レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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感情音(バッド・トリップ)

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「死ななければならない」という声に従って、僕は大量の薬と酒を飲んだ。それだけだ。

 脳の奥の方で、怒りや悲しみといった一般的な感情が渦巻きさ迷い続けている。空は黒く淀んでおり、風は生ぬるい。僕は天井にある黒い染みをじっと見つめている。感情が入っては行け無い方向へ入ろうとするのを僕には止めることができない。一度視界がぶつりと途切れ、また黒い染みが視界に広がる。何度となく繰り返される悪い記憶の中に立ちすくんでいる僕は大声を張り上げながら何かを叫んでいるが、その声は誰にも入らない。染みが大きくなっていくような気がしたが、多分気のせいだろう。喉はカラカラに渇いているがそれをどうしたいというような思いは一切無い。ただ当たり前のように煙草を手に取り、口に咥え、火を付けて、煙とニコチンを体内に入れる。そして感情が入ってはいけない方向へと入ったのを感じた。
「死ななければならない」という声に押しやられながらも僕はそれに抵抗し続けていた。「どうして?」「なぜ?」という当たり前の言葉が宙にさ迷いながら窓の外へ消えていく。「今の人生に不満は無い」「仕事だってあるし、金だってある」という現状を報告するが、感情は首を横に振り続けている。
「多分もう無理だろう」
 感情の無機質な声を心の奥底で聞きながら僕は涙を流しながら目の前に広がる大量の薬を手に取った。前日、もうどうしようもなくなった僕が精神科へ行き、貰った薬だ。ゆっくりと体を起こすと天井の染みが目に入らなくなった。窓を閉めて鍵を掛けカーテンを閉めて薄汚れた座椅子へ座る。足元に転がるビールの缶を開け、口腔に無理やり流しこむと目の前がどろりと歪んだ。
 ははは! 一体何がどう無理なんだ? 何も不自由は無い。言わば幸せだ。現状に納得している! 強いて言うなら……。
 太陽が沈み部屋が暗くなっていく。パソコンの光に反射された薬の瓶が誘惑の手を僕の肩へかける。僕を囲むようにして孤独という名の闇がただじっと座って、僕を眺めながら、隙あらば手を忍ばせようとしている。
 その時になってようやく僕は抵抗が無意味だという事に気づいた。余の中に意味のある事など無い。僕が生きているという事でさえ、ただ生きているから生きているというだけだ。無意味な事を終わらせてもそれは無意味でしか無い。
「君は深く考えすぎてしまう癖があるね。どうしても全てにおいて自分が悪いと考え込んでしまう。それはよくない。別に君は悪くない」
「さすがの僕も、僕の知らないところで殺人事件があったとして、それを自分のせいにはしませんよ」
「とりあえずそういう考えを無くすための薬を処方しよう。あとは……不眠だね。毎日ビールを六本飲んでいる、と。ビールは良くない。酒は薬なんだ。それもとてもとても悪い薬。それを飲まなくてもゆっくり眠れる薬も処方しよう」
 今日一日に飲む薬はもう既に何時間も前に飲んでいた。睡魔は一切無いし考えが変わる予定も無さそうだ。市販の睡眠導入材を何十錠も口に含み、無理やりビールで流しこむと、より一層目の前がどろりと歪んだ。
「死ななければならない」
 パソコンの向うでは一人の女性が涙を流しながら僕の行動を止めようとしていた。処方された二週間分の薬全てをビールで流しこむとより一層しかいがどろりと歪み、ながら、その、女性の、顔を思い返しながら、なぜ死ぬのかを考えるが、考えれば、考え、る、ほど、何も出て来ない。無が。無が。
「何で死ぬなんて言うんですか」
 一度会ったぐらいの僕に対してそういう事を言えるというのは当たり前の事であり普通の事なんだろう。
「何でなんだろうね」と言った事は覚えている。そのまま睡眠導入材を二百錠近くビールで流しこむと思考と視界が落ちた。


 遠くの方で窓ガラスが割れる音がする。僕を見て何かを言い合っている人がいる。思い出せない思い出せない思い出せない思い出したく無い。

 目を開けると天井の染みはなくなっていた。その代わり、家族と医者が心配そうな顔で僕を見下ろしていた。
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