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紫煙
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二人乗りのオープンカーの助手席で煙草をふかしながらぼんやりと景色を眺めている。市街を抜け、山道を抜け、そしてとうとう県外へと。運転席に座る友人Kと適当に会話をしつつ、携帯電話を開き「あと十分ぐらいで着く」と友人Mにメールを打った。途中コンビニに寄って珈琲を買い――最近になって家計簿を付けるようになったので、レシートは捨てないようにしている――また車を走らせる。といっても僕は横で座っているだけだ。風景がより一層田舎になり、備え付けのカーナビが目的地に到着したことを知らせた。畑の真ん中にどすんと佇むアパートからMが姿を現し、駐車場を指す。そこへ車を止め、アパートの階段を上がる。綺麗なアパートだ。確か2LDKって言ってたっけ。
数ヶ月ぶりに会うMは別に変わったところも特に無く――それは僕たちにもいえるのだろうが――「久しぶりだなぁ」と言いながら部屋へと案内された。靴を脱いで中へ入る。内装も綺麗だ。生活観の溢れる台所を通り、大きな液晶テレビが置いてある部屋へと案内される。Mの奥さんに抱かれた赤ん坊が小さな声で泣いている。僕とKはMの奥さんに挨拶をし、KはMの父親に頼まれていたらしく、デジカメでその赤ん坊を何枚も写している。父親となったMは特にこれまでと変わったところは無い。
「コーラ飲む?」
「お、サンキュ」
赤ん坊は哺乳瓶でミルクを飲んでいる。小さい。近づいて手のひらを触ってみる。柔らかい。「抱いてみる?」と聞かれたが僕は断った。なぜかそれ以上触ると壊れてしまうように感じた。
三人で近況を話し合って、僕とKはそれぞれ祝儀を渡した。金額には何日も悩まされた。当初の予定は三万だったのだが一万五千円にした。Kは三万だと後になって聞いた。やはり僕も三万にしておけば良かっただろうか? 結婚し子供が生まれると何かと金を使うだろうし……。しかし金額ではない、気持ちの問題だ、と自分に言い聞かせる。それに当初は二ヵ月後に会う予定だったのが、急遽数日前に今日会うことが決まったわけで、確かに働いているので金はあるし実家暮らしなので余裕はあるが、ううむ、と悩んで一万五千円にしたのだ。
僕たちは中学で知り合い、もうかれこれ十年の付き合いになる。奥さんと赤ん坊を目の前にしながら、未だにMが結婚し子供を作ったということが信じられずにいる。出会って半年で結婚し、そして子供が生まれた。当初は軽い結婚式もする予定だったようだが、金の面で断念したようだ。だから結婚祝いも渡せなかったので、それと出産祝いを兼ねての一万五千円。多くは無くても少なくは無い、と思っている。
「フローリングに直に布団を敷いていたらカビが生えてえらいことになった」とMが言うので、湿気を取るシートを買うために奥さんと赤ん坊をアパートに置いて、僕たち三人は車で二十分ほど先にあるホームセンターへと行った。そこはショッピングモールのようになっていて、僕は小説を買いMは湿気取りシートを買った。小腹が空いたためそこにあるケンタッキーで四千円分のチキンを買い、Mのアパートへと帰った。
「赤ちゃんがいると煙草が吸えなくなったんじゃない?」
夫婦揃って喫煙者だったのを思い出し、セブンスターの箱をポケットから取り出してM夫婦に見せた。
「辞めたよ」
僕は一瞬耳を疑った。チェーンのように吸っていたMがまさか、と。しかしきっぱりと辞めたようで、確かに言われてみれば部屋に灰皿も煙草もライターも無い。この中で喫煙者は僕だけのようだ。いきなり肩身が狭くなったように感じ、僕は逃げ出すようにアパートを出て、階段に座って煙草を吸った。
Mの奥さんと僕はちゃんと喋ったことはない。お互い人見知りが激しいのが原因だろう。
チキンをたらふく食べ、赤ん坊に触るのも喋ることも無くなったので、帰ることにした。夕方の六時。もう既にここへ来て二時間が経っていた。これから帰るとなると、夜の八時は過ぎるだろう。まあ僕が運転するわけではないので、気は楽だが。
Mの父親の家に行き、デジカメを渡した。赤ん坊の画像を見た瞬間、目尻に皺が寄った。額縁に入ったMの小さな頃の写真をわざわざ持ってきて、どれだけ似ているかを力説しだした。あまりの喜びように、見ている僕たちも微笑ましく感じた。初孫のようだ。やはり初孫というのは可愛くてたまらないんだろう。
「早く結婚してえなあ」とKが誰に対してでもなく呟くのを、僕は煙草に火を付けながらただぼんやりと聞いていた。
数ヶ月ぶりに会うMは別に変わったところも特に無く――それは僕たちにもいえるのだろうが――「久しぶりだなぁ」と言いながら部屋へと案内された。靴を脱いで中へ入る。内装も綺麗だ。生活観の溢れる台所を通り、大きな液晶テレビが置いてある部屋へと案内される。Mの奥さんに抱かれた赤ん坊が小さな声で泣いている。僕とKはMの奥さんに挨拶をし、KはMの父親に頼まれていたらしく、デジカメでその赤ん坊を何枚も写している。父親となったMは特にこれまでと変わったところは無い。
「コーラ飲む?」
「お、サンキュ」
赤ん坊は哺乳瓶でミルクを飲んでいる。小さい。近づいて手のひらを触ってみる。柔らかい。「抱いてみる?」と聞かれたが僕は断った。なぜかそれ以上触ると壊れてしまうように感じた。
三人で近況を話し合って、僕とKはそれぞれ祝儀を渡した。金額には何日も悩まされた。当初の予定は三万だったのだが一万五千円にした。Kは三万だと後になって聞いた。やはり僕も三万にしておけば良かっただろうか? 結婚し子供が生まれると何かと金を使うだろうし……。しかし金額ではない、気持ちの問題だ、と自分に言い聞かせる。それに当初は二ヵ月後に会う予定だったのが、急遽数日前に今日会うことが決まったわけで、確かに働いているので金はあるし実家暮らしなので余裕はあるが、ううむ、と悩んで一万五千円にしたのだ。
僕たちは中学で知り合い、もうかれこれ十年の付き合いになる。奥さんと赤ん坊を目の前にしながら、未だにMが結婚し子供を作ったということが信じられずにいる。出会って半年で結婚し、そして子供が生まれた。当初は軽い結婚式もする予定だったようだが、金の面で断念したようだ。だから結婚祝いも渡せなかったので、それと出産祝いを兼ねての一万五千円。多くは無くても少なくは無い、と思っている。
「フローリングに直に布団を敷いていたらカビが生えてえらいことになった」とMが言うので、湿気を取るシートを買うために奥さんと赤ん坊をアパートに置いて、僕たち三人は車で二十分ほど先にあるホームセンターへと行った。そこはショッピングモールのようになっていて、僕は小説を買いMは湿気取りシートを買った。小腹が空いたためそこにあるケンタッキーで四千円分のチキンを買い、Mのアパートへと帰った。
「赤ちゃんがいると煙草が吸えなくなったんじゃない?」
夫婦揃って喫煙者だったのを思い出し、セブンスターの箱をポケットから取り出してM夫婦に見せた。
「辞めたよ」
僕は一瞬耳を疑った。チェーンのように吸っていたMがまさか、と。しかしきっぱりと辞めたようで、確かに言われてみれば部屋に灰皿も煙草もライターも無い。この中で喫煙者は僕だけのようだ。いきなり肩身が狭くなったように感じ、僕は逃げ出すようにアパートを出て、階段に座って煙草を吸った。
Mの奥さんと僕はちゃんと喋ったことはない。お互い人見知りが激しいのが原因だろう。
チキンをたらふく食べ、赤ん坊に触るのも喋ることも無くなったので、帰ることにした。夕方の六時。もう既にここへ来て二時間が経っていた。これから帰るとなると、夜の八時は過ぎるだろう。まあ僕が運転するわけではないので、気は楽だが。
Mの父親の家に行き、デジカメを渡した。赤ん坊の画像を見た瞬間、目尻に皺が寄った。額縁に入ったMの小さな頃の写真をわざわざ持ってきて、どれだけ似ているかを力説しだした。あまりの喜びように、見ている僕たちも微笑ましく感じた。初孫のようだ。やはり初孫というのは可愛くてたまらないんだろう。
「早く結婚してえなあ」とKが誰に対してでもなく呟くのを、僕は煙草に火を付けながらただぼんやりと聞いていた。
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