつまらない話題で盛り上がっていた。その離れは僕たちが自由に使ってもよいと親父さんに言われたので、部屋を大掃除し荷物を片付け、六畳ほどの離れは完全に人が住める状態になっていた。そこに彼女を呼べばいいのではないだろうか? 一応メールで友人に聞いてみる。即答で「別にいいよ」と返ってきた。よし、彼女と会って車で隠れ家へ行き、そこで話でもすればいい。プランが固まった瞬間、全身に緊張が走った。携帯を開き画像フォルダの中にある、数枚の彼女の写メを見る。どこからどう見ても美人だ。僕みたいなごみには勿体無いほどの美人だ。僕はそれを見ながら想像し何度やったか数知れない。そんな女性と会うことができるのだろうか? これまでそれなりに女性と接してきてはあるものの、女性と喋ることができないという最悪的な欠点を持っている僕が、しかも大人数ではなく二人きりで? 何を話せばいい? 今までチャットで話していたようなことを話せばいい? それで退屈しないのだろうか? わからない。僕の頭の中にある女性という引き出しはからっぽで何も無い。変な汗が滝のように全身に流れ、喉はからからに渇き、完全に思考の止まった脳みそがただただニコチンを欲している。僕はもともと喉が渇いている状態で煙草を吸うのは苦手としていたが、この時ばかりは何本も立て続けに吸ってしまった。強い煙草を何本も吸ってしまったせいで、軽いヤニクラに襲われ、視界がぐらりと揺らぐ。
 何を、どうする?
 彼女と、何をする?
 脳内に沸いたふしだらなイメージを払拭しもう一度煙草に火を付けた。元々吸っていた煙草を彼女と一緒の銘柄にしたいというだけの理由でセブンスターを吸い始めたんだけれど、これがけっこうきつくて、ヤニクラが現在進行形で起こっていて、もう思考が定まらない。
「じゃあ駅まで行くから迎えに来てね」と彼女からメールが来た。「オッケー」と返す。思考とは真逆に行動するのが腹立たしいけれど何もできない自分が情けなく感じた。そういえばと明日が休みなのを思い出し、大学生の友人にメールを打ってみる。「ちょっと女の子と会うことになったんだけどどうすればいいかわからないから相談に乗ってくれ」と。この友人も古い付き合いで、僕のことを一番よくわかっていると言っても過言ではない。それに女の扱いには僕の友人の中でも抜群にわかっている。僕が覚えている範疇では、これまで五人と付き合った。それ以上はわからないし、体の関係だけを入れると何人になるのかもわからないけれど。すぐさま「マジで!」と返ってきた。もう既に夜の九時を回っていたが、お互い暇ということで会うことになった。友人の元へ車を走らせる。既に立って待っていた。
「うぃっす」という僕の挨拶を無視し、「女の子と会うってどういうことよ!」と少し食い気味で車に乗り込んできた。それを無視し車を出す。ストレートパーマで綺麗に整った髪の毛が窓から流れる風になびいている。
「いや、ネットで出会った女性と会うってことになったんだよ」
「お前やるな!」
「さっきから驚きすぎだっての」
 友人Kは最近僕の影響で煙草を吸いだした。マイルドセブンのスーパーライト。たまに見えるピアスは両耳合わせて二つ。僕は四つ。それ以外に勝ち目は無い。確かにこれまでいくつもの女性と経験してきただけのある整った顔立ちで、煙草を口に銜える姿が僕よりも様になっている。
「写メの交換とかはもうしてるんでしょ?」
「してるし何度も電話してるよ」
「何で俺に黙ってるんだよ」
「別に黙ってたわけじゃないし」
「会ってデートしてヤっちゃえばいいじゃん」
 ここが僕とKとの大きな違いであると言えよう。前の彼女と挿入寸前まではいったものの、ちゃんとしたセックスをしたことのない僕は、会ってセックスをするという選択肢が頭の中に浮かんだものの、実行はできないだろうと思っていた。やはりKはすごい。
「一応隠れ家使うつもりなんだよね」
「俺も女の子とセックスするときは隠れ家使ってるよ」
「……」
 文字通りの無言。暫しの沈黙が車中を包んだ。隠れ家はいつの間にラブホテルとなっていたのだろう。一応離れとはいえMの親父さんが住んでいるというのにも関わらず、そこでセックスをしていたとは――
「で、いつ会うの?」
「来週の金曜日。ちょうどバイト休みだからね」
「いいなぁ、俺も行っていい?」
「いいわけないだろ」
「だよな」
 市内を軽くドライブし、解散となった。僕の悩みは一つも解消されないまま、脳内をぐるぐると回り続けている。Kのように軽く立ち回れたらいいんだけれど、そんなわけにもいかないことは自分が一番よく知っている。そんなことで嫌われたりはしないとは思っているけれど、変な空気になってしまってつまらない一日にしてしまってはこっちにわざわざやってくる彼女に申し訳が立たない。毎日毎日彼女とやりとりをしながら、九日のことを考えていると、すぐに当日になってしまった。
 そしてついに、今日、彼女に、会う。

 駅まで車で三十分ぐらいだろうか。その間に何杯コーヒーを飲んだか、何本煙草を吸ったかわからない。あまりの鼓動の高まりに死んでしまうのではないだろうかとさえ思ってしまう。これから僕は知り合ったあの女性に、あの美人な女性に会うんだ。それからドライブして、隠れ家に行って、いろいろ喋って、お別れする。ただそれだけだ。コンビニのレジのように機械的、までとはいかないけれど、別に今までしたことのない一日を過ごすというわけではない。気負いしすぎて萎縮してしまうのは良くない。かといって自信満々とはいかない。どうすればいいんだろうか、と考えていると、駅についた。
「ついたよ」とメールすると同時に助手席のドアを叩く音が聞こえた。彼女が立っていた。僕は慌てて助手席の鍵を開け、扉を開いた。ミニスカートとジャケットでばっちりと決まった彼女が乗り込んできた。当の僕はというと、よれよれのロンTにGパンというあまりにもデートには不都合の格好だった。なぜこんな格好を選んでしまったのだろうか。緊張のあまり格好にまで意識がいかなかったのだろうか。
 というのも、二つの不安があった。一つは前に述べたもの。もう一つは釣りの場合のこと。ここでいう釣りは例えば美人局など、女性が来ても来なくても屈強な男が多数おり僕に金を要求するというパターン。なので財布には小銭しか入れていなかった。女性が助手席に乗り込み――初だ!――僕に「初めまして」と言った。僕は何て言うか困り果て、脳内は緊張と興奮と美人局ではなかったという安心感がごちゃまぜになって、「ど、ど、どうも」とようやく口に出した。電話やチャットでは普通に喋れるのにやはり対面すると喋ることができない。買っておいた缶コーヒーを口に含み、煙草に火をつけると、彼女も煙草に火をつけた。横目でちらりと彼女を見る。動画よりも美人だった。丁寧な化粧を施し、格好にもちゃんと気を使ってくれている。当の僕は何だ! 手土産一つも持たず、ただ着の身着のまま、歯を磨いておいたのは正解だけれど、それ以外は全て駄目だ。自分で自分が情けなく思えた。
 会話はほとんど無く、ものの数十分で隠れ家に着き、中へと入る。一応事前には説明しておいたけれど、もう一度念のため説明をしておく。
「ここは友人の親父さんの家の離れで、自由に使っていいところなんですよ」
「ほうほう」
 中へとあがり込み、とりあえずこたつを囲んで見合っている。お互い緊張しているという雰囲気が隠れ家を包む。沈黙……を破ったのは彼女だった。
「やっぱり写メと違うねぇ」
「あっぷるさんもぜんぜん違いますよ」
 その通りだった。携帯で送られてきた写真や動画よりも大人びて見えて、格好も余所行きのためより一層美人に見えた。気が付けば僕たちはじっと見合ったまま、キスをした。そしてお互い服を脱ぎあってセックスをした。そういった一連の流れがスムーズにいったのは本能がそうさせたのだろうか、いや、彼女がリードしてくれたからだろう。確かに童貞卒業とあって手間取った部分はあったし、彼女に満足はさせてはあげられなかったしいってしまう瞬間がわからずに中に出してしまったけれど、僕は満足した。そりゃそうだろう。こんな美人とセックスができるだなんて、終わった今でさえ本当にあの時間は現実だったのか虚構だったのかわからない。でも彼女の裸だけは覚えている。全体的にほっそりとし、乳房はほどよい大きさで、僕が「初めてだ」と言うと丁寧にリードしてくれたし、何せ、言いたいことは、とにかくよかった、それだけだ。その後僕たちは軽くドライブし、車の中でまたセックスをした。セックス寸前まではいったことのある僕だけれど、この日が童貞卒業だと言っても過言ではなかった
 楽しい時間は一瞬で過ぎ去り、やがてすぐに別れの時間がやってくる。
「旦那と子供がいなかったら泊まりたかったんだけどね」という彼女に僕は何も答えられなかった。そしてその言葉で一瞬にして現実に引き戻された。そう、僕は、結婚をして子供もいる女性とセックスをしてしまったのだ。犯罪ではないことはわかっているけれど、それでも人道に反している。
 最初はたどたどしかった会話も、何時間も喋り続けていると普通に喋られるようになってきた。駅までの四十分間、僕は何を喋ったのか覚えていないけれど、彼女が笑ったことだけは覚えている。でもセックスのことだけは一言も出なかった。そして僕たちは何度も手を振りながら別れた。
 僕は今日、初めて彼女に会い、そして童貞を捨てた。こうして僕たちは邪な関係のカップルとなった。
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