恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

第6話 陰性

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 空腹を感じたのでスーパーへ行き、安いベーコンを買ってそれを焼いて米と一緒に食った。壊れた訳ではないので、とりあえずずは炊くことはできた。確かにメニューを見るが、野菜をまったく摂っていない。しかし男の一人暮らしなんてこんなものだろう? 三十を目前にして、結婚欲が出てきたのは間違いない。周りの友人たちはどんどん結婚していく。そりゃあ、精神病で生活保護な僕が、結婚はおろか恋人なんてできないに決まっているが、期待はしてしまう。唯一の逆転のチャンスは、長年書き続けている小説がどこかで当たることだろう。しかしそんなことはありえない。ありえないが、期待はしてしまう。だからこうやって時間を消費して書いている。真理さんと小説は一緒だ。無理だ、いやでも、無理だ、いやでも、の繰り返し。
 その日の夜は久しぶりにアルコールを買い込み、ぐっすりと眠った。

 前述した生放送で久々に再会した元彼女を、たまたまツイッターで発見した。というのも、僕のハンドルネームで検索したら、出てきたのだ。そして過去のツイートを見る。もはやストーカーだ。気持ちが悪い。その中に元彼女が写っているいる写メを発見した。僕より七歳年上だから、今年で三十七歳になるのに、相変わらず美人だった。そして、「元彼の放送見てきた。訪問看護の人と幸せになって欲しい」という書き込みがあった。
 数年かかってようやっと忘れかけた元彼女に、また少し好意を持ったのは確かだ。では、訪問看護の真理さんと元彼女どちらを狙うのか、となると、正直答えが出せない。と言うよりも、どちらかを狙った所で、確実に付き合えるだなんていう未来はない。そんなことはわかりきっている。しかし……。またこのスパイラルだ。
 そのままツイートを眺めていると、元彼女がLINEグループのやり取りをしている画像があった。そこに僕の知らない男の名前を見つけた。それを見て、やっと本当の意味で、この元彼女のことが忘れられたような気がした。やはり何かきっかけが欲しかったんだろう。
 僕は、その元彼女も見ているであろうツイッターに、「決めた。訪問看護の真理さんを狙う」と決意表明をした。フォロアーは二百三十人ほどいるが、当然のことながら誰も反応はしてくれなかった。
 いや、まあ、狙うといっても、一直線に突き進むというわけではない。連絡先を聞く聞かないの前に、仲良くなることが先決だ。先日、「小説はミステリぐらいなら読む」と言っていたから、どういう本が好きなのかを聞き、本棚から、「何か気になるのありますか」となり、お勧めの小説を貸す。それから小説以外の趣味を聞き……。
 完璧な流れだと思った。そうやって仲良くなって、最終的には連絡先を聞く、というものに繋がる。そしてすぐに気づいた。この完璧な流れって、掲示板で言われたことじゃないか……。

 ジャパニーズ・ヒップホップを聞きながらネットをして一日が終わる。ゲーム、映画、読書にはまったく興味が出ない。面倒くさいんだろう。自分でもよくわかっている。晩飯にインスタント・ラーメンを食べて、薬を飲んで寝る……。が、全然寝られず、やっと寝ついたのは、朝の五時を過ぎた頃だった。

 チャイムの音で起こされる。眠気眼でドアを開けると、気の強い四十歳ぐらいの看護師とその後ろに若く可愛い、チャーミングな女の子が立っていた。部屋へ招き入れる。若い女の子は自己紹介をした。眠たかったからか、名前は覚えていない。
 それから一連の流れを終わらせると、「金曜日はAが来るから」と言った。やはりそうだったのか。一週間に三回ある訪問看護の内、チャンスは一度しかない。そんな状態で仲良くなっていけるのだろうか? 
 そして、「最近どう?」という話になった。僕は正直に、最近気分が下がっていることを話すと、「入院した方がいいんじゃないの?」と言われた。それだけは絶対に嫌だった。「明日の作業所の見学を延期してもらいなさい」と言った。僕はもう電話を受けるのもかけるのも、もっと言えばLINEが来るのも送るのも吐き気がするほどに嫌だったので、保健師に電話してそれを伝えられるかが不安だった。
「でもそれを伝えないと後がしんどいよ?」と言われたので、二人の訪問看護が部屋に去ってから、保健師に電話をかけた。怒られるかと思ったが、逆に心配してくれた。そして、「いつもこの時期になると体調崩すけど何かあるのかな?」と言った。前述した友人の死がまだ堪えているのだろうが、それは言わなかった。「明後日は役所で関係者会議だけど大丈夫?」と聞かれたので、大丈夫ですと返事をして電話を切った。一つ問題をクリアしたが、もう一つある。主治医に作業所の見学を行けなかったと言うとどうなるだろう……。いや、もう考えたくない。

 それからまたぐだぐだとし、スーパーで飯を買い、それを食ってまたぐだぐだとした。しかしそれだけでは駄目だと思い、この小説を四枚書いた。掲示板を覗くと、「訪問看護に早く連絡先を聞け」と書かれていたので、「どうせ僕なんて無理だよ」と答えた。すると、「お前はいつも、どうせ、という言葉を使って勝手に諦める。そんなのやってみないとわからないだろ」と書き込まれた。それは確かにそうなのだが、可能性が皆無の状態で何をやればいいんだろうか? と書き込みそうになったが、どうせ、「何で可能性が皆無だってわかるんだよ」という言葉が返ってくるだけだろうと、書き込むのをやめた。
 すると夕方頃、生活支援センターの男性から電話がかかってきた。なぜか、僕が小説を書いているということを知っている。僕が話したのだろうか? 電話の内容は明後日の関係者会議のお知らせだった。
「何ですかその関係者会議って」
「ああ、今後について話し合うんですよ。訪問看護師と、保健師と、ケースワーカーと、ヘルパーと、私と、あなたで」
「なるほど」
 どうでもよかった。しかし、一つ収穫があった。
「訪問看護のAさんによると」という言葉が何度か出た。ということはつまり、真理さんは僕の担当なのだろうか? だからほかの訪問看護師と違って、訪問時間が長いんだろうか? 聞くことはできないので憶測でしかない。
 少し希望が湧いた。今週は金曜日だけでなく、明後日木曜日にも真理さんに会える可能性があるということだ。
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