恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第1章 閉鎖病棟

第2話 名前

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 晩飯を食べ終わると、六時半から投薬の時間になる。水をコップに入れ、テーブルに座って待っていると、名前を呼ばれ薬を手渡される。それをちゃんと飲んだのを看護師が確かめてから、違う患者の薬にとりかかる。ここに来る前のかかりつけの病院では、毎食後薬を飲んでいたが、ここじゃ朝飯と晩飯の後と寝る前だけのようだ。薬を飲み、移動してからまた小説を読む。集中力がなくなったので、テレビの前に座りテレビをじっと見る。つまらない。目の端っこでは、たれ目の彼女が若い女性と中年女性の三人で仲良く喋っている。気になる。もっと喋りたい。でも僕には女性に対してどのようにして話しかけ、話を続けるかということについてはさっぱりわからない。といってもこの歳――二十五歳――まで彼女がいなかった、というとそうではない。三人と付き合って、四人とセックスした。その内のひとりは、五年近く付き合っていた。そのどれもが向こうから仲良くしてきたし、向こうからアドレスの交換を打診してきたし、そして付き合うようになった。なので、自分から行くということが根本的にわからない。それを自慢だととられればなにも言い返せないが、女の子とどうやって自分から仲良くすればいいかわからない二十五歳など、いい歳してまでオネショ癖がとれない小学生みたいだ。
 テレビの内容など一切頭に入らない。この位置からだと目のはしっこにしかたれ目の彼女が見えないので、小説を持って別のテーブルに移動する。ここからなら十分だ。体はスレンダーで、出るところはちゃんと出ている。なにより歩いている時に後ろから見たおしりの形がすごくいい。たれ目の彼女が声を上げて笑ったり、誰かと喋っているのをずっと見ていたい。
 しかし、そんな時間もあっという間に過ぎ、時計は二十時半になったので、寝る前の薬を貰うために別のテーブルへと移動し、コップに水を入れる。そして名前を呼ばれ、様々な薬が一袋になったものをもらう。一体僕はなにを飲んでいるんだろう。一袋に八種類ほど入っているのと、統合失調症の患者によく出されるジプレキサ・ザイディスを二十ミリ。よくわからないまま口に放り込み、それを水で流し込む。ちょうどたれ目の彼女が目の前に座っていたので、薬をちらりと見てみると、ジプレキサ・ザイディスを二十ミリ飲んでいて、ふむ、僕と同じく統合失調症かと思った。少し親近感がわいた。たれ目の彼女は飲んですぐに自室へ行ったため、僕も自室へと戻って、うす暗い中小説を読んだ。しばらくすると病室の明かりが消えた。二十一時の消灯だ。携帯を没収され時計もないため、今がいつなのかさっぱりわからない。そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた……。

 看護師に起こされ、ぼんやりとした頭を抱えたまま朝食を食べに、ロビーへと行く。視界がはっきりとしない。足元がふらつく。そんなに強力な睡眠薬を飲んでいるのだろうか? 様々な薬を一つの袋に入れ、手渡されるので自分がなんの薬を飲んでいるのかはさっぱりわからない。確か――と記憶をたぐらせる。かかりつけの病院で、ベゲタミンBを処方されたはずだ――それが強力なのだろうか? 調べようにも携帯がない。椅子に座りぼんやりとしていると、僕の名前が呼ばれたのでトレイを手にし、開いた椅子へと座る。今日はご飯と味噌汁と納豆だ。僕は体質で、納豆を食べると腹をこわすため、ご飯と味噌汁だけを食べ、トレイを返す。その頃には頭も視界もしゃっきりとし、あの気になる、たれ目の彼女を目で探す。斜め向こうに僕に背を向ける形で座り、ゆっくりと食べている。お互いがこの閉鎖病棟にいる限り、ずっと会えるんだと思うと、気持ちの悪い笑みが止まらなくなった。

「九時からラジオ体操だから出るように」と何度も担当の看護師に言われていたので、それを思い出してロビーへと行く。数人の男女が、ラジオ体操を待っているのか、ロビーでたむろしていた。その中に、例のたれ目の彼女がいたので、にやりとする。そしてラジオ体操。なんだか久々に体を動かした気がして、気持ちがすっとした。そしてそれが終わると、「ラジオ体操に参加した人は、ここに名前を書いてください」と言われ、ノートに名前を書く。たまたまたれ目の彼女の次の番に並んだため、たれ目の彼女のフルネームが判明することになった。小林真理。覚えておこう。
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