レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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初恋

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 誰にだって忘れられない人がいるはずだ。異性であったり、同姓であったり、身近な人であったり、ブラウン管の向こう側の人であったり。僕にだっている。その話をしよう。
 僕と彼女は小学校低学年の頃に同じクラスになり、遠足の時に手を繋いだ所から始まっている。それが一番古い記憶だ。口数の少ない女性で、あまり話したという記憶は無い。
 中学になり、別の小学校の友人が増え、小学校の卒業アルバムなんかを見せ合って、誰が可愛いかなんて話をした時に、僕はその女性を上げた。しかし誰も良い顔をしなかった。僕の目ではとてつもない美女に見えたんだけれど、他の人にとってはそうでもないらしい。中学一年、二年の頃は別のクラスで、一切会話はしなかった。中学三年に同じクラスになって、一気に距離が近くなった。普段女性と喋ることができない僕が、ずっと好きだった女性と喋れるわけがなく、毎日毎日悶々として、長期休みなんかになるともう早く学校へ行きたいと思うようになっていた。完全にその女性に心を奪われていた。
 僕だって中学に上がって少しは成長し変わったように、彼女も変わっていた。社交的になっていた。そして向こうから僕に話しかけてくることが多くなった。それも、悶々とさせる理由の一つだった。僕に話しかけるのはいいけれど、僕以外の男と話さないでくれよ、と。

 目を閉じれば情景が浮かぶ。掃除の時間だったろうか。運動場の隅っこで、僕と彼女はブロック片に腰掛けて漫画について語り合っていた。会話の始まりは確か彼女から話しかけて来たように覚えている。僕が何冊か漫画の本を貸して、その感想について話し合っていた。会話の内容は漫画から僕や彼女の話になった。彼女は小学生の頃暗かったので友人もなかなか出来ず、なので中学に上がってからは無理に明るく人に接しているということを聞いた。そこから話題は急転し、クラスメイトの男子で良いと思う男を一位からランク付けしていくという話題になった。僕は最後から二番目だった。「あんたなんてその程度でいいのよ」と笑いながら言っていたのを未だに覚えている。
 かのじょはとあるミュージシャンが大好きで、その話をよく僕にしていた。写真までも集めていて、それをよく僕に見せてくれた。だから僕はそのミュージシャンが嫌いになった。だけど彼女は好きだった。

 しかし楽しかった日々は突然終わる。僕が体育祭に対して真面目に取り組んでいないというたったそれだけの理由で、それ以降卒業するまで数人の男子から苛められることとなる。このことについてはまだ話せる状態ではないので省く。それはそれは毎日地獄の日々でした。当然彼女に近づくことも出来ず、彼女が僕に近づくことも無くなって、そして卒業を迎えた。今でこそ中学生はおろか小学生でさえ携帯電話を持っている時代だけれど、僕たちの時代はまだそんなものも無くて、卒業してしまえばそこでさようなら。それまで何度も何度も告白しようとしたけれど、遂に出来ずに終わってしまった。
 高校は別の道へ。結局どの高校へ行ったかというのは、高校を卒業してからわかった。県内ではあったが、遠く離れた所にある進学校だった。僕は自転車で三十分ほどの、名前さえ書けば受かるような高校。彼女は一人暮らし。僕は実家暮らし。一度も会うことは無かった。
 そんな彼女に対する思いが消えかかったのを感じたのは、バイト先で彼女が出来てからだった。僕を好いてくれたので無条件にそれに答えた。でも遠距離になってしまい、僕は高校の教師に惚れてしまったので、短期間で終わってしまった。その頃には初恋の彼女に対する思いもほとんど消えていた。たまに夢枕に出るものの、起きて数時間はナーヴァスになっても時間が経てばまた元に戻る。何よりも高校へ行けば好きな女教師に会えるのだ。友人にも恵まれ、楽しい三年間を過ごした。

 就職し、新たな彼女と出会い、同棲し、別れ。中学を卒業してから八年が経っていた。タイミングを見計らったかのように、ソーシャルネットワークサービスであの初恋の彼女を見つけた。僕はあまりの偶然に言葉を失い、何がなんだかわからない状態に陥って、ずっと携帯を眺めていた。その時一緒に食事をしていた友人が「久しぶりってメッセージ送れよ」と言うまで僕は固まっていた。彼女は彼女自身の画像をアップロードしていた。あの頃の面影はあるものの、ほとんどが変わっている。僕だってそうだろうし、女性には化粧というものがある。でもその変貌を見た瞬間、僕の気持ちは一気に消し飛んだ。あの時の彼女を今まで好きだったわけで、今の彼女を好きにはなれない。僕の記憶の中に存在している彼女と今の彼女の違いを受け入れることが出来なかった。しかも僕が苛められていることを知っている人物でもあった。僕はなるべくそういう人やその当事者に会うことを嫌っていた。成人式にも行かなかったぐらいだし、同窓会の誘いがあっても行かないだろう。
 数時間一人で考えに考え、卒業式の時に言えなかったことを言おう、という結論に至った。メッセージを送信した。
「久しぶり! ――だけど覚えてる?」
「卒業以来だね! 当然覚えてるよ」
「地元にいるの?」
「卒業して今は地元の銀行で働いてるよ」
 僕は心が躍るのを感じた。受け入れられなかった心が壊れた瞬間だった。
 それから僕たちは読書の話で盛り上がった。相当の読書家らしく、ここまで小説の話で盛り上がった異性は彼女が初めてかもしれない。僕自身が小説を書いているということも言った。お世辞だろうが「読ませてよ」と言ってくれた。
 メールアドレスと番号も聞いた。そして当時好きだったということも伝えた。「全然気づかなかった(笑)」と言われた。今でも好きだとは言えなかった。
 食事に誘おうと電話をした。我ながらよくやったと思う。食事は向こうから誘ってきた。居酒屋で呑もう、と。人生がこんなに楽しくなるとは思わなかった。

 しかし楽しかった日々は突然終わる。僕が酔った勢いで送ったメールを彼氏に読まれて大喧嘩したのでもう連絡はしてこないでください、というメールを受け取った。呑む約束をしていた前日だった。それまで彼氏がいるということは一切匂わせていなかったし、彼氏がいる状態で他の男と酒を飲みに行くなんていう行動を取る女性が信じられなかった。完全に僕の中で彼女に対する思いが崩壊した。僕は彼女がいたときは他の女性と食事はおろかアドレスや番号さえも聞かない。そしてそれ自体を当然のことだと思っていた。そんなことを平気で出来る女性になってしまったとは、と、美化され続けていた彼女が砕け散った。粉々に。

 初恋の女性は記憶の中で留めておいたほうが良いということがわかった。記憶は当時で止まっているんだから、絶対に良い方向へ進むわけが無い。そう悟った二十三歳の五月。それから一年以上が経ち、もう少しで二十五歳になる。四捨五入をすれば三十。一体僕は何歳まで生きられるのだろう。
「そんなのわかるわけねえじゃん」
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れつだん先生
現代文学
20年間で書き溜めた短編やショートショートをまとめました。 公募一次通過作などもあります。 今見返すと文章も内容も難ありですが、それを楽しんでいただけると幸いです。

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