恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第3章 退院記

第3話 現金

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 生活保護費は口座に振り込まれる。だから僕はいつも二日の夜中零時過ぎ、つまり三日の零時にファミリー・マートへ行き、金を引き出していた。今回も入っていることを期待し、キャッシュ・カードを入れ残高を照会したら、九百円しか入っていなかった。福祉事務所に取りに行けということなのだろうか。諦めて部屋に戻りまどろんでいた。
 いつの間にか眠っていたようで、気づけば朝の九時になっていた。福祉事務所は自転車で五分の所にあるので、ようやく金が入る、所持金はもう二百円しかない、早速行こうと玄関を出て階段を降り、自転車置き場に自分の自転車があるのを確認し、一応乗る前にタイヤを触ると、空気が完全に抜けていた。この自転車は女友達から貰ったもので、しょっちゅうパンクしていた。今回もそうなのだろう。しかし、直す金がないので、諦めて、歩いて福祉事務所へ行った。あまりにも寒い。
 福祉事務所の入り口にある受付の中年男に、自分の名前とケース・ワーカーの名前を言い、呼んで貰う。しばらくすると五十代そこそこの男がやってきた。この男は会った時から嫌いだった。金のことばかり言う。月の終わりに金がなくなり、それに対して小言を言うならわかるのに、どうにかこうにかやりくし、生き延びている僕に、「携帯代が高いんじゃないか」だとか、「食費をもっと切り詰めて」だとかいちいち金のことにうるさい。別に手前の財布から金が出ているわけでもなく、国民の税金から出ているのにも関わらず、だ。
 ケース・ワーカーは、「生活保護費を渡せるの十一時からなんだけどね」と言った。こういう敬語を使えない――いや、使わないのだろうか――所も癪に障った。僕は怒りを溜め込みやすい性質なので、じっと我慢していると、「ちょっと待ってて、今保護費持ってくるから」と言った。なんだ、くれるのか。よし、これで携帯代とガス代が払え、皆に連絡が取れる!
 しばらくソファに座って待っていると、封筒を手にケース・ワーカーがやってきた。いくら貰えるのだろうか。今までは十五万程入っていた。というのも、障害者手帳加算があり、一万三千円ほど増えていた。しかし、入院中に障害者手帳の期限が切れ、加算はされなくなったので、十三万五千円ぐらいだろうか、それでも家賃と携帯代とガス代を払っても余裕にお釣りが来る。しかし――と考え直す。そういえば、入院中に、「いつも月の後半になると金がなくなるので、分割で渡す」と言われた記憶があった。分割なら、家賃を払えばそれでなくなる。どうしよう……。
 悩んでいると、「はい、今月の保護費」とケース・ワーカーが封筒を渡した。僕は早速封筒を開け、中身を確認する。十三万九千円入っていた。
「本当は分割にしたかったんだけれど、月の初めの分で家賃と携帯代に消えるから、分割はやめたんだよ」と言った。
 僕は使い古してぼろぼろになった財布に金をねじ込み、さっさと退散しようとしたら、ケース・ワーカーが続けた。
「ところでなんでそんなに携帯代が高いの? どういうプランなの? 電話し過ぎじゃないの?」と言った。僕は、「機種代が高いんですよ。電話はいくらしても定額のプランに入っているんですよ」とぶつぶつ言った。もうさっさと立ち去りたい。鬱陶しい。
 それからなんやかんやと言われ、三十分でようやく退散できた。そこからバスに乗り、蒲田駅へ行き、三井住友銀行で家賃を払い、その隣にあるソフトバンク・ショップへ行き、携帯代を支払った。母親は、「三万七千円払ったから、残りは二万少し」と言ったが、結局は四万二千円払うことになった。しかし、これでようやく友人に連絡が取れる。
 家に帰るなり、復活した携帯で、LINEのグループ・チャットに、「退院しました」と書き込むと、早速電話が鳴った。仲の良い女友達のSさんからだった。以前二年間通っていたデイ・ケアで知り合った、二歳年上の女性だ。一緒に呑んだり、出かけたり、僕の家に泊まったり、お気に入りのバンドのライヴに行ったりした、信頼できる女性だ。Sさんは出るなり、「久しぶり!」と言った。続けて、「心配したんだよぉ」と言った。
「四ヶ月音信普通だったから、実家に帰ったのかと思った」
「すいません、心配かけました。四ヶ月ずっと閉鎖で入院していたんですよ」
「皆も心配してたよ!」とSが言った所で、携帯が鳴った。LINEだ。皆それぞれが、「心配してた」だとか、「おかえり」だとか、「生きててよかった」だとか、「入院どうだった?」だとか発言したので、電話しながらそれに応えた。それからしばらく電話を続け、切った。携帯を使うのは実に四ヶ月ぶりだった。Sさんと話すのも四ヶ月ぶりだったので、なるほど、こういう声をしていたのか、なんていうことを思っていた。
 それから携帯で2ちゃんねるやツイッターで退院報告をし、小腹が空いたのですき家へ行き久々の牛丼を食べ、またすることがないので、音楽を聞きながらまどろんでいた。

 相変わらず小説は書けない。積読が百冊以上あるのにも関わらず、本が買いたい衝動に駆られ、西村賢太の新刊と村上春樹のエッセイ集と羽田圭介の小説を買い、それを寝っ転がりながら読んだ。
 そして次の日にはまた訪問看護のおばさんがやってきた。

 それを繰り返していると、水曜日になった。明日の木曜日は診察の日だった。退院時に貰った薬はなんの意味も成していないことと、訪問看護のおばさんが、「早めに前のかかりつけの病院に行った方が良い」と言っていたので、病院に電話をし、予約を取り付けた。相手は、「来週の木曜日は休日なので、凄く混んでいます。一応十時半の予約を入れておきます」と言った。
 相変わらず、一日一食しか食べられず、で二日に一度しか眠ることができない。
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