恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第3章 退院記

第4話 診察

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 持病の外脛骨障害が少し痛くなってきて歩きづらいので、二駅しかかからないのにも関わらず、バスに乗り病院へ行った。毎度二から四時間は待たされるので、鞄に文庫本数冊を入れた。四ヶ月ぶりの病院だったが、システムは覚えていた。入り口奥にある機械に診察券を入れると、レシートのような紙切れが出てくる。そこに番号が書いてあり、精神科――そこではメンタルヘルス・センターとなっている――の受付に提出し、後はその横にぶら下げられたモニタに番号が呼ばれるまでソファに座って待つ――のだが、メンタルヘルス・センターは人でごった返していた。座れないので立って待っていると、なんだかか懐かしげな顔を見つけた。T君だ。僕より何歳か年下で、大学生で、ライト・ノベルを書いていて、小説の話でよく盛り上がっていた。近づき肩を叩くと、振り返りざまに、「あ」と言った。しかし事前にLINEで退院したことは伝えていたので、そこまでは驚いていなかった。
「渡辺君、退院おめでとうございます」とT君は言った。僕は、「ありがとう。長かったよ」と言った。それから僕たちはいつものように小説の話をした。二時間ほどすると僕の番号が呼ばれ、診察室に入った。
 四ヶ月振りに会う主治医は特に変わっていなかった。三十代半ばで少し太っていて、髪の毛は短く整えられている。
 椅子に座るなり、「おぉ、渡辺、生きてたか」と主治医は言った。
「四ヶ月ぶりですね」と僕は言った。
「その間に、俺の娘も五ヶ月になったよ」
「おめでとうございます」
「いや、なんにせよ、生きててよかった」と主治医は言い、右手を出してきた。握手を交わし、笑い合った。この主治医とは、恋する閉鎖病棟で出会ってからの間なので、付き合いはもう四年以上になる。
「あの病院どうだった?」
「最悪ですね。担当医もクソだったし」
「あそこはねぇ、いい話を聞かないよ」
「でしょうね」
「で、調子はどうよ?」
「安定はしているんですが、夜がまったく眠れません」
「薬もがっつり減らされてるからなぁ」
「入院する前の処方に戻してくださいよ」
 入院する前は二十錠近く飲んでいたが、今は三錠しか飲んでいなかった。
「いや、あれは多すぎる。取り敢えずセロクエルが少なすぎるから、五○mgから二○○mgに増やしておく。これでちょっとは眠れるようになるだろ」
「わかりました。あとレンドルミン出してください」
「二錠出しておくよ。それより、お前、入院中に病名変わったんだな。統合失調感情障害から気分変調症になってるぞ」
「ああ、入院中の担当医も、気分変調症と言ってましたよ」
「そうか。まあ精神病の病名なんて、あってないようなものだから。電気治療もしたんだろ?」
「はい。六回やりました。記憶がぶっ飛びました」
 二人して笑いあった。T医師の診察は、いつもこうだった。雑談をして終わる。当然それだけではない。精神科の医者には当たり前なのかもしれないが、雑談の中で状態をよく見ている。薬が増えたのも、僕の状態がよくないからだろう。それはそうだ。二日に一度しか眠れないなんて、よくないに決まっている。
 診察は終わった。薬局へ行き処方箋を提出した時に、携帯が鳴った。Lだった。LもT君と同じく大学生で、そして同じくデイ・ケアで知り合った。英語教師を目指して頑張っていた。馬が合い、よく僕の家に遊びに来たり、逆にLの家に遊びに行ったりしていた。僕の家の近所にある少し高めの個人経営の居酒屋にもよく行っていた。
「おー、L、久しぶり」
「診察終わった?」
「終わって、今薬局」
「俺も今日診察なんだけどさ、待つからその間回転寿司でも行かね?」
「おー、じゃあ薬局で待ってるよ」
「受付に提出したら行く」
 そこで電話は終わった。薬局の外ですることがないので、煙草をふかし待っていると、三十分程でLがやって来た。
「久しぶり! ちょっと痩せた?」
「ん、どうだろう。Lも痩せたんじゃね?」
「ちょっとね」
「とりあえず寒いから寿司屋行こうぜ」
 寿司屋は、病院から歩いて十分ほどの所にあった。そこで僕は十皿食べた。四ヶ月振りの寿司はとても美味しかった。うにとサーモンがとろけるほどに美味しかった。食べ終わると別れ、僕は家に、Lは診察へ向かった。
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